私のせんべい
私の部屋には、1枚のせんべいが鎮座している。
丸くて、茶色くて、へにょへにょで、ぺったんこ。
部屋にとけ込み、椅子と融合し、尻に馴染んだ、かけがえのない一品。
中の綿が圧縮され固くなってしまった、いわゆる…せんべい布団という奴である。
初めて手にしたあの日…、たしかにモコモコとした厚みがあったはずなのに。
初めて部屋に招き入れたあの時…、たしかにどこに置けばいいのか迷うほど存在感があったはずなのに。
初めて椅子の上に乗せたあの瞬間…、たしかにもてあますほどのボリュームがあったはずなのに。
かつて柔らかいボディを誇っていた事が幻であるかのように、ぴったりと椅子の座面に貼りついている、せんべい。
せっかく買ったのだからと、使用時の違和感をごまかしながら使い始めて、はや…10年。
長年の使用により、その姿は…信じられないくらい、変容した。
これはクッションであると口に出すのが躊躇われるほどに、せんべい化してしまったのだ。
毎日圧し潰され続けて……弾力を失い。
毎日私の体重を受け止めて……厚みを失い。
あれほど、座高が高くなると文句を言っていたというのに。
あれほど、座り心地が微妙だと不満を言っていたというのに。
座面を離れて、丸まって頭を支えた日もあった。
外側のカバーを剥いで、真夏の日光を浴びせた日もあった。
いつしか、椅子の上になければ落ち着かなくなっていた。
いつしか、どれほど日に当てても膨らまなくなっていた。
……安いザブトンですら、もっとふこふことしているはずだ。
どこにもクッションらしさを備えていない、疲労感の漂う敷物となってしまった事に…悲しみを覚える。
クッションの魅力の最前線たるふこふこを、根こそぎ奪ってしまった事に…申し訳なさすら感じる。
時折定位置を離れつつ、長い時間をかけて、せんべいと化した……私の、相棒。
……もし私が、羽のように軽かったならば。
……もし私が、別の場所で使っていたならば。
……もっと丁寧に使って来ればよかった。
……これからは、労わる気持ちを胸に…長く、長ーく、愛用していくことにしよう。
私は、反省を胸に…せんべい布団を、見下ろし。
どかっ!
ガシャっ!!
ぐぎゅー!!
が、ガガッ!!
勢いよく、定位置に腰を下ろし。
ばりゅっ!
がさっ…。
バリ、ぼり!!!
パラ…パラっ…!!!
大好きな固焼きせんべいを口いっぱいに頬張りながら、パソコンの電源ボタンを押したのだった。