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スペースポストマン  作者: daishige
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第九話・真相

●9.真相

 「とにかく郵便物を失う失態は避けられたし、戸川も無事だ。ひと安心だな」

桜内はブリーフィング室の面々に言っていた。

「一連の不可解な事件も松井の仕業だとわかりましたし、テロリストのおかげで、いろいろなモヤモヤが晴れた気がします」

戸川は後遺症のことを忘れたように淡々していた。

「不幸中の幸いってことっすね」

白井にはどこか語気の弱々しさが漂っていた。桜内は自分にいつ後遺症が見られるか気になっていたが、クルーの前では、ハツラツとした船長を演じていた。

「白井君、それを言うなら、人間万事塞翁が馬の方がしっくりと来ないか。あっ余計なことを言ってしまったか」

田山は特に悪気がなく軽く微笑んでいた。白井は初耳と言う顔をしていた。

「それで現在、地球まで後12日の所まで来たが、今後もさら気を引き締めて行こうではありませんか」


 医務室には張り詰めた空気が漂っていた。

「船長、端的に申し上げて、あなたにも後遺症の兆候が見られ始めています」

田山はさらりと言っていた。

「やはり、そうでしたか」

桜内は肩を落とし気味にしている。

「まだ、ペニスの縮小段階にあり、陰嚢が体内に取り込まれ陰口になるまでには、数日かかると思います」

「地球に到着する前には中性になるわけか」

「しかし船長、地球に到着すれば、最新設備の整った感染症研究施設が沢山あります。私の船内医療データを元に何らかの改善薬できるはずです」

「わかった。船長業務に支障は出ないようにする。女性の船長もいるしな…、あぁ中性か、中性の船長は私が初かな」

桜内はとぼとぼと医務室を出て行った。


 「マイカ、本当に宛先が変更された郵便物があるのか」

桜内は郵便物保管庫の操作ブース内にいた。

「はい。地球到着に備えてロボットによる目視確認で判明しました」

「でもデジタルデータではなく、アナログな紙の手紙だろう。どうやって変更するのだ」

「時間が経てば消えるインクと時間が経てば現れるインクの両方を使えば可能です」

「そこまでする必要がある郵便物とは裏がありそうだな。あ、これか」

桜内の手元にロボットが持って来た。

「しかしだ。郵便物は全て登録されいるから宛先変更などの仕掛けを施しても、すぐにバレることはわかりそう

なものだが」

「それですが船長。いくつか可能性が考えられます」

「あえて、わかるようにして何か意味があるとしたら、開けさせることか」

「はい。船舶の航行に支障があったり、違法な郵便物ならば、中身を検めることができます」

「しかしこれは爆発物とか違法薬物の反応は見られなかったのだろう」

「そうですが、宛先を変更することは宛先詐称で違法なものになります」

「なるほど、さっそく中身を見てみよう」


 桜内は封筒を開け、便箋を広げる。

『貴船には、誰か特定はできないものの、2つの異なるエージェントが乗船しています。この目的はノバ感染症爆発をきっかけにした、世界革新社会党派と国際自由国民党派の勢力争いです。これを開封している頃には、地球到着が迫っているはずです。どちらにも注意を払い郵便物を届けてください。 オリエンタール執政長官』と書いてあった。

 「今さら、こんなこと言われても遅い気がするが、面倒なことに巻き込まれていることは確かだ。それに…、岩村さんが言っていたことの意味がわかってきた。でも彼はなんで詳しいのだろう」

