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目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり?)恩返し  作者: ざっきー
第一章 どうやら、異世界に転移したらしい

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20. はい、回収!


「よう、坊主! さっきは見事だったな」


 持ち場に向かって歩いていた俺に声をかけてきたのは、三人組を連行していった騎士の一人だった。

 年は、俺より一回りくらい上だろうか。

 茶色に近い金髪をオールバックにした、なかなか男前のお兄さんだ。

 それにしても、白い騎士服が少々ピチピチのような気が……。

 フン!と力を入れたら、某アニメの主人公のように服が破れそうだな。


「騎士様、先ほどはありがとうございました」


 ペコリと会釈をして立ち去ろうとしたら、なぜか、お兄さんが立ちふさがってくる。


「おまえ……かなりの使い手だろう?」


「えっと、何のことでしょうか?」


「とぼけても無駄だ。俺は見ていたぞ。おまえが魔法を行使して財布の行方を探しあて、犯人を転がし、財布を飛ばしたことをな。ただ、不思議なのは詠唱が聞こえなかったことだが……」


 お兄さんは首をかしげているけど、別に不思議でも何でもないよね。

 俺は、そもそも詠唱をしないもんな。

 それより……見ていたなら、俺が頑張らなくてもお兄さんが最初から出張でばってくれればよかったのでは?


⦅こやつ、見た目はこんなんじゃが、かなりの実力者のようじゃ⦆


 そうなの?

 じゃあ、ちょっと鑑定してみようかな。

 今まで魔物ばかりで、人を鑑定したことがないからさ。



     【名称】  マルセーヌ・ベルナード/29歳

     【職業】  ライデン王国第二騎士団 副団長

     【レベル】 53

     【魔力】  51

     【体力】  66

     【攻撃力】 魔法 32

           物理 55

     【防御力】 65

     【属性】  火、水

     【スキル】 風操作

 


 えっ、このお兄さん副団長なの?

 さすが、Sランク級だけのことはあるな。

 てか、この国、ライデン王国というんだね。

 初めて知ったよ。

 あと、属性に『水』があるのに、俺のように『(氷)』が付いていないのは何で?


⦅儂のように、水魔法を究めた者だけが行使できるものだからじゃ。並みの努力では、『氷魔法』は習得できぬのじゃぞ!⦆


 へえ〜、誰もがすぐに行使できるものではないんだ。


⦅当たり前じゃ! 一つの国に、数名おればよいほうじゃからな⦆


 ん? 国に数名いればよい?

 だったら、人前で安易に氷魔法を使用したら目立つんじゃ……


⦅言われてみれば、そうじゃのう⦆


「・・・・・」


 マホー!!

 そういう大事なことは、真っ先に教えてくれよ!

 俺、ゴブリン討伐のときにソウルの前で使っちゃっただろう!


⦅あやつなら、大丈夫じゃ。そういう『大人の事情』を、まだ知らぬ⦆


 『事情』じゃなくて、『事実』な!

 何が『大人の事情』だよ。

 ただ、この単語を言ってみたかっただけだろう……。

 小説の中では氷魔法の使い手なんてたくさん登場していたから、貴重とは思いもしなかった。



「それで、俺に何かご用でしょうか? 仕事がありますので、早く戻らなければならないのですが……」


「なに、用件は簡単なことだ。今から、俺と勝負をしようじゃないか!」


 はい、フラグ回収!!

 『血気盛んな方』なんて、ドレファスさんは良い感じに表現していたけど、ただの『脳筋』ってことだよな。

 しかも、見た目とステータスから想像するに、ゴリゴリの筋肉(力)押しの人だろう?

 そんな人と戦ったら、俺死んじゃいますけど。


⦅こちらも『魔法押し』をすれば良いだけじゃ! 相手に体力と防御力があるぶん、遠慮なく魔法を行使できるぞい。ちょうど良い、練習相手じゃな⦆


 おいおい、マホーまで何をやる気になっているんだよ。

 おまえは、そんな好戦的な人物じゃないだろう?


