Ⅰ セイシュンの始まり-①
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
詩島と申します。
初めての作品ですので、至らない点などあると思いますが、どうかよろしくお願いします。
目標としては、“人間らしさ”をいっぱい表現したいなと思います。
(注意事項)
人が死にます。また、流血表現やリンチ描写、いじめ描写、サイコパス的な言動、人の命を軽んじる言動も含まれます。(作者が推奨してるワケではありません。)読む人を選ぶ小説です。ダメだと思ったら無理をなさらずブラウザバックを推奨します。
四月某日。
広瀬千春が、高校三年生になって数日経った。
今日も平和─────
「広瀬ぇ~飲みモン買って来てよ」
─────なワケ無かった
「お断りします」
窓際の席に座る少年─────広瀬は今日も今日とて欠勤している表情筋をピクリとも動かさず、話しかけて来たガタイの良い生徒────木村に返事をした。木村はクラス一の強面且つ強欲傲慢運動神経抜群でスクールカーストのトップ。木村の“オトモダチ”にもおっかない奴が多く、今も後ろで木村に負けず劣らず強面なツレが騒いでいた。けれど広瀬の表情筋はなおも動かない。広瀬はツレ以外で木村相手に普通に喋れる数少ない一人だった。
「はぁ?ふざけんなよ」
「そんな事する義理ないから」
「オイオイ黙ってりゃあよぉ…随分言ってくれんじゃねーか」
木村と広瀬のやり取りに周囲はこれっぽっちも反応しない。もう慣れたのだ。それこそ最初は息を呑んで見守っていたものの、今となっては知らぬが仏。ああまたかと平静を装う。慣れとは全く怖いものだ。
「? そんなに喋ったっけ…?」
「よーしキレた」
広瀬の言葉に(かなり沸点の低い)木村がブチ切れ、手を振り上げた時だった。
「やめろ。中井先生呼んで来ようか?」
「あ?…チッ、シラケる事すんなよな神崎」
間に割って入ったのは神崎綾斗。広瀬の隣の席の男子だ。因みに中井先生は生徒指導の先生。木村は何度もお世話になっている、説教が長くネチネチしている事で有名だ。
「どうとでも言ってろ。広瀬、ケガしてない?」
「…どーも」
「無事なら良かった。」
そして、タイミング良くチャイムが鳴り響く。
「席つきぃ~」
教室に入ってきた人物がそう告げると、全員が各々の席に座り始めた。
「あ、ペンとかノートいらへんよ。教材も全部しまってええから」
教室が急に騒がしくなった。
神崎も、この教師は何を言ってるんだろうと疑問に思いつつ、ペンもノートも全部しまう。何なのだろう。特別授業?まさか自習?
しまいながら、教師の思惑を予想し続けた。
───────隣の席の広瀬の表情を見るまでは
「…バァカ」
そう言うと、広瀬は普段なら三ミリも動かない表情筋を動かし、不敵な笑みを浮かべた
───────そして、突然違和感の正体に気付けた
(…ちょっと待った)
俺達の担任、あんな人じゃないだろ
教卓の側でニコニコと笑ってる男は、糸目で、漆黒の髪を肩の辺りまで伸ばしてる。しかも若くて、関西弁で、身に纏う服は和服。神崎達の担任は滅多に笑わない事で有名な先生だ。つり目で、暗い茶髪。アラフォーで、標準語をちゃんと使って、年中ジャージ。
ゾクリと、背筋が凍る
何もかもが違う男の違和感に、少し前まで何一つ気付かなかった事
そして自分に相反し、隣の彼は最初から全て見抜いていた事
ここまで、誰かを恐れたのは生まれて初めてだった
「さーて、もう気付いた子おるみたいやし、話そか
はじめまして。今回”セイシュンバクハツプロジェクト”の三年二組の担任及び、数学Ⅴを担当する
