席替え
三題噺もどき―にひゃくななじゅうに。
毎日毎日、暑い日が続く。
まだご5月半ばだ。
こんな言い回し、夏にならないと使わないってのに。まだ5月だ。
まだ春だと思っていたいのに、季節はもう夏なのだろうか。
「……」
窓から入ってくる、唯一の涼に甘えながら、ぼぅと室内を眺める。
こういう時、窓際で且つ影になりやすい位置というのは、少し得をした気分で良いな。
まぁ、時間を間違えると、日当たりがよすぎて損をしている気分になるが。
「……」
眺める先では、1人の大人が何やら話している。
どうやら修学旅行云々を決める前に。席替えをするそうだ。
……あぁ、言うのを忘れていたが、ここはある高校のある教室だ。
学年は想像にお任せしよう。修学旅行のある学年なんて、それだけで答えを言っているようなものだが。まぁ、地域によって時期は違うだろうし、案外バラつきが出るかもしれない。
「……」
学年が変わり、新しいクラスになり。
半分以上いる知らない人間に囲まれて過ごしてきた。1か月半。
他のクラスはとうに席替えなんて済ましているから、このクラスはしないもんだと思っていた。
なんせ、今の状態で良い感じに収まっている。
黒板が見えずらい人は、最初の時点で前に座っているし。他を、出席番号順に座ったうえで、問題児的お子様たちが、いい感じのバラつき且つ教師から目に付きやすい位置にいる。
……こう、言葉にしてみると、ホントに奇跡的な確率でおさまりがいい感じになっている。こんなにうまくいくものなのか?
なんか、この辺も考えて、クラス替えをしたのならあっぱれだ。
し、この1か月半崩さなかったのも分かる気がする。
「……」
が、まぁ、色々と思う所もあるのだろう。
それか、あのあたりのキャピキャピ系の女子に何か言われたか。あぁ、なんかあからさまにテンション上がってるから、そうかもしれない。
彼女らの頭のあれ加減には辟易するが、行動力の高さには尊敬するところがなくもない。
まぁ、正直いらないと思うが。
きっとあれは、若いが故の、社会を知らないが故の、甘えが起こした行動力だろうし。ああいう風に、言えば聞き入れられると覚えてしまって、この先行動すると、どうせどこかで折れそうだ。
まぁ……そんなのは知ったことではないので、心底どうでもいい。
「……」
はぁ、それより席替えだ。
このままの席が良いのだが…ダメだろうか。
程ほどに知らない人しかいないから、変な会話が生まれることもなく、下手な接触もないから、楽でいいのだが……。
というか、今更席替えしたところで何も変わらないと思うのだが。
「……」
だってもう1ヶ月半だ。
「……」
それだけあれば、クラス内でのコミュニティもヒエラルキーも完成している。
あぁ、それを見たうえで、これはいかんと思ったのかもしれないが。おそいですせんせー。
もうほんと……どうでもいいの我関せずをしているが。
このクラス、なかなかに面倒な感じで色々と出来上がってしまった。
詳しくは知らない。基本的にこの教室にはいたくないから、いないし。
知りたくもないし。
関わりたくもないので。
「……」
ん……。
どうやら、今回の席替えはくじ引きで行われるようだ。
小さなポリエステルの袋に、人数分のくじが入れられているらしい。
一体何分で作り上げたのだろうあれ……。よく見れば何かのプリントの裏のようにも見えるが……。まぁ、忙しいもんな先生も。
「……」
見えづらい人は、前の席のみで動くようだ。
その人数分を抜いて、その上での他の人のくじ引き。
黒板には、机を模した四角が描かれ、番号が振られていく。
引いた数字の場所に、自分の名前を書いて行けということらしい。
「……」
廊下側から順に。
1人、1人と教壇へと向かう。
次に、1枚、1枚とくじを取っていく。
最初の1列は、まだ静かに行われる。
そこから徐々にうるさくなっていく。
「……」
隣がよかっただの、後ろがよかっただの、窓側が良いだの、廊下側が良いだの、隣でラッキーだの、近くで嬉しいだの、廊下側で最悪だの、窓側でよかっただの。
「……」
たかが座る場所程度で、一喜一憂。
感受性が豊かなようで何より。
それでも案外スムーズに進んでいくのは、中学より大人になった証かもしれない。
前はもっともたついた。
「……」
ん、そろそろだろうか。
暇を持て余したまま、くるくると手元で遊んでいたペンを筆箱の中にしまう。
窓側から教壇って、地味に遠いから動くのが面倒なんだよなぁ……。
並ぶのだってそんなに好きじゃないし、そこにたまるな…引いたら早く席にもどってくれ…。
「……」
気持ち遅めのタイミングで動く。
思っていたより勢いよく立ってしまったのか、椅子が嫌な音を立てて動いた。
そのせいで、後ろの席に当たってしまった。
が、どうやらうたた寝をしていたようなので、目が覚めて万歳だな。
「……」
そのまま、教壇へと向かい。
丁度いいタイミングで、順番が来た。
「……」
残り数枚になった袋の中から、適当に手でつかむ。
はい。
……お……。
今と同じ場所では……?
「……」
開かれた紙の数字と、黒板に書かれた数字を照らし合わせる。
あ、やっぱり。おんなじ場所だ。
動かなくてラッキー……。
「……?」
はい?
何でしょうか先生。
私にペンを差し出して。
その紙はなんですか?座席表のように見えますが。
……え。
「…はーい……」
移動しなくていいなら、座席表に名前を書き写しておけだとよ。
皆が移動している間に。
人使いの荒い先生だ。
そんなだから、生徒に嫌われるってのに。さ。
お題:椅子・ペン・机