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目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり?)恩返し  作者: ざっきー
第三章 雨降って、地固まる?

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54. <閑話>魔法バカが、憧れの勇者様へ辿り着くまで


 勇者送還用の魔法陣を書き終えたザムルバは、次の作業へと移行する。

 いよいよ、勇者を捜索するときが来たのだ。

 

 ジノムへ、「最近、夢にある特定の人物が頻繁に登場するのだが、これは儀式の影響なのだろうか?」と相談を持ちかけるふりをしながら、国による捜索状況を聞き出した。

 羽根より軽い口を持つジノムは、ザムルバの夢の内容知りたさにペラペラといろいろなことを話してくれた。

 それによると、ある国の冒険者ギルドで、有力情報が持ち込まれたとのこと。


「勇者は、『マンドルド共和国』にいるそうです。二か月ほど前の話らしいですから、もう別の場所へ移っているかもしれませんけどね」

 

「『マンドルド共和国』か。たしかに、様々な種族がいるから可能性はあるな……。それで、情報提供があった国は、どこなんだ?」


「えっと、たしか……『ライデン王国』だったですかね。それより、最近見た夢がどんな内容だったか思い出したら、俺に真っ先に教えてくださいよ! それによって、儀式の影響かどうかはっきりするんですからね!!」


「わかった。そのときは、よろしく頼む」



 ◇◇◇



 ザムルバは、いつもの地下倉庫で地図を広げた。

 

「『ライデン王国』……『マンドルド共和国』とは、この国を挟んで反対側の位置にある国なのだな」


 これまで勇者に関して全く情報が集まっていなかったところに、突如もたらされた今回の話。

 しかも、情報提供者は名乗り出ず、報酬はいまだ未払いになっているとのこと。

 要らなければ、俺が代わりにもらうのに!と、ジノムは騒いでいた。

 

(金貨一枚といえば、大金だ。それなのに、なぜ受け取らない?)


 興味が湧いたザムルバは、理由を考えてみることにした。


 その一、『自身がお尋ね者だから』

     しかし、それならばわざわざ目立つことをする必要はない。

 

 その二、『金には困っていないから』 

     ただの善意の協力者である可能性は、否定できない。

 

 その三、『身元を明かすことができない人物だった』

     つまり、やんごとない身分の方。

     

 たとえば、お忍びの王子や高位貴族など……と考えを巡らせていたザムルバは、ハッとする。

 ある可能性に思い当たったのだ。


「まさか、勇者様自身が捜索の手から逃れるために……」


 大型魔獣を召喚し冒険者として活動している彼ならば、依頼票を目にする機会はいくらでもある。

 本人が見ていなくとも、周囲の冒険者には彼の存在は必ず認識されているはずだ。

 それなのに、本人は名乗り出ず。

 彼の周りからも、情報が集まらない。

 その理由が、彼が意図的に自身の存在を隠しているからだとすれば……


「勇者様は、情報とは正反対の国『ライデン王国』におられる可能性が高い」


 ザムルバは魔法バカではあるが、本当の馬鹿ではなかった。

 こうして当たりを付けた彼は、次の準備段階に入る。

 それは、このシトローム帝国から二つ国を跨いだライデン王国へ、日帰りで行く方法。

 召喚儀式でひと月も休んだため、長期休暇が当分申請できない自分が遠い他国へ行く方法――――転移魔法を駆使した、地道な(ルート)開拓だった。

 

 休日のたびに、乗り合い馬車でライデン王国方面を目指す。

 その日の内に進める場所まで行ったところで、転移魔法で国へ戻る。

 次の休日に、その場所から乗り合い馬車でさらに先へ進んで戻る。

 また進んで戻る。

 これを休日の度に繰り返し、ザムルバはついにライデン王国の王都門の前に着く。

 これから王都の冒険者ギルドへ行き、今日はここで一泊する予定なのだ。

 今回は、同僚に頼まれて急遽交代した代休を含めての三連休。

 思い立って旅に出てくると周囲には告げてあり、怪しまれることは一切ない。

 この二日間でじっくり腰を据えて情報収集をし、なんとしても勇者の手掛かりを見つけたかった。

 

 意気込むザムルバに、運も味方する。

 冒険者ギルドでは、勇者と同じメガタイガーを召喚した魔法使いがいるとの話を。

 宿では、その魔法使いが庇護している村に、黒髪の美少年がいるとの噂話を入手することができたのだった。



 ◇



「ここが、トーアル村か」


 この村は、『オンセン』というお風呂が有名だと聞いていた。

 しかし、ザムルバはそれには目もくれず、黒髪の美少年が登場するという『オバーケ』へ真っ先に向かった。

 自分以外は全員子供連れだったが、そんなことを気にするようなザムルバではない。

 少年が登場するのを、最前列で今か今かと待ち構えていたのだ。

 噂の彼は、最後のほうに登場してきた。

 メガタイガーも居りザムルバは興奮したが、瞳の色が黒ではない。

 それに、少々幼いような気もする。

 仕事中に申し訳ないとは思ったが話しかけたところ、「私への質問は、すべて役場を通してくれ」と言われ、その通りだなと納得。

 かくして、素直に役場へ向かったザムルバだった。


 役場で応対してくれたのは、眼鏡をかけた男性職員。

 ザムルバは、自身をシトローム帝国の魔法使いだと自己紹介をしたあと「半年以上前から行方不明になっている、黒髪の人物を探している。この村に該当の人物は居ないか?」と直球で尋ねてみた。