コードネームはチカゲや。みんなよろしゅう」
ここでやっと気付いた生徒が大半だ。教室中が再び騒がしくなる。実際神崎も、広瀬に気付かなければ気付けなかっただろう。
「はーい落ち着いて~。説明するで。」
男────チカゲはパンパンと手を叩くと、説明を始めた。
「ココ、唄形学園で国が企画したとあるプロジェクトが行われる事になった。その名も”セイシュンバクハツプロジェクト”。みんなにはコレに参加して貰うで。
せやけどまぁ、参加不参加は自由や。一度参加したら後戻りできんけどな」
そう言いながら、チカゲは教卓の上にゴトッと四角い籠を置いた。中にいるのはハムスターだ。回し車を精一杯走っている。誰かが「わ、可愛い」と呟いた。「せやろ?」と返すと話を続けた。
「プロジェクトの概要を一言で言うてまえば、」
“殺し合い、や。”
瞬間、教室中の空気が凍りついた
「なっ…誰が参加するかよそんなモン!」
木村のツレの一人────井上が立ち上がり、抗議する。
「最後まで聞きぃや。ゆーても、タダでやれっちゅーワケちゃうで。」
「…何か、それ相応の見返りがあるのか?」
今度は別のツレ────岡田が口を開いた。
「せやね。殺し合って残った10人には」
”何でも願いを一つだけ叶えられる権利が与えられる”
その言葉に、神崎がピクリと反応した。
それを見逃さなかったのは恐らく、広瀬とチカゲの二人だけだろう。
教室内は、そんな神崎に目もくれずザワついていた。
「…具体的に、何をするのか教えてください」
神崎が、ゆっくり口を開いた。
チカゲは、先程と変わらずニコニコしたままだ。けれど、見えづらい瞳の奥では、何かがゆらりと揺らめいていた。
「ええで」
そう言うと、最初のようにパンパンと手を叩いてから話し出す。
「まず、参加すればキミらの人権は消える。」
「「…は?」」
教室内のほぼ全員の声がハモった。
「人権が消えてまえば、殺すのも殺さへんのも自由やろ?それに、この国の法律は適用されんくなる。せやから、人権は一度没収や」
「…食事は、与えられますか」
「安心せえ。学園内に大型モールが建つ。そこで何でも買ってええよ。これは国からの支援や。せやから全部タダ。いくらでも食うてええし、服も自由や。あ、お家には帰せへんよ?こんなんさせて帰すとかアホかいなwドデカイ学生寮も建つ…っちゅーか、既に建っとる。そこんとこはホンマ安心してええよ。」
「…なら、良かった」
神崎がホッと一息吐く。そんな神崎を、広瀬は横目で観察していた。
「おん、続けるで。
殺し合いはいつやったってええよ。せやけど、正式に行われ、なおかつ大きな殺し合いが出来るんは”青春らしいイベント”ん時か、”中間・期末試験”くらいやない?」
「…青春らしいイベント?」
「おん、文化祭とか、体育祭やね。他にもあるで」
「…そうですか」
「最後まで残る為にはデカイのでスコア残すんも大切や
あとは…授業もあるで。基本特別授業や。クラス毎にその”色”は異なるから…コレは後ででええか。
ま、ざっとコレくらいやね。他に質問ある子おる〜?」
チカゲが全員に向けて問いかけるが、教室はその言葉なんて無かったかの様にザワついていた。
「ハイセンセー」
広瀬が、初めて口を開いた。
クラスの全員がピタリと話を止め────特に神崎は、緊張して言葉を待った。
「おん、どしたん広瀬」
「何でこのプロジェクトをやるの?」
クラスの全員は、意味が分からず固まってしまった。広瀬はそんな周囲に構わず続ける。
「こっちのメリットは分かった。でも、」
”そっち────開発者側の利益は?”
