史上初の農民反乱から王女殿下が学んだ天子の心構え
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
安徽省宿州市渉台村。
中華王朝の内陸に位置するこの村を訪れた者は、史上初の農民反乱である大澤郷起義を指導した陳勝と呉広が今も人々から慕われている事を実感するじゃろう。
何しろ既存の記念碑に加え、新たに決起の模様を再現した石像まで建立されたのじゃからな。
安徽省を公務で訪れていた妾達も除幕式に立ち会う運びと相成ったが、その混雑具合には随分と驚かされたぞ。
御陰で来賓室に戻ってからも、その時の話題で持ちきりじゃった。
「大した物よ。地元民や観光客を始め、一般客が彼程に詰め寄せるとはな。」
除幕式とスピーチをこなした妾は、そう溜息混じりに呟いた。
「仰る通りで御座います、愛新覚羅翠蘭第一王女殿下。」
そんな妾に応じたのは、側近として同行させた太傅の完顔夕華だ。
「何しろ陳勝と呉広は秦の二世皇帝の圧政への反抗の先駆者であり、項羽と劉邦の台頭も彼等の決起あってこそですからね。」
太傅の解説は、立て板に水の勢いだった。
「圧政への反抗、のう…」
太傅の一言を反芻しながら、妾は大澤郷起義に思いを馳せたのじゃ…
公務を終えて北京の紫禁城へ戻ってからも、大澤郷起義に対する妾の関心は尽きなかった。
「陳勝と呉広の決起の発端は、そもそもは秦の苛烈な法制度じゃな。長雨という不可抗力にも関わらず、徴兵の集合に遅れれば問答無用で死刑。これでは反乱したくもなろう。天子は仁徳の心で民達を慈しまねば。我が国の今上女王である愛新覚羅紅蘭陛下のようにな。」
「苛法で国を荒廃させた例は司馬遷の『史記』に幾つも御座いますからね。」
書庫の資料に目を通す妾に、太傅は大きく頷きながら応じてくれた。
「元を辿れば二世皇帝の胡亥の無責任な姿勢が原因よ。国政を顧みず宦官の趙高の甘言を信じて酒色に耽るとはな。天子が国と民を顧みねば国は自ずと綻びる。その割を食うのは何時の世も無辜の民達よ。斯様な愚行を我が中華王朝で繰り返してはならぬ。」
「殿下も行く行くは中華王朝の女王として御即位される御身で御座いますからね。次期天子として責任感に満ちた殿下の御姿、臣下として心強い限りで御座います。」
国政の腐敗に苦しんだ民達の武装蜂起にして、国を治める資格を失った王朝に成り代わろうという易姓革命。
そうした大澤郷起義の持つ歴史的意義の再認識は、妾にとっては天子の心構えを新たにする良い機会となった。
母上である紅蘭陛下に負けぬ優れた仁君となれるよう、より一層励まねばなるまいな。