二人のプラグレス⑥
昨日は、近くの居酒屋に行って結局、自分達のバンドの話しかしていなかった。
あとから、姫の話しを聞いてやればと後悔した。
最終日。といっても帰るのは、明日の朝。
今日は、朝から姫とランチに行って観光する。
夜は、姫と一緒に大志に会う予定だ。
俺は、帰り仕度もほどほどに姫のホテルへと向かった。
─────ドンドンドン
「姫!!いるか!?」
あいつは、何をやっているのかスマホにも出なかったので、今こうやってドアを叩いている。
「お姫さまでもいるのかしら…」
周辺のおば様達の声が聞こえてきた。
姫。このアダ名に慣れすぎて忘れていたが、端から聞くとかなりイタイ気がする。
────ガチャ
「なんだぁサウロもぅ来たのか。ふぁぁ」
今起きたのかアクビをしながら姫が出てきた。
「とりあえず中に入れてくれ!」
俺は、無理やり部屋の中へ入った。
「ちょっ!ヤダ!キャッ!」
入って行くと、そこには脱ぎ捨てられた下着や昨日の夜に出したのであろう服が散乱していた。
「なんだ。すまんな」
俺がそう言うと姫は、拳を振り上げた。
気づくと、俺はソファの上だった。
部屋は片付けられていて、姫はスマホ片手にコーヒーを飲んでいた。
「起きたかー。行くぞー」
俺は、起き上がり、ふと呼んでみたくなった。
「なぁ姫星。」
「ぶひゅー。なんだよ急に!」
姫はコーヒーを吹き出した。
「なんか急に呼びたくて」
「死ね!」
俺達は、外に出た。
もともと行きたかった場所をお互い言い合って、それなりの時間を一緒に過ごしていた。
「なぁ、そういえば、母ちゃんとはどうだったんだ?」
「あぁー。それね。まぁ普通だよ」
「普通ってなんだよ」
「関係ないじゃん」
「関係ないってわけでもないだろ」
「もぅー。もともとママとは、仲良かったし甘えてたの」
呆れた様に姫は、言った。
「連絡しなくて、ゴメン」
「それならいいけど…」
長い間会ってなかったと言っていたが、仲がよかったのなら一安心した。
親が離婚した。
というのは、どういう気持ちなのだろう。
俺の親は、二人とも健在だしおそらくラブラブな方だろう。
子供の頃そういうことが起こってしまったら、感情的に、なんらかの問題が起こってもおかしくないと思う。
だからといって、他の人と違うとまでは言わないが、きっと同年代より心が成長してしまうのだろう。
「ねぇ!見て!高ぃ!人がゴミだ!」
俺達は、有名なタワーに来ていた。
「ゴミの様だ。だ!こんなところで、紛らわしいこと言うな!」
「ちっちぇなぁ」
ジト目で俺を見るその目を俺は、ふさいでやった。
「ちょっ、何をする!」
ジタバタと暴れる姫に、周りの視線が気になって来たところで、俺達はタワーを降りた。
「あんた、高いとこ怖いだろ?」
「なんで?」
「足が震えてた」
「うるせぇ」
姫の行きたかったパンケーキの店を出ると、もう夕方だった。
「今からどうするんだ?」
「さぁ?」
「なんだよ!ちゃんと連絡しとけよ!」
姫が少しずつ不機嫌になるのがわかった。
スマホを見ると、大志から連絡が入っていた。
『駅前公園広場に来い』
「だそうだ」
「ふ~ん」
俺達は、指定の場所に向かった。
大きな公園だった。
芝生が大きく広がっていて、駅からの人達が行き来していた。
そして、そこにはライヴ機材が置かれていた。
「これって?」
「お前ら路上ライヴしてみたいって言ってただろ?知り合いに少しの間できる様に頼んだんだよ」
「おぉ~」
姫は、パチパチと拍手していた。
そこには、イスとアコースティックギターとアンプ、そしてカホンが置かれていた。
カホンとは、路上ライヴではあたりまえにあるドラムの代わりにリズム叩くものだ。
これがあると、路上ライヴでのグルーヴが一段階よくなる。
「俺が、カホンするよ」
そう言って大志が座った。
俺と姫は、隣にあるイスの腰掛けギターを持った。
「人のギターってなんか新鮮!!」
姫は、嬉しそうに笑っていた。
「何の曲するんだ?」
俺達は、話あってギターを鳴らした。
邦楽fuzzycontrolで
1℃
この曲を、何故、選らんでしまったのだろう。二人も知っていたというのもあったけど。
なぜか、〝今〟に一番あっている気がしていた。
姫と俺のギターが大志のカホンのリズムに乗り、寒空の下で俺は歌った。
ノリのいいテンポで立ち止まる人も多かった。
少しずつ人が集まってくふ。
それとも、みんな姫を見ているのだろうか、姫は目立つからな。
火照っていく身体に冷たい風が吹いてきているのに、それでも俺は熱くなっていった。
曲が終わると、集まった人達から拍手をもらった。
路上ライヴは、初めてだったがこういうのもいいな。と思った。
それから数曲して時間がきた。
「ありがとうございます」
俺達は、お辞儀をして機材を貸してもらった人達と交代した。
帰ろうとした時だった。
「すみません。私のこういうものなんですが」
姫がスーツを着た女性に話かけられ何かを渡されていた。
「は…い?」
「芸能に興味ありませんか?モデルからでも…もしよろしければ、今からお時間ありませんか?」
「うぅ…」
姫は困っていたのか、俺に目を向けた。
「あの、何か?」
「彼氏さんですか?先程のライヴ見ていたのですが…彼女さん素質があると思うんです!」
「はぁ…」
「あぁ…すみません。デート中ですよね。よろしければ、またご連絡下さい。」
そう言って慌てる様に彼女はどこかに消えていった。
姫が、貰ったのは名刺だった。
【エックスライヴ 中野紫音】
と書かれていた。
そこは大手芸能事務所で俺ですら知っている場所だった。
「お前…なる?」
俺は、驚きつつ姫を見た。
「なるかよ!」
姫は、真顔でそう言った。




