40. トーアル村で遠足を(前編)
遠足当日、数台の馬車に分乗して子供たちがやって来た。
年齢は七~十歳までの二十七名。全員が庶民の子だ。
ライデン王国では貴族と庶民の子が通う学校は完全に分けられていて、引率してきた先生たちも庶民出身なのだという。
今日は、村の学校に通っている子たち五名も一緒に参加するようで、ソウルの妹リラの姿もあった。
◇
参加者全員が村の集会場に集められ、先生たちが今日の予定を説明している。
俺も臨時警備担当として、後ろで話を聞いていた。
隣にはルビーもいる。
⦅まさか、あやつらが護衛の仕事を引き受けるとはのう……⦆
外で待っている彼らの顔を思い浮かべる。
うん、どう考えても過剰戦力だよな。
王都から村までの道中の護衛をしてきたのは、あのSランクさんことルカさん兄妹たちの冒険者パーティー『漆黒の夜』だった。
街道沿いには魔物がいるとはいえ、Aランクの冒険者パーティーが引き受けるような仕事ではないし、依頼料も安いはずだけど……
「……さっき、冒険者パーティーのリーダーの方がオンセンサイダーの空容器を持ってきてくださったけど、それがたくさんあって驚いたわ。帰りに、ゆで玉子も含めてまた大量の注文をいただいたのよ」
「へ、へえ~そうなんだ。それは、良かったな」
ルビーの話に、そ知らぬ顔で返事をする。
俺が、王都で最初に十本。別れ際に、さらに十本も渡したからだな。
ルカさんは、本当に土産を気に入ってくれたんだね。
「聞けば、武闘大会のときにモホーさんから勧められたのだそうよ。彼は、お土産の宣伝もしてくれていたのね…………ありがとう、カズキ」
うん? なんで俺が礼を言われたんだ?
首をかしげる俺を見てルビーがフフッと笑ったあと、前を向いた。
ルビーは、今日もあの髪留めを使っている。
俺たちの結婚話はようやく下火になりつつあるが、今でもたまに「次期村長さん」と言ってくる人がいる……元役人のあの人ね。
ゴウドさんからは、一度だけ「カズキくんさえ良ければ、いつでもルビーを貰ってくれて構わないんだよ?」と冗談めかして言われたから、「ゴウドさんがそんなことを言ったと知ったら、ルビーが怒りますよ……ハハハ」と笑ってごまかしておいた。
◇
先生の説明が終わり、子供たちは今から二つの班に分かれて別行動をする。
昼休憩を間に挟むかたちで、午前と午後で『オリジナル温泉サイダー作り』と『オバーケ(ダンジョン風お化け洞窟探検)』をそれぞれ体験するのだ。
俺は、リラのいる二班の警備を担当する。
リラたちが最初に体験するのは、『オバーケ』だ。
ルビーと正規警備担当者が先頭に立って、引率の先生と子供たちを引き連れていく一番後ろを歩いていたら、外にいたルカさんがやって来た。
彼らの今日の仕事は道中の護衛だけなので、待っている間は自由時間。
妹さんたちは待ち時間にすべての温泉を満喫するみたいで、さっそくセット券と個室風呂の利用券を購入していたけど、ルカさんは一緒に行かないのだろうか。
「村長に許可を取ったから、俺も同行させてもらう」
「では、こちらへどうぞ」
へえ~、ルカさんは温泉よりも『オバーケ』に興味があるんだな。
現役冒険者の感想も知りたいから、ちょうどいいかもしれない。
「俺は、ルカという。アンタも冒険者なのか?」
「俺は、和樹と言います。冒険者ではなく魔法使いの弟子をしていまして、今日は臨時の警備担当です」
「今日いる担当者の中でアンタが一番の実力者だから、てっきり警備担当のリーダーかと思ったら、本職は魔法使いの弟子なのか……」
⦅やはり、強者には強者がわかるのじゃな。モホーだとバレぬよう、気を付けるのじゃぞ?⦆
わかってますって。
ルカさんに非常に興味を持たれてアレコレと聞かれたから、きちんと設定通りに話をしたら、「ニ十歳には見えないし、まだ学生なのか!」と驚かれてしまった。
これも本当に今さらだけど、この世界で二十歳といえばもう立派な社会人なんだよな。
◇
村の門を抜けると、すぐにトンネルが見えてくる。
ここが、『オバーケ』の入り口だ。
洞窟は外壁の外にあるため、とりあえず急場しのぎで土魔法でトンネルを作っておいた。
これは、魔物の侵入を防ぐ壁代わりになるだけでなく、お化け洞窟への導入部分も兼ねているのだ。
入り口の最初は明かり取りの穴がたくさんありトンネル内は明るいが、進むにつれて徐々に穴の数が減り薄暗くなってくる。
そのうち穴はすべて無くなり、ランプがポツンとポツンと一つだけの心許ない状況となったころ、ようやく洞窟へ到着した。
この時点で、すでにビビッてしまった子もいるようだけど、この先大丈夫かな?
