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目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり?)恩返し  作者: ざっきー
第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

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60. 正体がバレるの、早くない?


 まるで底なし沼に落とされたように、俺の体はどんどん沈んでいく。

 これはマズい。

 とりあえず全方位に氷の壁を作り、さらなる攻撃に備える。

 こんなとき、氷壁はホント便利だよな。

 土壁と違い、相手の動きが多少なりとも見えるからさ。


「サカイ殿は、氷魔法の使い手なのですか!」


 水魔法が使用できる細マッチョさんだから、やっぱりこういう反応になるよね。

 それにしても、本当に地面が液状化するなんて、すごいスキルだな。

 では、今のうちに『飛行』で脱出!っと。

 

⦅儂は、土魔法で手摺りを作り逃れたぞい⦆


 なるほどな。

 その他には、両手に水を大量に噴出させて、水の勢いで逃げるとか?

 あとから冷静に考えれば脱出方法はいろいろと思い浮かぶけど、いきなりやられたら非常に焦る。

 まさに、『初見殺し』の術だ。


⦅土魔法でも似たようなことはできるが、あれは石や岩にも沈めることができるのじゃ⦆


 ひい~、恐ろしい。

 俺が身震いをしていると、周囲から皆さんの話し声が聞こえてきた。


「サカイ殿は、声の感じでは随分とお若そうだが、もう氷魔法を行使できるとは……」


「一体、何者なのだ?」

 

 ……ふむふむ。魔導師さんたちは、氷魔法について語っているね。


「今、どうやって脱出したんだ?」


「跳躍したように見えたが……」


「あの緩んだ足元からなんて、無理だぞ!」


 衛兵さんたちは液操作から逃れたことに驚いているみたいだけど、俺だって『飛行』がなければ脱出はできなかったぞ。


 さて。どうにか体勢を整えたところで、こちらも反撃開始。

 お返しとばかりに土魔法で同じような泥濘(ぬかるみ)をいくつか作ってみたけど、細マッチョさんは俊敏な動きで次々と回避していく。

 そして、再び発動と同時に斬りかかってきた。

 普通であればまた足を取られて避けるのは難しいけど、実は、俺の足は地面に着いていない。

 二度目を警戒して、高さ一センチくらいのところで浮いていたのだ。

 その場から動かなければ、魔力消費は抑えられるからね。

 そして、細マッチョさんの着地点に深い穴を開けながら、後ろに下がった。


「勝負あり。勝者、サカイ殿!」


 胸の辺りまで埋まった細マッチョさんを同僚が救出している間に、宰相さんが皆の注目を集めるようにパンパンと手を叩いた。


「わかったであろう? このように、『魔法使いは接近戦に弱い』という常識が通用せぬ相手もおるのだと……」


 宰相さんの言葉に皆さん大きく頷いているけど、その後、俺をバケモノのように見るのだけは止めてもらえませんか。

 俺は、皆さんと同じ普通の人間ですよ?


⦅飛べる時点で、『普通の人』ではないと思うがのう……⦆


 マホーまで、そんなことを言わないでくれよ。

 たしかに、飛べることに関しては俺もチート過ぎるとは思っているんだからさ。


「……よって、其方らは現状に満足せず日々鍛練に励むように。そして、この貴重な機会を与えてくださった皇帝陛下に感謝を!! では、本日は解散!」


 宰相さんの号令で、人々が続々と鍛練場から出ていく。

 やれやれ、ようやく終わった。

 わざわざ親善試合をした理由が、わかったよ。

 俺の力の一端を見せることで、軍団内の引き締めを図ったわけね……

 今回は、皇帝に上手く利用されてしまったな。


「では、我々も離宮へ戻りましょう」


「はい」


「……あの、お待ちください!」


 護衛さんたちと歩き出した俺に近づいてきたのは、若い宮廷魔導師だった。


「勇者様! お初にお目にかかります。私は、あなた様を召喚したジノムと申します!!」


「!?」


⦅ホッホッホ……こやつ、やりおったわい⦆


 そんな大きな声で話しかけられたら、俺の正体が皆にバレちゃうと思うけど……


「サカイ殿が、勇者様だと?」


「でも、召喚者のジノム殿がそう言っているのだから、間違いないのでは?」


「勇者様ならば、あの強さも納得だな!」


 ほらほら、言わんこっちゃない。

 再び周囲がざわつくなか、彼が俺に握手を求めてきたから応じようとしたら、護衛さんたちが間に立ちふさがった。


「恐れ入りますが、許可なくサカイ殿へは近づかぬように。聞き入れていただけないようであれば、我々は強制排除の許可も得ております」


「それは、大変失礼いたしました!」


 この人はおとなしく引き下がってくれたけど、この状況はどうするんだろう?

