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ローディーの資質④

社会人の俺が、姫星をこのまま学校へ行かないことを放っておいていいわけがない。

それに…たぶん俺がいなくても、姫星は前に進めるだろう。


俺が姫星の一歩を停滞させているんじゃないか、なんて思いもした。

誰かが言うだろう。

お前が背中を押してやればいい。

そんなに俺はあさはかではない。

それに、そんな人間できてもいない。

誰かを応援することはできても、俺は一緒に何かをするってことはもうできないんだと思っていたから。

決めつけて、決めていたから。


それから俺はまた、いつもの毎日に戻っていった。


いつもと同じ仕事をして、帰って寝るだけ。

たまに、高校の友人に会ったりもした。

社会人や大学生の友人もいるけど、今が楽しい。

そう言っていた。


違うな。


楽しいことをしていた。

かな。


俺は、今が楽しい。


なんて、口が裂けても言えなくて、そんな思いも見えなくて今日も仕事へ俺は行く。


一年が過ぎた頃だった。


今まで会わなかったのが嘘みたいだった。

時間がそうした。というのもあるだろう。

でも、会おうとしないと会えるものでもない。会いたくなかった。

そして、会いたかったのだろう。俺は。


マンションの廊下。

また、俺は彼女に出会ってしまう。

驚いた。止まっていた時間が進み出すような。そんなどこかのテレビで聞いたようなセリフだが、それでも、そんな感覚だった。

彼女は、別人かと思うぐらい人生の一歩を進んでいた。

一歩じゃないな、今思えば学生の頃の一年は、もしも人生が100歩しかないのなら、10歩く以上進んでいくのだろう。


見た目だけじゃなくて、仕草、口調、そして、その言葉に俺は救われた。


「ねぇ、あーしのマネジャーになってよ」


唐突だった。

「は?なんだよその、しゃべり方」

思わず笑ってしまった。


「そんなのどーでもいいんだよ。いいから行くよ!」


そう言って彼女は、また俺を外へと連れ出してくれたんだ。






「聞いてます?秋山さん?」

俺は、ベースの蓮弥にことの事情を聞きにカフェに呼び出されていたのである。

「うん、聞いてる」

俺は、頼んだコーヒーを飲んで一息ついた。


「近藤さんのことだから、どうせ行ったと思いますけど、このことは、俺達にも相談してもらわないと困りますわ!」


年下の友達…この場合、メンバー、友人でいいのだろうか。

友人にここまではっきり言われるのは、初めてだった。

しかし、ぐうの音もでない。


────チャリンチャリン


蒼馬も来たようだった。


「やっほー雄太さんもこんにちわー」


蒼馬は、蓮弥の隣に腰かけた。

いつもの練習の時とは違う二人。

蓮弥は、少し伸びた無精髭(ぶしょうひげ)に蒼馬は、いつもよりさらにメイクしているのがわかった。


「お似合いだなぁ二人とも…」


「えー。聞いてました?秋山さん」

もう、気力が抜けている様子だった。

申し訳ない。


「二人ともごめん」


「いや、いいんすよ。すごいと思ってるんすよ!秋山さんコミュ力高いし、俺じゃぁ絶対にできないことを、やってると思います。けど!報・連・相!忘れないで下さいね!」


「は…い」

年下だけど、蓮弥はすごいな。ちひろくんとも信頼しあっている感じがあるし、最近入った姫と蒼馬だって仲がいいわけだし。

なにより、物をはっきりと言う。

そして、気を遣って言葉を選んでくれているのがわかってしまう。


「悪いな…二人とも俺、頑張るよ…」


「頑張るって何を?」

蒼馬は、ニッコリも笑ってそう言った。


「え…マネジャー…」


「そーいえば、マネジャーって何をするんだろうね。蓮弥」


「そりゃあ、一番はスケジュール管理だろ?それから…」


「たぶんね、雄太さんにはみんなローディーとしての役割を期待しているんだと思うんだよ僕は。」


「ローディー?」


「うん。そ。楽器のメンテナンスとかもそうなんだけど、メンバーのメンタル面のサポートかな」


「だからね、僕思うんだよ。マネジャーの役割なんてもうすでに雄太さんはできているんだよ。なにかができていない不安や焦りが今回の件に繋がったんじゃないかってさ」


「そうですよ!だから俺らもっと頼って下さいよ。俺達は雄太(・・)さんの応援なしではもう舞台に立てそうにないんで。」


みんなで何かをするってやっぱり楽しいな。

そんなことを、俺はこんな時に思っていた。

一人だったあの時から誰かと何かをしたかったんだろう。


誰でもよかったわけじゃない。

俺は、今の仲間達と未來へ進んで行きたかったんだ。

ただそう思った。


「よし!3人で飲みに行こう!今日は俺のおごりだ!」


「えー。どうしたんすか急に…」

「やったー!」


それでも、俺はまだまだだ。

だからすぐに、彼らに追い付いてみせる。

俺は、そう決心した。

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