今回のガイド役を務めるルビーが、子供たちへ問いかける。
「ここから先は、君たちだけで進むこともできるけど、どうする?」
「オレは行く! こんな子供だまし、全然こわくない!!」
うんうん、さすがは上級生。
九歳の男の子が颯爽と前に出ると、その後ろから「ボクも!」「わたしも!!」とちびっ子猛者たちが次々と名乗りを上げる。
この班は、七~九歳の子が多い。
結局、十六名のうち子供だけで行くのは八名で、残りの四名は先生と、他四名は俺とルカさんの二名ずつに分かれ、後ろをついて行くことになった。
「あの子たちは、バカねえ……Sランク冒けん者と一緒にいるのが、一番あんぜんなのよ」
「そうよね」
ルカさんの両手をそれぞれしっかりと握りしめながら女の子二人が語り合っている姿に、思わず笑ってしまった。
たしかに、これ以上ない頼もしい護衛だもんな……ただ興味本位でついてきただけなのに頼られてしまい、ルカさんはかなり戸惑っているみたいだけどね。
俺のところにやって来たのは、リラと役場のパート主婦ミアさんの娘さん。
カズキがこの班の担当で、本当に良かった…としみじみと言われてしまったのだった。
先頭を行く八名には、事前にそれぞれ剣や盾、槍、杖などの装備品が渡される。
もちろん、張りぼてのおもちゃで、周りの子に当たっても大丈夫な柔らかい素材で出来ているよ。
ただし、すぐに壊れるかもしれないけどね(笑)
ルビーも、無暗に振り回して武器が壊れてしまったら代わりの物はなく、その先は武器無しで敵と戦うことになると注意喚起をしている。
本物のダンジョン内だったら、死活問題だもんな。
⦅将来、冒険者を目指す者もおるじゃろうから、武器の扱いの大切さを説くのは良いことじゃ⦆
子供のお遊びだから使い捨てでも良いのだろうけど、この世界はリアルに魔物がいるし、ジェイコブさんにも「教育にもなって、良い!」と褒められた。
◇
洞窟の中はランプの灯りが多いから、結構明るいな…と子供たちは話しているけど、よく見て。
それって、本当にランプの灯りかな……
「お、おい、いまランプの灯りが動かなかったか?」
「えっ! だってランプがゆれていないのに、灯りが動くなんて……」
残念! 揺れていなくても動くのだよ。
灯りが一つ、また一つと下へ落ち、細かく分裂している。
子供たちが驚き固まるなかで、分裂した灯りたちが地面に火文字を描いていく。
同時に、目の前に突然扉が出現した。
「『この扉の先には、勇気ある者以外、立ち入るべからず』だって……どうする?」
「行くに決まっているだろう!!」
良かった。
ここで帰ると言われてしまったら、今か今かと出番を待っている彼らがガッカリしちゃうもんな。
では、八名さまをご案内!!
上級生を先頭に、後ろから下級生たちが扉を通って次々と部屋に入っていく。
小説のダンジョンだと八名が入った時点で扉が閉まるんだろうけど、ここは開放したままだよ。
残りの八名は、扉付近から固唾を吞んで彼らを見つめる。
部屋の中はがらんとしていて、一見すると何もないように見えるけど……
「あっ! あんなところに宝箱がある!!」
フフッ、さっそく見つけたな。
子供たちは我先にと、部屋の奥にある宝箱目がけて走り出す。
でもね、そんなことをすれば敵の思う壺だぞ。
引率の先生も「宝箱の前には罠があるぞー!!」と叫んでいるけど、もう遅い!
「きゃあ!」
「つめたい!!」
もれなく全員が、落とし穴に落ちました……といっても深さは三十センチくらいだし、下に草のクッションを敷いているからケガもしない。
冷たく感じるのは、冷気を溜めておいたから。
すぐに皆は穴から出てきて、宝箱の前にようやくたどり着く。
リーダー格の子が手を伸ばすと、宝箱が勝手に動き出し逃げていった。
「みんなで、追いかけるぞ!」
「「「「了解!!」」」」
「「「おー!」」」
子供たちは必死で追いかけるが、宝箱の動きは俊敏でなかなか追いつけない。
最初はね、蓋を開けると毒ガスっぽい何かを出そうかなとも思ったんだけど、さすがに子供相手にそれはマズいかと、追いかけっこをしてもらうことにした。
宝箱は散々逃げ回ったあと、部屋の中央でピタリと止まる。
――――さあ、いよいよラスボスのお出ましだ