「魔法使いの方ということは、もしかして……カズキさんのお知り合いですか?」


 さっそく反応があり、ザムルバの心は浮き立つ。

 しかし、(おもて)には出さず、平常心で先を続けた。


「私は、知り合いに『ライデン王国へ行くなら、ついでに』と頼まれた使いの者でして、その彼の顔や名をはっきりとは……でも、年の頃は十四~十八歳くらい。そうそう、彼はメガタイガーを召喚獣にしているはずなのです」


「それでしたら、カズキさんで間違いないでしょう」


「その方は、『オバーケ』に登場される彼ですか?」


「えっと……髪色は同じですが、彼は違います」


 あの美少年とは別に、もう一人黒髪の人物がいたのだ。

 そして、職員の話から、まず間違いなく勇者であると思われる。

 逸る気持ちで面会したいと申し出ると、今は仕事中のため職員が言付けるとのこと。

 

(勇者様は、こちらでどのような仕事をされているのだ?)


 あまりいろいろと質問をすると、怪しまれてしまう。

 好奇心をグッと抑え込み、指定された時間まで村を見学することにした。

 ついでに、『カズキ』の評判についてもそれとなく探ってみる。


 村人A「優しいし、親切よ」


(良かった。能力を鼻にかけた、傲慢な方ではないようだ)


 村人B「抜けているところもあるけど、魔法使いとしての腕は確かね」


(魔法使い? 冒険者ではないのか?)


 村人C「ルビーちゃんと、仲睦まじいもんな。本人たちは否定するけど、早く一緒になればいいのに……」


(なんと、すでに心に決めた方がいらっしゃるのか!)


 新たな情報に驚愕しつつ、ザムルバは温泉で体を清め、勇者に指定された洞窟へと急ぐ。

 そこで待っていたのは、召喚儀式で見た黒髪・黒目の少年。

 傍らには、あの美少年とメガタイガーも控えていた。



 ◇



「大変失礼いたしました! 私は、勇者様を元の世界へ送り届けるために、こちらまで参上した次第でございます!!」


 感激のあまり余計なお喋りが過ぎたと深く反省したザムルバは、用件を簡潔に述べた。


「あの……確認なんですが、元の世界とは俺が居た世界ということですか?」


「さようでございます。そのために、送還儀式に使用する魔法陣も魔石も持参しております。勇者様さえよろしければ、いつでも実行可能です」


 ザムルバの提案に、勇者は明らかに戸惑っている。

 この反応は、やはりこの世界に心に決めた相手がいるからだと、彼は勝手に解釈した。


「……送還するつもりなら、どうして俺を召喚したのですか?」


「それは……」


 至極当たり前の質問を受け、ザムルバは言葉に詰まる。

 勇者に会う前は、本当のことを包み隠さず話すつもりだったのに、いざとなると言葉が出てこない。


「……それは、あなた様を現皇帝の皇女殿下と(めあわ)せるためでございます。我が国では数百年前にも勇者召喚が行われており、先の勇者様へ皇女殿下のお一人が降嫁されております」


 結局、ザムルバは嘘を吐いた。

 勇者が意に沿わない結婚をさせられるのは、自分勝手な理由で召喚儀式をした彼のせいなのに。

 そして、ここで嘘を吐いたことが、これから彼をずっと苦しめることになる。


「……俺は、あちらの世界への送還は希望しません。こっちの世界で大切な家族も仕事もできましたから、勇者としてではなく一般庶民として生きていきたいのです」


 勇者が優しいまなざしを向けたのは、ずっと彼の傍に控えている一人と一匹だった。


「やはり、冒険者ギルドへ偽情報を提供されたのは、勇者様ご自身だったのですね」


「ハハハ……結局、居場所を突き止められてしまいましたが」


「実は、私は国の代表で来たわけでなく、個人的に参りました。ですので、まだ勇者様の居所は国には……」


 国の捜索に見つかる前に元いた世界へ帰すつもりだったとの話に、勇者は何か考え込んでいるようだった。

 ザムルバは、ただ黙って彼の返答を待つ。


「決めました。俺は、シトローム帝国へ行きます。そこで、自分の希望を伝えようと思います」


「しかし、それでは国に一生留め置かれる恐れが。危険ですので、おやめください!」


「えっと、多分大丈夫かと。頼もしい仲間もいますし、俺は魔法使いの弟子をしていますから、それなりに魔法が使えます。それに……一応『勇者』ですので」


 そう言って、黒髪・黒目の少年はニコッと笑った。



 ◇



 その日の内に、ザムルバは国へ戻る。

 勇者は「来月、シトローム帝国へ行く」と彼に告げ、村にある家へ帰っていった。


「まさか、この私が鑑定できないレベルになっておられるとは……」


 召喚勇者とはいえ、半年やそこらで急激に能力が上昇することなどあるのだろうか。

 しかも、同じ黒髪の美少年までもが鑑定不能だったのだ。


「来月、勇者様の希望がすんなりと通れば良いのだが」


 あの村での落ち着いた暮らしを望んでいる、少々幼い顔をした勇者。

 温厚そうな彼を怒らせる言動をしでかしそうな人物が数名頭に思い浮かび、深いため息を吐いたザムルバだった。




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