24. お土産を開発しよう!
「フフッ、これは良い土産になりそうだぞ……」
「えっ、これが?」
嬉しくて、つい笑ってしまった俺を、ルビーは怪訝な顔で見つめていた。
◇◇◇
温泉開業から二か月。
従業員たちは仕事に慣れ、ゴウドさんやルビーたちは客から寄せられた様々な要望に対応する余裕が出てきたみたい。
俺がルビーから相談された件も、その内の一つだった。
「トーアル村でしか手に入らない土産がほしい?」
「そう。どこにでも売っているような物じゃなくて、このオンセン観光地ならではの土産なんだけど……」
なるほど。
いわゆる地域限定商品ってことか。
たしかに、土産を貰った人へもトーアル村の宣伝ができるし、いいかも。
「ちょうど、ぴったりの商品を作れそうな温泉があるぞ」
「もしかして……壁の外にある、あの二つのオンセン?」
「うん」
「あれが?」
ルビーは半信半疑のようだから、作った物を見てもらうのが一番早い。
「材料を持って、さっそく行こう」
用意してもらったのは、卵とハチミツ。
二つとも村で生産されているものだ。
⦅籠やスプーン、それにコップを忘れるでないぞ⦆
そうだ、道具も必要だったな。
マホー、教えてくれてサンキュー。
壁の外へ行くけど、トーラもいるから魔物の心配はない。
今日は清掃の仕事じゃないから、リュックは必要ないよな。
◇
最初にやって来たのは、モクモクと湯気の出ている温泉。
湧き出ている源泉が高温のため、危険だから周辺を囲いで覆っている。
「ここはオンセンの温度が高すぎて、加水しないと入れないのよね」
「さすがにこのまま入ったら、大ヤケドだもんな。でも、この高温を利用して、ゆで玉子を作ろうと思う」
「だから、卵と籠を持ってきたのね」
ルビーが納得したところで、さっそく調理開始。
籠に卵を入れ、湯に浸けるだけと超カンタン。
あっちの世界の某温泉名物は、一個食べると数年寿命が延びるとか言われていたっけ。
セットし終えると、次の温泉へ向かう。
もう一つはさらに簡単に作れるから、茹でている間に終わる。
◇
森の木々に囲まれた中に、滾々と泉が湧き出ている。
トーラが水をなめようとしたから、ちょっと待って!と抱きかかえた。
「こっちは逆に温度が低すぎて、加温しないといけないわ。せっかくの『泡オンセン(炭酸泉)』なのに……」
「厳密に言うと、これは温泉じゃないんだ。成分は含まれているけど、かなり少ないからな」
これを温泉と謳ったら、日本なら偽装表示とかで問題になるかも。
まあ、ここは異世界だからいいかもしれないけど。
「じゃあ、これはどうするの?」
「これにハチミツを溶かして飲む!(だって、強炭酸だから)」
鑑定したときに温泉成分が少なすぎてガッカリしたけど、泡が立っていることに気付く。
もしかしてと思って飲んでみたら普通の炭酸水で、これを『温泉サイダー』として売り出したらどうかとひらめいた。
「商品にしたときの甘さをどうするかはルビーたちにお任せするけど、まずは飲んでみてくれ」
ルビーに勧め、俺も一口飲む。
シュワシュワとしたあの感じが出ていて、かなり美味しいと思う。
ルビーは恐る恐る口を付けているけど、どうかな?
「……エールのようでエールとも違う、何とも不思議な口当たりだけど、美味しいわ」
『エール』って、あのビールみたいなお酒のことだよな。
俺はあっちの世界でもアルコール飲料は苦手でほとんど飲まなかったけど、ルビーたちはたまに夕食で飲んでいるらしい。
ゴウドさんから勧められて一口だけ飲んでみたことはあるけど、やっぱり俺には合わなかった。
ちなみに、この国は十五歳で成人だから、十九歳のルビーは未成年者の飲酒ではないよ。
「今日はハチミツを入れたけど、濃い果実水を入れてもいいと思う。果物によって味や色が変わるから、この国の人たちの好みに合わせて作ってみてくれ」
国が違えば、好みも違う。
他国民(というか異世界人)の俺は、この手の飲み物はもっと冷えているほうが好きだけど、それは、常温が当たり前のこの世界では非常識だから。
トーラが飲みたそうにしていたから、ハチミツ入りと炭酸水だけのと両方あげた。
でも、舌がピリピリするのが気になる(マホー訳)みたいで、あまり好みではなかったみたい。
◇
さて、そろそろ卵が茹で上がるころかな。
籠を引き上げたら、ルビーが目を丸くした。
「こんなの、本当に売れるの?」
「これは、良い土産になりそうだぞ……」
「えっ、これが?」
目の前には赤に緑に黄色に青……ゆで玉子は、白ではなくいろんな色になっていた。
ゴウドさんやドレファスさんたちにも試食してもらうため、卵を五個ほど茹でてみた。
それが、すべて薄めの、赤・青・緑・黄・紫色に染まっている。
⦅ホッホッホ……これが、『ファンタジーの世界』と言うのかのう?⦆
そうだな。
まさに、異世界ファンタジーだね。
「中はどうなっているのかしら?」
「一つ割って、食べてみるか」
試しに緑の殻を剥いて半分に割ってみると、中は白身と黄身の普通のゆで玉子だった。
うん、味も変わらず美味しい。
俺をじっと見上げるつぶらな瞳の圧に負け、ルビーではなくトーラと半分こした。
「中が普通なら、案外可愛いお土産になるかもしれないわ」
「可能なら、実際にお客さんの目の前で茹でたほうが売れるだろうな」
「そうね。殻に着色していると思われそうだから、違いますよって証明するためにもね」
まずは、ゴウドさんたちにも試飲・試食をしてもらって、反応が良ければ外壁を広げてもらう手配や設備を整えたり……なんて、ルビーとアイデアを出しながら話をするのは、やっぱり楽しいな。
トーアル村の発展は、身元不明の俺を温かく迎え入れてくれた彼らへの恩返しになる。
――――このときの俺は、そう信じて疑わなかった




