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目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり?)恩返し  作者: ざっきー
第二章 村のために、いろいろ頑張る!

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37. 俺は、また、やらかしたようです


 突然泣き出したルビーに、俺は慌てた。

 なんせ、目の前で女性に泣かれた経験なんてないし、慰めるための気の利いた言葉一つ出てこない。

 ただ、ひたすらあたふたしている俺とは対照的に、冷静な人物が一名。


⦅こういう時は、まずは『黙って綺麗なハンカチを渡す』のじゃろう?⦆


 そうだった。

 えっと、ハンカチは……持っていないから、リュックに入れてあったハンドタオルだ!

 アイテムボックスから取り出すと、ルビーへそっと手渡す。


⦅それから、落ち着いて話を聞くために、どこか座れる静かな場所を探すのじゃ⦆


 は、はい!

 ここには公園のベンチなんてないから……近いし俺の家でもいいかな?

 

 泣いているルビーを連れ、俺は一日ぶりに家へ帰ったのだった。



 ◇



 テーブルの上に、お茶を二つ置く。

 チラッと向かい側に座るルビーの様子をうかがいながら、静かに椅子へ腰掛けた。

 涙は止まったようで、今は膝の上にいるトーラの頭を撫でている。

 う~ん、どう話を切出せばいいのだろう……


「……急に泣いたりして、悪かったわ。驚いたでしょう?」


「うん、ちょっとね……」


 ホントは、ちょっとどころか、かなりビックリだったけどな!


「俺がいない間に、なにかあったのか?」


「トーアル村が譲渡されたこと以外は、特に何もないわよ」


「そうか……」


 よかった。

 また、変な客に嫌な思いをさせられたのかと心配したけど、どうやら違うみたい。


「……カズキは、譲渡の話には驚かないのね。王都で聞いたの?」


「そ、そうなんだよ。あっ、もちろん話を聞いたときは、びっくりしたぞ!」


⦅おぬしは、演技が下手くそじゃのう……⦆


 う、うるさい!

 小学校の学芸会では『木(その一)』とか『地蔵(その五)』くらいしかやったことがないんだから、仕方ないだろう!!

 とにかく、ルビーは落ち着いたようだし、泣いた理由は話したくなさそうだから、この話はここで終了。

 お茶菓子に、王都で買ってきたお菓子を出すことにした。

 ついでに、土産も渡しておこう。

 前みたいに二つ渡して、一つは役場で、もう一つは村の子供たちへ配ってもらうことにした。

 お菓子を食べながら、ルビーは俺がいない間にあった出来事を話し始める。

 昨日の夕方、突然ドレファスさんがやって来て、譲渡の話と手続きをしたこと。

 今朝、村人を集めて今回の事情を説明したことを聞いた。


「えっ……村の権利はゴウドさん個人じゃなくて、『トーアル村の村長』へ譲渡されたのか?」


「モホーさんが、国王様へそのようにお願いしたと聞いているわ」


 あれ?

 俺は、ゴウドさんへ譲ると言わなかったっけ?


⦅おぬしは、『トーアル村の村長へ』と言うておったぞ⦆


 そうだ。個人名を出したら村の関係者だとバレると思って、「村長さんへ」と言ったんだった。


「それだと、何か困ることがあるんじゃ……」


「別に、何もないわよ。今までと同じようなものだから」


 ルビーによると、国から代々トーアル村の村長を委託されていたのが、ルビーの家なのだとか。

 ゴウドさんは入り婿さんで、家はルビーの母方の実家にあたる。

 今回の件で村長の交代についても村民に意見を訊いたところ、交代を望む声はなく、現体制の維持が満場一致で決まったとのこと。


「そうか。それならいいけど……」


⦅きちんと書類を確認しなかったおぬしが悪いのじゃ!⦆


 はい、マホー先生の仰る通りでございます。

 以後、気を付けます。


「お菓子、ごちそうさま。とても美味しかったわ。そろそろ、私は仕事に戻るわね」


「あっ、ルビーにはもう一つ土産があるぞ」


 せっかく王都へ行ったのに、いつもお菓子だけでは代わり映えしない。

 ルビーにはよく食事の世話にもなっているし、一つくらい形に残る土産があってもいいんじゃないかということで、俺は様々な店を見て回ったのだ。



 ◇◇◇



「う~ん、いざ買うとなると、何がいいのかさっぱりわからん……」


 王都で、女性向けの商品を専門に扱っているところだと教えられた店の中、俺は途方に暮れていた。

 トーラは、リュックの中から顔だけを出している。

 店員さんに確認をしたら、鞄の中なら店内の連れ込みはOKとの許可をもらっているよ。

 

 散々悩んだところで、はたと気付く。

 あっちの世界でも女性へ贈り物をしたことのない俺が、こっちの世界でセンスのある贈り物なんかできるわけがないと。

 諦めに似た境地で開き直った俺の目に留まったのは、アクセサリーが売っているコーナー。

 ペンダントとかイヤリングが並んでいる中に髪留めを見つけ、これだと(ひらめ)く。

 ルビーは仕事中は髪をまとめているけど、いつも紐で縛っているのを知っている。


「これなら実用的だし、無難だよな」


 売っている髪留めは、半オーダーメイドだった。

 まずは本体を選ぶようで、俺はシルバーの中から楕円形のものを選択する。

 それから、本体へはめ込む装飾用の色石を選ぶようだが……


「開いている穴の数が、二つ、三つ、四つと違うのは、なんでだ?」


⦅儂は、もちろん知らんぞい⦆


 うん、知ってる(笑)

 わからないことは、店員さんへ尋ねるのが一番!

