表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/64

愛情のジャムセッション③

「なぁ、お前ら最近、近くないか?」


年も開けてしばらくして、練習中にギターの正志(まさし)さんが、そう切り出した。


「僕も思ってた。二人なんかおかしくない?」

ドラムの蒼馬(そうま)さんも気づいていたみたいだった。



「あぁ。(かく)すつもりは、なかったんだが、俺と蓮弥(れんや)は、付き合ってるんだ。」

凛さんは、そう笑顔で言ってくれた。


俺の鼓動は高鳴り思わずニヤケてしまいそうになったけど、そんな想いは、すぐに後悔へと変わってしまったんだ。



「きしょ。お前ら男同士じゃねぇか。」



正志さんは、そう言って眉間にシワを寄せ、ギターを置いた。


あぁ、そうか俺達は普通の人と違うんだとその時の俺は、気づいた。

気づかないフリをしていたのかもしれない。

それでも、好きという気持ちは人間みんな同じだろ?

そんな悲しさと、怒りが俺の感情にフタをする。


「お前らがそんなんじゃ、俺は、このバンド辞めるわ。」

正志さんは、機材を片付けて出ていってしまった。

正志さんは昔から、強面(こわもて)で筋が通っていないことを嫌う人だったし、そこがカッコよかったけど、わからなかったんだろう俺達のことが…。


「僕は、なんで言ってくれなかったのかが、わからないよ。」

ドラムの蒼馬さんも、そう言って出ていった。


蒼馬さんは、年上っぽくないところが話しやすくて、すごく俺にも優しくしてくれていた…。


俺は、そんな二人に知らない内に壁を作っていたんだろう。


自分の理解できないことを理解しようとしない。


そんな、傲慢(ごうまん)で、無知と言える普通の人の事を俺達は、責めることは出来ないし、わかってほしいとも言えない。


理解してもらおうともせずに。


俺と、凛さんは、何も言葉を()わすことなく、お互い下を向いたまま機材を片付けてスタジオを出た。


「なぁ、俺達このままでいいんだろうか…。」

帰り道、凛さんは顔を上げて夕暮れの空を見て言った。


俺は、言葉を選んで、言葉を探して、言葉を並べてみたけれど、何も返す言葉が見つからなかった。



人生で後悔していることがあるか?

なんて聞かれたら、俺は、まずこのことを想いだすだろう。


この時、俺が凛さんの支えになることができたらあんなことには、ならなかったのかもしれない。


それから半年間、俺達のバンドはそのまま自然消滅して凛さんは、学校には来なくなっていた。





朝のホームルーム、俺はいつものように机の横にカバンを置いて席に座ると、同級生が、やけにざわざわしているのに気づいた。

「おい!蓮弥!お前あの先輩と仲良くなかったか?」


友人の一人が、話しかけてきた。


「は?誰だよ?」


「えーと…確か、花みたいな名前の…」


「…凛りん先輩か?」


そう俺が言うと、学校のチャイムが鳴り、担任が教室のドアを開けた。

俺を含む生徒は、話しを止め席に座る。


教壇に立ってため息をついた担任の教師は、こう言った。


「噂になってると思うが、三年の西園寺さいおんじ 凛りんが昨日、事故で亡くなった。葬式は親族だけで…」


時間か止まったかのようだった。


息を飲み、頭で俺は考える。

夢だと思った、何かの冗談だろう、担任を疑ったけれど、そんなこともあるはずがない。


信じられなくて、気持ちが押さえられなくて、いてもたってもいられなくて、俺は席を立ち学校を出た。


その時の俺は、見えているものが朧気おぼろげで、ただ凛さんに会いに行きたくて、無心で駅に入り、俺は電車を待っていた。


反対側に見える駅のホームは、まるで今いる自分の世界と違うような、そんな気がして、一歩踏み出そうとした。


「探したよ!蓮弥!!」


振り向くとそこには、蒼馬さんと、正志さんがいた。

二人は、息を切らしていた。


正志さんが俺の前まで来て、俺の胸ぐらを掴んだ。

「お前、あいつと最近いつあったんだ?」


「半年ぐらい前…」

正志さんは、その言葉を聞いて拳を俺に振り上げた。


「まさしくん、止めて!」


蒼馬さんは、振り上げられた拳を俺の前で、庇ってくれた。

「僕達も、悪いだろ!れんやくんのせいにしないで!」

俺は、蒼馬さんの大声を初めて聞いたかもしれない。


「あぁ…そうだな…悪かった。」

そう言って二人は、駅のホームのベンチに座った。


「お前も座れよ。…俺な、こないだ凛と話したんだよ。」

そう正志さんは、口を開いた。


「俺に謝ってきて、なんとかまたバンドできねぇかって…あいつの謝る顔を見てたらよ…なんで俺あんなにキレてたのか、わからなくなってきて…」


自分のことばかりを気にして、凛さんと距離を置いてしまった自分、情けなくて後悔しかない。


好きだったのに。


ただ、他人の目を気にして…


俺の見えている世界がはっきりと滲にじんでいく。

出しきれない気持ちが膨らんで声が出た。



俺達は、涙を流していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