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目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり?)恩返し  作者: ざっきー
第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

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57. 到着しました


 シトローム帝国の国境門へは、二日間であっという間に着いた。

 通常の乗り合い馬車ルートで行くと、順調に進んだとしても最低一か月はかかる道程。

 それを大幅に短縮できたのは、やはり転移魔法のおかげだった。


 もちろん、俺も最初からすべて馬車で行くことは考えていなかった。

 旅をするのが俺だけならまだしも、トーラもいるからね。

 アンディは壺に入ってもらうとしても、トーラはそうはいかない。

 一日中ずっと布にくるまれた状態は、流石にかわいそうだし。

 それに、電車やバスの乗り心地に慣れている俺としては、馬車のあの激しい揺れに耐えながらの移動はせいぜい一時間が限度。

 武闘大会のときに王都まで乗って、おしりはすぐに悲鳴をあげたから。



 ◇◇◇



 トーアル村を出発する前日に、地図を確認してみた。

 ライデン王国とシトローム帝国の間に、他国が二つ。

 マホーの家があるマンドルド共和国とシトローム帝国の間には、国が一つある。

 だから、マホーの家経由でシトローム帝国へ向かう計画を立てたのだが……


⦅隣国のエルグリゼ王国までは、直接行けるぞい。儂は、行ったことがあるでのう⦆


 なんと、エルグリゼ王国はアンディが封印された国だという。


「アンディ、エルグリゼ王国って覚えているか?」


≪エルグリゼ王国……ああ、あの女が嫁いだ国か。まだ、存在していたのだな≫


 ハハハ、このなんとも素っ気ない感じ。

 アンディは余程その人のことが嫌いだったんだな。


≪……ん? 父上が向かうシトローム帝国の隣が、エルグリゼ王国なのか?≫


「そうだぞ。だから、転移魔法でエルグリゼ王国まで飛んで、そこから国境へ繋がる街道を通り正式に入国する予定だ」


≪そうか、そうであったのか……≫


「うん? アンディは、何か気になることでもあるのか?」


≪いや、この目で確認をしてから、父上には話すとしよう≫


 そう言ったきり、アンディは考え込んでしまった。

 少し様子が気になったが、とりあえず俺は旅支度を始める。

 といっても、必要なものはすべてアイテムボックスへ入れるだけだから、手ぶらで出かけられるのはホント有り難いよな。



 ◇◇◇



 転移魔法で到着したのは、シトローム帝国との国境に近い町。

 ここまでは、マホーが過去に訪れたことがあるのだそう。

 さらに先に進めば国境を接する町へ行けるのだが、まずはこの町で少し情報収集をしようと思う。

 王都では帽子を被っていたけど、ここでは顔を晒して堂々と町中を歩いてみることにした。

 ルカさんは、シトローム帝国では黒髪・黒目はそこまで珍しくはないと言っていたし、マホーの住んでいたマンドルド共和国でも同じだったようだ。

 だからなのか、その二つの国に挟まれたこの国ではちらほら黒髪の人物を見かける。

 ライデン王国では帽子を被っていても多少視線を感じることはあったが、この町で視線を一身に浴びていたのは俺ではなくアンディだった。

 同じ黒髪でも、アンディは貴族の子息のような服装。

 片や俺は、庶民のような恰好をして布にくるまれた赤子トーラを抱っこしている。

 俺たちとすれ違う人は、どうしたって気になっちゃうよな。


⦅妙に注目されておるが、あやつは壺に入れたほうが良かったのではないか?⦆


 ここはライデン王国じゃないから、目立っても別に構わないぞ。

 アンディだって、たまには外を歩きたいだろうからな。

 それに、確認したいこともあったし……


「よう! おまえさんたちは、どこから来たんだ?」

 

 フフッ、さっそく向こうから来てくれたみたい。

 冒険者らしき男たちに、声をかけられた。

 


「俺たちは、一週間ほど前にマンドルド共和国から来ました。これから、シトローム帝国へ行くつもりです」


「なんだ、じゃあもうあっちの国境は通過済みってことか……」


「そうですけど、何かあったんですか?」


「いやな、黒髪の人物を冒険者ギルドへ連れていくと、もしかしたら大金がもらえるかもしれねえんだ」


 リーダー格の男性の説明によると、この国の冒険者ギルドにそんな依頼が貼り出されているとのこと。


「……お尋ね者を、探しているんですか?」


「いやいや、そんな物騒な話じゃねえ。ただの人探しだ。聞くところによると、マンドルド共和国では冒険者ギルドの連中が、国境を越えようとする黒髪の人物たちを片っ端から鑑定しているそうだからな」