 ……ということでさっそく聞いてみたら、被っている帽子を取ってもらえますか?と言われた。

 それから、贈る相手の髪色と瞳の色の石を入れるとのことで、相手が二色だから俺の場合は三つのだと言われた。

 えっ、なんで三つ? 二つじゃないの?

 首をかしげながら、ルビーは緑髪に落ち着いた赤の瞳だから、緑と赤の石を選ぶ。

 最後の石は何色にしようかと悩んでいたら、横から店員さんが黒い石を勝手に選び、本体へはめ込んですぐに完成。


⦅黒い石は、瑪瑙(メノウ)のようじゃ。たしか、魔除けの力があると、友が大きな石を持っておったな⦆


 あの壺のアンデッドを封印した人ね。

 地味な色を選んだなと思っていたけど、ちゃんと意味があったんだな。

 商品を受け取ったら、「末永く、お幸せに!」とニコニコしながら言われたから、とりあえず「ありがとうございます」と返しておいた。



 ◇◇◇



「これは……」


 髪留めを見て、ルビーが絶句している。

 この反応は……


「いつもお菓子だから、たまには違うものにしようかと思ってできるだけ実用的なものを選んだつもりだけど……あまり好みじゃなかったかな?」


「ううん、すごく嬉しい。カズキ、ありがとう。大切に使わせてもらうわね」


 笑顔で受け取ってはくれたけど、なんとなくルビーの顔色が冴えないのは、気のせいかな。


「……ねえ、カズキ。一つだけ言っておくわね。他の人には、これを土産代わりに渡すのは絶対にダメよ……誤解されるから」


「何を誤解されるのかよくわからないけど、とりあえずわかった。まあ、こういうものはルビーにしか渡さないけどな」


 他に、渡すような子なんていないし。

 俺の返答に、ルビーは大きなため息を吐いた。


「……カズキの国では、結婚したい相手に何を贈るの?」


「う~んと、そうだな……絶対ってわけじゃないけど、指輪を贈る人が多いかな。じいちゃんも、ばあちゃんへ贈っていたし」


 ばあちゃんの形見の指輪は、じいちゃんが贈ったものだった。

 ルビーの瞳の色によく似た、ルビーの指輪。

 今も、あっちの世界の家で、箪笥の引き出しの奥に眠っている。


「この国ではね、男性が女性へ求婚するときにこれを贈るのよ」


「……えっ!?」


「贈る相手の髪・瞳の色。そして、自分の髪・瞳の色の四色を入れるのが定番かしら」


⦅なるほどのう……だから、穴が二つから四つまであったのじゃな。そして、おぬしは両方黒じゃから、三つと⦆


 あれは、魔除けで黒を選んだわけではなく、帽子を取った俺のを見て、店員さんが入れてくれたのか。

 ということは……


「えっと、もしルビーがそれを着けたとしたら……」


「カズキが私に求婚して、私がそれを受け入れたって、皆が思うでしょうね。だって、黒はカズキの色だから」


「…………」


「物に罪はないし、せっかく買ってきてくれたんだから、私はこのまま使わせてもらうわ。だから……」


「ん?」


「……皆の誤解は、カズキが責任を持って解いてね! フフッ、よろしく頼むわよ!!」


 ルビーは意味深な笑みを浮かべながら、トーラを抱っこし席を立つ。


「トーラも、ご主人様に付き合って大変だったわね」


 絨毯へおりたトーラは、その場にゴロンと寝転がった。

 まるで、疲れた~と言わんばかりに。


「……カズキ」


「うん?」


「今回は、本当にいろいろとありがとう。感謝の言葉しかないわ」


「土産を渡しただけなのに、ルビーは大袈裟だな。でも、何かあったら俺に相談してくれ。話を聞くことくらいしか、できないけど」


「うん」


 ルビーは、仕事へ戻っていった。

 なんか気を遣わせてしまったみたいで、申し訳ない。

 せめて、周囲の誤解だけはしっかりと解かないとな。

 

⦅う~む。もしかすると……⦆


 マホー、どうしたんだ?


⦅いや、何でもないぞい⦆


 トーラは、元の大きさに戻って昼寝をしている。

 釣られて、俺も少しだけ……のつもりが、起きたら翌朝だった。

 


 ◇



 よく寝て疲れも取れたと喜んでいた俺は、その日の午後から村人たちの「おめでとう!」攻撃にさらされることとなる。

 中には、「次期村長!」と声をかけてくる人もいて、その度に「これは、誤解なんです! 他国民の俺が意味を知らずに……」と弁明して回る日が、一週間も続いたのだった。




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