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ローディーの資質③

どうにかこうにか、ちひろくんは説得できたけど秋山雄太という存在は、マネージャーに向いているのだろうか。

俺自身がそう思っていた。


バンドflapのマネージャーを最近初めた。

何をやるかは、はっきり言ってよくわかってないが、誰かを応援したいと思っていた。


昔の話だ。


「雨って星みたいだよね。」


そう言って、彼女は窓辺から

空へ手を伸ばした。

他愛のない小さなその言葉は、僕にはとても大きく感じた。


雨が屋根をつたって雫が膨らみ、したたって、ぽつぽつと鼓動に合わさっていく。


キラキラ見える雫は全て、自分を反射して、写しているみたいだった。


「そろそろ窓を閉めようか。」


僕がそういうと君は、『もう少しだけ』と、しばらく空を見上げていた。


彼女の名前は、糸ノ瀬(いとのせ) 姫星(きてぃ)

俺が、初めて好きだと言った子。


母は、俺が高校2年の時亡くなった。

突然の(やまい)だった。

前日は元気だったし普通に喋っていた。

母さんは、病気がちでもなく体が弱い方でもなかったと記憶している。


父さんが一番つらかったと思う。

母さんがいなくなって、父さんは、いっそう仕事一筋になっていった。

父さんは、部品の工場を経営していて、

俺という存在が支えになることができたらと思っていた。

高校卒業前には、もう父さんの工場に就職を決め働いていた。


何かに逃げなかった父さんを俺は、尊敬している。


だが父さんは母さんを思い出すからと引っ越しを決意したのはショックだった。

父さんも苦渋の決断だったと思う。


新しい未来を見るために。


そんな、当たり前の理由を周りは最低と(ののし)った。

決めつけて、勝手に考察して、バカらしい。

お前らは父さんじゃない。

毎日が少し暗くて、楽しいことなんてなにもなかった。

ただ生きるだけ。


そんな時だった。

引っ越し先のエレベーターで彼女と出会った。


俺は、ついいつもの男子校だったノリで話しをしてみた。

ナンパって言われるかもしれない。

一般的には、ナンパだろう。

でも、無視された。


何をやってるんだろうと思って、下を向いて苦笑いをした。


まだ俺は若いのにとか、友達は今何しているんだろうとか、考えない様にして、考えていた。


誰かを想って楽しんでいた。


とある日、彼女は俺に挨拶をしてくれた。

お下げ髪が可愛くて、メガネの奥のツリ目がギャップ萌え…だった。


何も考えることがなかっただけなのかもしれない。

俺は、彼女のことばかり考えていた。


初めて彼女の名前を知った。


また名前が可愛いくて、何もない俺には、刺激的だった。

話してみると、どうやら引き込もっているみたいだった。

何かあったのだろうか。

いじめられているのかもしれない。

そんなことばかりが頭からはなれない。


たまに、マンション周辺で会って話しをしていた。

働いていた父の工場がマンションの近くにあったことから、たまに外に出る彼女が見えて、わざと休憩に入ったりして偶然を装っていた。


ただ可愛いかった…。


可愛いは、正義だ。

なんて言葉があるけれど、きっとこれは誰かにとっての話なのだろう。

数ある人間がいる様に、一人一人に正義がある。

今、俺にとっての第一優先事項。

正しいと思う行動。


それは!


「なぁ、好きになっちゃったから付き合おうよ!」

何度も会って、彼女もまんざらでもないことに気づいた時は、胸が高鳴った。

願いや、夢が叶うっていうのは、こういうことなのかもしれない。

と思っていた。


俺達は、語りあった。

お互いのたりない部分を埋めるように。


話すのが楽しかったんだその時は。

いや、おたがいに自分を肯定(こうてい)してくれる人がほしかっただけだったんだと思う。


付き合った週の終わり頃に有名なバンドのライヴに誘われた。


音楽を聞いてこなかった俺だけど、新しいことを覚えるのには、抵抗なかった。


海外アーティストに胸を打つ。

よく歌詞も理解せずに音と感覚だけで良し悪しを判断する。

そんな気持ちは俺にはわからなかったけれど、そういう文化があるんだと思うと興味をそそった。


ライヴ当日。

俺は、今日は手を繋ごうと決心してライヴ会場へ赴いた。

姫星は、人混みご得意じゃない様子だったので俺がリードしてあげよう考えていた。


電車の中、そんな俺の気持ちをよそに彼女は好きなバンドの話しをずっとしてくれていた。

今日のバンドがよほど楽しみなのだろう。

俺も自然と笑顔になった。


こんなに好きなこと俺にはないな。

そう思った。


ライヴ会場へつくと、人だかりができていた。

(ゆが)んでいるけど列になっている。

こういうのを見ると並んでる人全員に声をかけて真っ直ぐしたくなる。

そんな俺だった。


「ねぇ寒いね」

そう姫星が言うと、俺はすかさず手を差し出した。

はぐれないように、迷わないように、

なんて。


ライヴ会場に入るとすごい人だかりだった。

舞台は、確かに高いけど、なんで見る客が同じ高さなんだと思った。

首が疲れそう。


でも、ホール特有の匂いとライヴ会場にいる人達の熱気に当てられて、俺もわくわくしていた。


俺の知らない何かが始まる。


そう感じた。


耳の奥に響くサウンドが脳に響いて始まった。

それは、目すらも揺れてしまいそうな、音楽だった。

周りのみんなが笑顔じゃなくて、嬉しい顔になっている。


初めて見た。

でも感じてしまった。

俺は、ここにいていい存在じゃないんだと痛感した。


ふと、横を見ると姫星は泣いていた。

嬉しい顔で涙が溢れていた。


理由がわからなかった。

ただ楽しいじゃないのかもしれない。

感動?感激?俺のしらない感情がそこには、あった。


最後まで、ライヴを見終わる頃には俺は、また何もわからなくなっていた。


自分が何をしたいのか。


ただ生きる。

だけでわダメなのかもしれない。

楽しく、(らく)に生きたい。

そんな甘えが俺の顔を下に向けた。


帰りの電車、俺は何も喋らなかった。

俺は、彼女を不安にさせたかったんだと思う。


最低だ。


駅のホーム。

もう夜も遅い。


好きじゃなくなったわけじゃない。

「別れよっか」


「なんで!」


俺は、姫星を幸せにしてやれないと確信してしまった。

「なんというかさ、俺じゃ姫星を幸せにしてあげられないと思う」


「意味わかんない」


嫌だったのかもしれない。

「まだ1週間だし、もう終わりにしよ」


自分がもう手に入らない時間を彼女が持っていることが。


これが姫星のためになるんだと、いいわけしていた。


「なんでよ!バカ!」

姫星は、泣いていた。


俺は、その場を逃げる様に後にした。



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