羞恥心ブレイク①
俺と、雄太は姫を尾行していた。
「いつのまに仲良くなったんだ?あいつら」
「いや、同い年だし仲良くもなるでしょ?」
「そうか…」
昔から、俺は上下関係というものを気にしていなかった。
学生の頃していた部活も、敬語さえ使っていれば、先輩との冗談なんてよくしていた。
厳しい人はいなかったし、その辺は恵まれていたのかもしれない。
年上だから距離を置いている、というのはあるのかもな。
「ちひろくんは、ないの?音楽関係の知り合いで距離を置いている人とか」
「んー。付き合っている人はみんな仲いいからなぁ」
「そういう人いるわぁ、人付き合いが天性の才能のみたいな奴、やだやだ」
そう言って雄太は、呆れた表情をしていた。
そんな話しをしながら、慣れた道を通っていると、いつものスタジオ前に来ていた。
「なんだよ、練習かよ。」
同じバンド内で、恋愛なんてもってのほかだ。
俺は、胸を撫で下ろした。
「いや、まだわからないっしょ!?」
なぜかテンションがあがっている雄太は、俺の肩に手を置いて意味深な笑みを浮かべている。
なんなんだこいつわ。
「変な顔するな!」
俺達は姫がすぐ出てこないか、しばらく待ってから、スタジオの5階へとエレベーターで上がった。
スタジオの前の受付用紙には、a-1世永利 の名前があり、俺達はスタジオを覗いて見ることにした。
いつもより小さい練習スタジオ。
窓を見てみると蓮弥の姿が見えた。
とっさに雄太の肩を引き俺達は窓の死角へと移動した。
「どうしたの?ちひろくん?」
「あのスタジオだ、右端のとこ!」
なぜか小さい声になってしまった俺を見て雄太は、笑っていた。
「あーなるほど」
スタジオの厚い壁の向こうから、うっすらと音楽が聞こえてくる。
その曲は、聞いたことがない曲だった。
どこか悲しげな、それでも前を向いて、一つの未来に向かって行こう、そんな曲…。
誰かに似ていて、語りかけられた様に俺は感じた。
しばらく聞いていて、その曲が終わったのがわかった。
「雄太、今日はもう帰ろう。」
俺は、そう言いエレベーターに向かった。
「ちょっと!待ってよ!どーしたのさ!?会って行こうよ。なんでもなかったんだし!」
「いいんだよ。もうそんな気分じゃない!」
俺は、そう言いスタジオの下に降りたが
その後も、あまりにも雄太がうるさいので、居酒屋みかんで飲み直して帰った。
数日後、この5人での初めてのライブをする前日だった。
俺達は、オリジナル曲もみんな覚えて様になってきていた。
集まっては感覚的な、注意をし合ってディスカッションする。
腹が立つこともあるが、音楽ってのは、そんなもんだと俺は、思っている。
そんな時、姫が口を開いた。
「ねぇ、ブルースターってダサくね?」
「気にしたことなかったわ」
蓮弥は、不思議そうに頭をかいていた。
「そうか?俺は、カッコいいと思うんだがな」
「僕も思ってた…なんでそもそもこの名前なの?」
俺は、この名前の由来を知らなかった。
確か佐山がつけたはずだ。
もう3年もこのバンド名でやっていて、愛着があるんだが…。
しかし、2人もメンバーが辞めて、新メンバーが3人も加入した…。
変え時なのかもしれない…。
「そうだな…。でも次のライブは、ブルースターで出る。その時に新しいバンド名の告知をしよう!」
今まで俺達のバンドが好きだと言ってくれたファンが急にバンド名を変えるとわからなくなる。
「じゃぁ今日は、練習は、このくらいにして、新しいバンド名でも考えるか?」
「それは、ダメでしょ。明日ライブなのに」
蒼馬が不安そうに言った。
ごもっともだ。
「じゃぁ、あーしが考えてくるから、決定ね」
バンド名ってのは、決めようとしても、なかなか決まらない。
意見を出しあって、適当に決めたら意外と愛着がわいてきて、気に入ってくるものだ。
俺も3組ほど、バンドをやってきたが、だいたいそんなもんだ。
「それじゃぁ各自で、考えてライブ前に決めることにしよう」
「おい!無視すんなし!」
俺達は、そのあと時間ギリギリまで練習してみんな帰ろうとしていた。
「ちひろくーん、一緒に帰ろ!」
「おう、ちょっと1本だけいいか?」
そう言って俺は、雄太を待たせて屋上へと上がった。
────ガチャ
屋上のドアを開くと、姫が一人タバコを吸っていた。
「おつかれ」
「チッ」
こいつは、いつになったら舌うちを直すのか…
なんなら、最近のこいつの舌うちは、コンニチハーと言っている様にも思えてくる。
そんなことを思い笑みをこぼしてしまった。
「何笑ってんの?キモっ」
いつもの、ツンデレがとんでくる。
これをツンデレというのかは、わからんが。
俺は、タバコに火をつけた。
「なぁ、お前昔からそうなのか?」
「モテてモテてしかたなく、こんな性格になったの!」
パイプイスの上に、ヤンキー座りをしてダルそうに姫は、言った。
「はいはい」
「なんか、あんた最近あーしのこと、子供扱いしてない!?ムカツク!」
「そうかそうか、でもお前は俺の大切なバンドメンバーだ!家族みたい思ってるんだぞ!」
「ホント?」
「あぁ本当だ!」
「ハゲて、死ね!」
そう言って姫は、タバコの火を消し、下に降りていった。
こうやって、あいつとはコミュニケーションとっとかないとな。
姫と一緒にいたら何をしゃべっていいかわからなくなる。
異性だからなのか、憧れなのか、はっきりとはわからないけれど、あいつと一緒に音楽をやりたいというこの感情は、本物なのだと思う。
俺は、待たせてる雄太には、悪いがあと1本だけと、タバコに火をつけた。
────ガチャ
屋上の扉が開いた。
「サウロ!お前雄太狙ってんだろ!?」
姫が、鬼の形相で向かってきて、俺の胸ぐらを掴もうとした。
俺は、それを止めよう一歩足を前に出した。
──スポッ
俺の胸の中に姫の華奢な身体がスッポリと収まり収納されてしまった。
ちょうど、俺の顔の真下、姫の顔が見える。
160cmぐらいだろうか…。
つい、手を姫の後ろに回して頭をポンポンと撫でてしまった。
「くぅっっ…ん」
姫は、聞いたことのない乙女な声をあげていた。
「あっ…スマン」
俺は、手を離して、後退りした。
「がえ〝る〝」
変な声をまた出して姫は、帰っていった。
近くから見る姫は、タバコの匂いがして、ツインテールがいつもより可愛くて見えた。
「おいおい、俺…マジかよ。」
俺は心臓の鼓動が早くなるのを感じてしまっていた。