「ああ、あれがそうだったんだ……」


 もちろん、嘘だけど。

 

「シトローム帝国へ入国するときにも、鑑定されるらしいぞ。関係ないあんたらにとっては、煩わしいだろうけどな」


 そう言うと、冒険者たちは去っていった。


≪父上を、捜索しているのだな?≫


「依頼内容が変わっているから、俺の(偽)情報でこの周辺地域を重点的にやっているようだ」


 捜索状況はわかった。

 その後も、いろんな人から声をかけられ話をしたが、聞いた依頼内容はだいたい同じだから間違いなさそう。

 ついでに、シトローム帝国についてもそれとなく尋ねてみたところ、ライデン王国の冒険者ギルドで聞いた通り国内情勢は安定。

 そして、皇帝は暴君というわけでもなく、国への行き来も自由とのこと。

 知りたいことは大体わかったから、すぐに国境の町へ移動することにする。

 

 トーラがお腹が空いたようだから、乗り合い馬車には乗らず、街道からは外れた森の中を進むことにした。

 久しぶりにトーラへ跨るけど、やっぱり目線が高くて眺めは良いな。

 それに、移動も早い……振り落とされないよう、必死にしがみついてはいるけどね(笑)

 周辺に人がいないことは確認済み。

 獲物を狩っておいでと言ったら、アンディと嬉しそうに出かけて行った。

 本当にあの二人は、兄弟みたいだな。

 アンディが兄で、トーラが弟なんだって。

 トーラが危険な目に遭わないように、ちゃんと自分が目を光らせておくとお兄ちゃんは頼もしいことを言ってくれたよ。

 狩った魔物は俺のところまでわざわざ持って来なくてもいいぞと伝えておいたけど、気を遣ってくれたみたい。

 その気持ちはとても嬉しいけど、魔石はともかく目玉は……マホーはすごく喜んでいたけどね。

 子供って、親のすることをよく見ているんだな…と感心した俺だった。


 この日は、そのまま森の中で野宿をした。

 さすがに朝晩は少々冷える季節になってきたけど、トーラのおかげでとっても快適。

 毛皮って、本当に暖かいんだな。

 それに、アンディが見張り(死霊騎士)を出してくれたから、安心して眠ることができた。



 ◇



 そして翌日、俺たちはついにシトローム帝国の国境門まで来た。

 入国審査に、大勢の人たちが並んでいる。

 やはり事前情報の通り、黒髪の人は皆別室へ連れていかれて鑑定されるようだ。


⦅おぬしはどうするのじゃ?⦆


 おとなしく鑑定を受けるよ。

 そうすれば、このまま宮殿へ連れていってもらえるだろうからな。


≪父上、私は一旦壺に入るとしよう。この国で内密に調べたいことがあるから、あまり人に顔を見られたくないのだ≫


 アンディは、気になることがあるみたい。

 俺も、ザムルバさんから聞いた話からもしかして…と思っていることはあるけど、まだ口には出さない。

 彼が自分で確認をして、納得できたら話してくれると思うから、それを待ちたいと思う。

 

 アンディの入った壺と猫型トーラをリュックに入れ、ローブを羽織る。

 魔法使いのローブに異世界のリュックはまったく合わないが、気にせず行列に並んだ。

 一応、正体を隠している風を装って、フードを目深に被ってみる。

 周りの人たちは、商人や冒険者が多いようだ。

 俺は、自分の本当の職業は魔法使いの弟子だと思っているから、この恰好で気付いてもらえたら嬉しいけど……


「次の方、身分証明書を拝見します」


 担当官は、お決まりの言葉を口にする。

 ついに、この時がやって来た。

 いざとなると、ちょっと緊張するな……


⦅しっかり、やるのじゃぞ⦆


 うん、わかっている。

 きちんと自分の希望を伝え、納得してもらう。

 そして、俺は晴れてトーアル村の住民になるのだから。


「俺は、身分証明書は持っていません」


 被っていたフードを外し、俺ははっきりと答えた。




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