「趣味悪いエンタメにしちゃ過激過ぎるし、仰々しいし。何よりつまらない。」
「…さぁ?追々分かるで」
「…あっそ。」
そう言ったきり、広瀬はまた黙ってしまった。
「さーて、もうええ?ほんなら早速───」
「待てよ!」
「?」
岡田が声を張り上げた。
「俺は辞退するぞ!意味わかんねぇ!殺し合いなんてまっぴらごめんだ!」
岡田の声に、何人かのクラスメートが同意の声を上げる
「そうだそうだ!」だの、「誰が殺し合いなんてするもんか」だの、罵声も少なくなく飛び交った。
「ん~…」
チカゲは髪をボリボリ掻きながら唸った。その仕草は広瀬や神崎からすると少しわざとらしく、「困ってる」とわざと全力でアピールしてるようにも見えた。
しばらくして、静かに口を開いた。
「しゃーない、ええで。ほんなら辞退届け書いて貰わなあかんし、前まで取りに来ぃや」
「…分かった」
やけにあっさりしている。二人は少し不審に思ったものの、岡田の行く末を見守った。
そう言うと岡田はゆっくり立ち上がり、教卓へ歩を進めようとした。
瞳の奥がまた揺らめいた
気付いたのはたった二人
気付いた内の一人───神崎の声が、教室中を劈いた。
「止まれバカっ!」
遅れて、今度は誰かの悲鳴が教室中を劈いた。
岡田の首には何かが食い込んでいて、血がポタポタと零れ落ちていた。
「あ…ッ」
「やぁっと気付いたん?ほんま鈍いわぁ…」
シューっと何か──鉛筆が切れる音が響いた。
「すっげ。真っ二つじゃん。」
気付いた内のもう一人────広瀬が断面の美しい真っ二つの鉛筆を見て、独り言呟く。
「…鉄線」
神崎がポツリと呟いた。
「方法は分かんないけど…俺達と話してる最中に机の間と間に───碁盤状に張り巡らせた。鉄線はハムスターの回し車と繋がってる。だからコレは、超高速で動く見えない糸となり、殺傷能力が高くなる。
…人一人の首を本人が気付かない程度で跳ねれるくらいには」
「せーかいや。よう気付いたやん。」
「窓際ですから。光が反射してキラキラ光ってました。
…広瀬はそうでもないっぽいですけど。」
「…耳はそれなりに良い方だから。隣でヒューヒューうるさい。」
「へぇ、優秀やん
あ、せやせや。辞退するっちゅーんなら死ぬしかあらへんよ。生かして帰したらあかん言われてもーてん。」
「はッ……」
「もーええ?ほんなら始めんで~。最初のテストや」
戸惑う岡田を気にも止めず、パンパンと手を叩いて話し始めた。
「実力チェックの抜き打ちテスト。せいぜい頑張りぃや。一人死んだら終了。ほな始め~」
チカゲの言葉と共に、テストが突然始まった。教室中がワァッと騒がしくなる。
鉄線は既に回収されたのだろう。広瀬が隣の神崎の机に触れてもなんとも無かった。
「なぁ…広瀬か神崎殺さねぇ?」
ザワついていた教室の中で、誰かがポツリと呟いた。途端にしんと静まる。
「?」
「なぁ、やろうぜ木村!腹立つだろあいつら!」
呟いた誰かは、広瀬に殴りかかった男────木村に話し掛けた。
「おー…そうだな、やるか」
「じゃあ俺も参加~」
「リンチ決定じゃんw」
クラスの面々が口々に言う。さっきまでの事なんて無かったかのように。
「どっちにする~?」
「やっぱ広瀬?」
どっちにするかという議論では、広瀬という声が多数上がった。当の本人は窓の外をぼんやり眺めて動かない。
「いや、神崎だ」
木村が、威圧感を含んだ声で言った。
「えっ、神崎?」
「最近のあいつはかなり調子乗ってんだろ。一回俺の恐ろしさ、思い知らせてやんねぇとな」
「りょー笑」
そう言うと、木村含む数人が神崎へゆっくり近付いた。
神崎はと言うと、何かを黙々と考えているようで全く動かない。
「おい神崎」
ゆっくりと神崎が木村の方を向く。
と、同時に神崎を木村が蹴り上げた。
どちらかと言えば細い神崎とガタイのいい木村という体格差も相まって、神崎は派手に吹き飛んだ。
「まーずいっぱーつw」
「何発耐えれるかな~?w」
クラスの連中は、リンチに参加している者を除き、我関せずと言わんばかりにそっちを向こうとしない。広瀬も、さっきから息をしているか心配になる程微動だにしなくなった。
チカゲもしばらく見ていたものの、遂に小さな溜め息をつくとそっぽを向いた。
木村達は周りに見向きもせず、リンチに集中した。ゲラゲラと笑いながら、神崎を嬲り続けた。