愛情のジャムセッション③
「なぁ、お前ら最近、近くないか?」
年も開けてしばらくして、練習中にギターの正志さんが、そう切り出した。
「僕も思ってた。二人なんかおかしくない?」
ドラムの蒼馬さんも気づいていたみたいだった。
「あぁ。隠すつもりは、なかったんだが、俺と蓮弥は、付き合ってるんだ。」
凛さんは、そう笑顔で言ってくれた。
俺の鼓動は高鳴り思わずニヤケてしまいそうになったけど、そんな想いは、すぐに後悔へと変わってしまったんだ。
「きしょ。お前ら男同士じゃねぇか。」
正志さんは、そう言って眉間にシワを寄せ、ギターを置いた。
あぁ、そうか俺達は普通の人と違うんだとその時の俺は、気づいた。
気づかないフリをしていたのかもしれない。
それでも、好きという気持ちは人間みんな同じだろ?
そんな悲しさと、怒りが俺の感情にフタをする。
「お前らがそんなんじゃ、俺は、このバンド辞めるわ。」
正志さんは、機材を片付けて出ていってしまった。
正志さんは昔から、強面で筋が通っていないことを嫌う人だったし、そこがカッコよかったけど、わからなかったんだろう俺達のことが…。
「僕は、なんで言ってくれなかったのかが、わからないよ。」
ドラムの蒼馬さんも、そう言って出ていった。
蒼馬さんは、年上っぽくないところが話しやすくて、すごく俺にも優しくしてくれていた…。
俺は、そんな二人に知らない内に壁を作っていたんだろう。
自分の理解できないことを理解しようとしない。
そんな、傲慢で、無知と言える普通の人の事を俺達は、責めることは出来ないし、わかってほしいとも言えない。
理解してもらおうともせずに。
俺と、凛さんは、何も言葉を交わすことなく、お互い下を向いたまま機材を片付けてスタジオを出た。
「なぁ、俺達このままでいいんだろうか…。」
帰り道、凛さんは顔を上げて夕暮れの空を見て言った。
俺は、言葉を選んで、言葉を探して、言葉を並べてみたけれど、何も返す言葉が見つからなかった。
人生で後悔していることがあるか?
なんて聞かれたら、俺は、まずこのことを想いだすだろう。
この時、俺が凛さんの支えになることができたらあんなことには、ならなかったのかもしれない。
それから半年間、俺達のバンドはそのまま自然消滅して凛さんは、学校には来なくなっていた。
朝のホームルーム、俺はいつものように机の横にカバンを置いて席に座ると、同級生が、やけにざわざわしているのに気づいた。
「おい!蓮弥!お前あの先輩と仲良くなかったか?」
友人の一人が、話しかけてきた。
「は?誰だよ?」
「えーと…確か、花みたいな名前の…」
「…凛りん先輩か?」
そう俺が言うと、学校のチャイムが鳴り、担任が教室のドアを開けた。
俺を含む生徒は、話しを止め席に座る。
教壇に立ってため息をついた担任の教師は、こう言った。
「噂になってると思うが、三年の西園寺さいおんじ 凛りんが昨日、事故で亡くなった。葬式は親族だけで…」
時間か止まったかのようだった。
息を飲み、頭で俺は考える。
夢だと思った、何かの冗談だろう、担任を疑ったけれど、そんなこともあるはずがない。
信じられなくて、気持ちが押さえられなくて、いてもたってもいられなくて、俺は席を立ち学校を出た。
その時の俺は、見えているものが朧気おぼろげで、ただ凛さんに会いに行きたくて、無心で駅に入り、俺は電車を待っていた。
反対側に見える駅のホームは、まるで今いる自分の世界と違うような、そんな気がして、一歩踏み出そうとした。
「探したよ!蓮弥!!」
振り向くとそこには、蒼馬さんと、正志さんがいた。
二人は、息を切らしていた。
正志さんが俺の前まで来て、俺の胸ぐらを掴んだ。
「お前、あいつと最近いつあったんだ?」
「半年ぐらい前…」
正志さんは、その言葉を聞いて拳を俺に振り上げた。
「まさしくん、止めて!」
蒼馬さんは、振り上げられた拳を俺の前で、庇ってくれた。
「僕達も、悪いだろ!れんやくんのせいにしないで!」
俺は、蒼馬さんの大声を初めて聞いたかもしれない。
「あぁ…そうだな…悪かった。」
そう言って二人は、駅のホームのベンチに座った。
「お前も座れよ。…俺な、こないだ凛と話したんだよ。」
そう正志さんは、口を開いた。
「俺に謝ってきて、なんとかまたバンドできねぇかって…あいつの謝る顔を見てたらよ…なんで俺あんなにキレてたのか、わからなくなってきて…」
自分のことばかりを気にして、凛さんと距離を置いてしまった自分、情けなくて後悔しかない。
好きだったのに。
ただ、他人の目を気にして…
俺の見えている世界がはっきりと滲にじんでいく。
出しきれない気持ちが膨らんで声が出た。
俺達は、涙を流していた。