⦅わ、儂は、おぬしの上達のためを思って……⦆


 はは~ん、マホーは『隠れ好戦家』だったということか。

 でも、俺は絶対にやらんぞ!



「あの、仰っている意味が、よくわからないのですが?」


「俺は、強いヤツと戦うことを趣味にしているんだ。まさか、こんな田舎の村におまえのような強者が潜んでいたとはな……」


 いやいや、俺はただの一般庶民ですよ?

 お兄さんと戦う気なんて、これっぽっちもありませんから!


「申し訳ありませんが、お断りします。観光客がたくさんいらっしゃっていますので、俺は仕事に戻ります」


「じゃあ、坊主の仕事が終わってからでもいい。俺は、いくらでも待つ!」


 あ~、このお兄さん結構しつこいな。

 こっちはきっぱりと断っているんだから、諦めてくれよ……


「……マルセーヌ、貴様こんなところで何をしている?」


「だ、団長!」


 俺たちのところに、厳めしい顔をした壮年の男性がやって来た。

 彼を見てお兄さんの顔が青ざめたが、俺はこの人を知っているぞ。

 朝、ゴウドさんと話をしているところを見かけたからな。

 そうか、団長さんだったのか。

 よく見ると騎士服のデザインが違うから、団長専用なのだろう。


「部下に面倒をかけるとは、何事だ!」


 一喝されて、お兄さんがシュンと借りてきた猫のようにおとなしくなった。

 団長さんの後ろにさっき大浴場に来てくれた騎士さんたちがいるから、呼びにいってくれたのか。

 ありがとうございます。

 

「大変申し訳ありません。ですが、私はどうしても彼と勝負をしたく……」


「……おまえでは勝てぬ」


「なぜですか?」


「勝負を挑む相手の力量を見極められないから、おまえは未熟者だと言われるのだ。わかったら、さっさと自分の持ち場に戻れ!」


 お兄さんは名残惜しそうに俺の顔をチラ見したあと、騎士さんたちと去っていった。

 はあ……やれやれ。


「部下が迷惑をかけて、申し訳ない」


「いえ、大丈夫です」


 一時はどうなることかと思ったけど、団長さんのおかげで助かった。


「私は、ライデン王国第二騎士団団長のサパス・グスカーベルという。君の名を教えてくれないか?」


「俺は、和樹といいます」


「カズキは、オンセン開業に合わせて新たに雇われた冒険者なのか?」


「違います。俺は魔法使いの弟子をしておりまして、修行のため一人旅をしている途中です。こちらには、ひと月くらい前から滞在しています」


「そうか、いろいろと尋ねてしまってすまない。では、私はこれで失礼する」


「ありがとうございました」


 団長さんを見送り、俺も歩き出す。

 これで、ようやく仕事に戻れるな。


⦅ふむ、あやつは少々気になるな……⦆


 そうか? 良い人そうだったけど。

 

⦅鑑定スキルは持っておらなんだが、おぬしの実力を一目で見抜いたぞ⦆


 まあ、団長さんだし、それくらいはできるでしょう。


⦅レベルから防御力までの数値が大体50前後と、安定しておった。属性は『水』と『土』。スキルは『雷操作』だったかのう⦆


 雷操作って、某黄色モンスターみたいな電撃攻撃ができるってこと?

 ちょっと、カッコ良いかも。


⦅相手の体を水魔法で濡らして攻撃すれば、より『ダメージ』を与えられるのじゃ⦆


 うわ……想像しただけでも、ヤバいやつじゃん。

 もし攻撃を受けたら一瞬で心臓が止まり、あの世行きが確定だな。


⦅おぬしには、これから魔法攻撃に対する防御の方法を伝授せねば、なるまいな⦆


 いざという時のために覚えるけど、俺は率先しては戦わないからな!


⦅……わかっておるわい⦆


 微妙な間があったのが気になるが、とにかく今は仕事を頑張るのみ。

 だって、今日の夕食は、ルビーがごちそうを作ってくれるんだから。




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