 衛兵に守られた俺を遠巻きに眺める人たちが多数いて、俺と対戦した二人はそれぞれの上官へ真偽を確かめている。

 宰相さんは、お偉いさんたちと協議しているけど……俺は、もう帰ってもいいですか?


「ゴホン……静粛に!」


 上層部の話し合いが、終わったみたいだね。

 さてさて、どんな結論に達したのか。


「当分の間は内密にしておくつもりであったが、こうなっては仕方あるまい。ジノム殿の申す通り、サカイ殿は勇者様である。しかし、今後も直接的な接触は厳禁とし、用件がある場合はすべて国を通すこと。以上!」


「・・・・・」


⦅結果的には、良かったのではないか? これで、行動の制限はなくなるじゃろうて⦆


 行動制限はなくなったとしても、嫌でも注目は集めるだろうな。

 だから、全然嬉しくないぞ。

 はあ、早く帰りたい……トーアル村に。



 ◇◇◇



 親善試合の翌日から、勇者への面会希望が殺到しているらしい。

 相手は貴族の方々で、用件は主に二つ。

 

 一つ目、自領の兵士との模擬戦の申し込み。

 二つ目、お見合いの申し入れ。


 とりあえず今は、文官さんたちがすべての希望を取りまとめている途中なんだって。

 護衛さんたち曰く、模擬戦は各領から精鋭が選抜される形で、お見合いについては皇家主催でお見合いパーティーが開催されるのではないかとのこと。

 

 そして、ヤンソンさんからはこんな話も……


「勇者様の護衛をしていることは機密情報ですので、親兄弟にも秘匿していたのですが、今回の件で知れ渡りまして……」


「……もしかして、どなたかに叱責されたのですか?」


 もしそうなら、申し訳ないです!と謝ったら、「違いますよ!」と慌てて否定される。


「その反対です。一族の誇りだと両親が泣いて喜びまして、親孝行ができました。これも、サカイ殿のおかげです」


 他の人からも、「子供たちから尊敬のまなざしを向けられた」とか、「婚約者が決まった」など、いろいろな報告をされた。

 侍女のケイトさんも、「おばあさまは、すごい!」とお孫さんに言われたのだとか。

 でもね、勇者の護衛や侍女に抜擢される皆さんが優秀なだけであって、俺は全然関係ないと思うんだよね……

 

⦅良いではないか。皆が喜んでおるのじゃから、ここは『空気を読む』のじゃ⦆


 ハハハ、珍しくマホーが師匠っぽいことを言っている。

 でも、『亀の甲より年の劫』って言うし、師匠の意見に従って余計なことを口にするのは止めておく。

 さて、冷めないうちに、ケイトさんが淹れてくれたお茶を頂きますか。


「わたくしは、お見合いパーティーは開催されないと思いますよ」


 ……ん?


「ケイト殿、それはなぜですか?」


 ヤンソンさんが不思議そうに問いかけているし、俺としてもぜひ理由が知りたい。

 本当に出席しなくてもいいのなら、それに越したことはないからね。


「なぜって、サカイ様には心に決められた方がいらっしゃると、アンディくんから聞いています。もうすでに、求婚の品も贈られているとか」


「なんと!」


「ゴホッ!」


 ヤンソンさんは驚いて目を丸くしているし、俺もびっくりし過ぎてお茶で噎せたぞ!

 アンディは、ケイトさんへ一体何の話をしているんだ?

 てか、誰だよ。

 うちの息子に、そんな偽情報を流したのは。

 アンディへ直接問い質したいけど、当の本人はどこかへ外出中。

 最近はいないことが多いから、おそらくアレの調べ物で忙しいのだろうな。


⦅あながち偽情報でもあるまい。おぬしが正式に村の住人になるのは、その為じゃと儂も思っておったがの?⦆


 はあ?

 マホーまで、そんなことを言っているのか。


「ずっと身に着けておられるペンダントは、贈ったお相手の方から頂いた物ですよね?」


「えっと……これは、そうですね」


 俺の色である黒の色石が嵌め込まれたペンダントは、アニーさんと王都へ行ったときに買ったものだとルビーは言っていた。

 (求婚と誤解された)髪留めを贈って、そのお返しに、(お守りとして)もらった物だけど……

 

「そんな方がいらっしゃるのに、お見合いパーティーなどとんでもない! ですから、わたくしが僭越ながら宰相様へ報告させていただきましたので、ご安心ください」


「あ、ありがとうございます」


 ここも空気を読んで、訂正しないほうがいいのだろうな。

 まあ、もともと結婚話は断るつもりだったから、良かったのかもしれない。

 その気もないのに参加しては、相手に対しても失礼だしね。


 ……なんて、面倒事が一つ減ったと安堵していた俺だったが、その考えは非常に甘かったことを後日知ることになる。




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