こども
走る。走る。どこへ?怖い。行かなきゃ。聞こえない。怖い。
『〇〇市✕✕✕✕-✕。少し遠いけど人に訪ねながらいきなさい』
怖い。苦しい。誰?寒い。
『君ならできますよね?死にたくなければ』
苦しい。怖い。怖い。怖い。ー
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俺は倒れた子供を自分の部屋に入れた。
一瞬働いている店にするかも迷ったが、仕事の邪魔になる。結局部屋に入れた。
自分で言うのもなんだが、俺の部屋は他人が見れば驚くほど生活感がない。あるのは生活に必要なものだけだ。特に盗まれて困るものもない。
ソファに寝かせた子供には40度の熱があった。夏の猛暑の中での熱中症もそうだが、普段の疲れがここに来て出たのだろう。かなり弱っている。このまま死んでもおかしくないかもしれない。
普通ならここで病院に連れて行くべきなのだろうが、それはしない。
この子供は普通の子供では無いのだ。こいつの飼い主、つまり人を弄び、欲を満たす奴らは決まって自分のモノに独占欲が強い。
仮に俺がこの子供を病院に連れて行けば、その客から怒りを買う可能性がある。子供も叱られるだろう。
(奴隷が死ぬことには無頓着なくせに、)
俺は水の入ったコップをソファの近くのテーブルに置き、眠ったままの子供を睨みつける。
30分程たったか、子供はまだ眠っている。
まだ6歳ほどの子供だ。肌は白く、少し痩けている。髪は身長よりも長いのではないだろうか。少し灰色がかった髪が体を覆っている。
息はまだ荒い。最低でもあと1時間は起きないだろう。
(俺が看病していないといけないんだろうが、)
俺にも仕事がある。ずっと店を空けるわけにもいかない。
(最低限の事はした。水も飲ませた。薬も飲ませた。もし自分が帰ってきたときに死んでいてもしょうがないだろう)
死のことを考えても俺は至って冷静だった。
(どうせいつも仕事で人を殺す手伝いをしているんだ。当たり前か。・・・だが、この部屋で死んだなんてことがあれば、気分は最悪だろうな)
ため息をつく。
意味などないが子供の寝ているソファに近づき額に触る。まだ熱いままだ。
「踏ん張れよ、ガキ」
意味もないのに声をかけてしまった。
店に客は来なかった。元々特殊な仕事だから人が来ることの方が少ないが、。
俺の部屋は店の二階にある。何度か様子を見に行こうかと思ったがしなかった。
時間は7時を回っている。
今俺は自分の部屋の前にドアノブを掴んだまま立っていた。
もしこの部屋で既に死んでいたら、。そんな考えが頭を過ぎる。
今更ながら自分の部屋に子供を入れたことを後悔した。
(寝心地が悪すぎる。いや、そんなこと考えてる場合じゃない)
頭を振る。俺は静かにドアを開けた。
自分の部屋なのに泥棒のようにドアの隙間から顔を覗かせる。
子供は、ソファにいなかった。
(あの状態で帰ったのか?)
部屋に入りソファに近づく。
どうやら帰った訳では無いようだ。
ソファの下に髪が散らばっているのが見えた。
ゆっくり近づき子供を覗き込む。
肩が小さく揺れていた。
(呼吸が安定している。ソファから落ちたのか?)
髪を避けながら小さな体を抱き上げた。
伝わってくる体温も暖かかった。
(熱は下がったようだな)
そのままソファに下し、上体を起こす。
テーブルを見れば1度起きたのだろう。コップの水が無くなっていた。
(まあ死んでなくて良かった。)
気が抜けて1度伸びをする。
それと同時にふと思った、。
(飯どうしよう?)
まだ人がいるとはいえ、この時間に外に出るというのは少し危険だ。うちに恨みを持つヤツらがいるかもしれない。
このまま自分の部屋でなにか作ってもいいがあまりにも子供がぐっすり眠っていて音を出すのが躊躇われた。
(・・・・・・・・・握り飯でも作るか、)
なんで俺がこんなに気を使ってるんだ?という疑問は起きなくもなかったが小さく明かりをつけ、黙々とおかかの握り飯を作った。
今回も読んでくださりありがとうございます。
「面白かった!」って思っていただけると幸いです。
次も読んでみてください。いや、呼んでほしー