「岩村さんが所属する医薬品会社は国際自由国民党を支持している可能性があります」


 田山は、医務室のモニター画面にはマウスの映像を流していた。

「オリジナルのノバウィルスを感染させ後遺症があるこのマウスは、2日前に尻尾を切ったのですが、また生え

始めています」

「ドクター、あの白っぽいものが生えてきた尻尾ですか」

桜内は興味深げにマウスを見ていた。

「はい。これが示唆していることは不老不死につながる可能性です」

田山は思い込み半分だが、ある程度自信があるようだった。

「後遺症で不老不死になるというのですか」

桜内が言っているが、同席している白井と戸川はあ然としたままであった。

「何らかの不具合が生じると新しいものに置き換わると言うことは、古くなった臓器や脳なども更新されるはずです」

「中性になるとセックスと引き換えに、不老不死っすか」

白井は有難迷惑のような顔をしていた。

「人類の新しい進化形態ということなのですか」

戸川は信じられないといった表情になっていた。


 桜内はこの日の業務が早めに終わったので、図書室でセクシー女優のグラビア写真集のページをめくっていた。何か景色の写真集でも見ているような気持ちで、いつもと違和感があった。これが中性になるということかと、ぼんやりと考えていた。人生楽しみの一つが減ってしまった感があった。その上、感情的になることが減り、穏やかになっているようだった。

 桜内が閲覧席にいると、戸川が図書室に入って来た。彼女は健康関連の本がある棚の方へと行った。桜内は、後遺症について女性の場合、どういう気持ちになっているのか知りたかった。

 戸川は美ボディ育成、セクシーダイエットといった本を手に取っていた。

「よぉ戸川、資格の勉強か」

桜内が声を掛けながら、戸川は開いているページを見ると、育乳、豊胸マッサージになっていた。桜内と戸川の目が合った。

「ぁ船長…」

戸川は僅かに戸惑っていた。

「どうした」

「あの。何でもありません」

「…あぁそうか。女性的になりたいのだな」

桜内は戸川の気持ちを察していたが、口に出してしまったので、戸川はヒステリックになるのではと身構えていた。

「はい。女性的な体に未練があります。マッサージなどで改善できればと思いまして」

戸川は特に感情的にならず、淡々と言っていた。

「戸川、実は私も後遺症が始まっている。今までの自分の性の象徴だったものが失われることに、正直を言って怖いのだ」

「船長も不安に駆られているのですね。しかし中性になりきってしまうと、意外に怖さや不安は消えて、感情的に安定します。しかし以前の性に対して未練は残りますけど」

「そうなのか」

「最近、私は船長を上司や男性と見るのではなく、一人の人間として見られるようになった気がします。立場や役職、年齢や性別といったものを度外視できるようなのです」

「つまり全てにおいて対等ということか」

「…よくわかりませんが、今まで自分が見聞きしていた対等と平等という意識が陳腐に見えて来たのです」

「戸川、それはもしかすると、今の私よりも進化したのかもしれないな」

「そうなんですかね」

戸川は淡々としていた。

 近くの閲覧席から何かが落ちる音がしていた。桜内と戸川は、そちらを見ると茶々丸が、ニャーとひと鳴きして桜内たちの方を見ていた。

「なんだ、茶々丸、またドクターの部屋から抜け出したのか」

桜内は茶々丸を抱き寄せた。

「こいつ、ちょっと太ったみたいだ。重くなった気がする」

「船長、茶々丸の体重がわかるのですか」

「よくかまってあげてるからな。マイカ、ドクターは今どこにいる」

桜内は戸川に言った後、襟章のマイクに言っていた。

「自室にいます」

「あぁドクター、茶々丸を引き取りに来てくれ」

「えっ、茶々丸ですか。ここにいますけど」

「まさか。だって私の前にも…」

桜内が言っていると茶々丸は手からすり抜けていった。

「船長、あの猫は…、乗客のですか」

戸川は首を少し傾げていた。

「いや、確かにあの猫は茶々丸だったがな」

桜内と戸川は、ぼーっと猫が去って行った図書室の出入り口を見ていた。


 桜内は、医務室で桜内の手や衣服に残っていた猫の毛を分析した結果を見に来ていた。

「船長、これは茶々丸のクローンだと言えます」

「クローンだと、いつオリジナルの茶々丸の細胞を採取したのだ」

桜内はあり得ないと言う表情であった。

「茶々丸は船内では、ほぼ放し飼いのような状態ですから、その気になれば採取できたでしょう」

「しかし、ドクター、採取してクローンを作るとなると、1年とか時間を要するだろう」

「計画的にかなり前に採取していたとしたら、どうでしょうか」

「…だとすると、マイカ、『しなの』に1年ぐらい前に乗船した人物で、今回の航宙に乗船している乗客はいるか」

桜内は襟章に向かって言っていた。

「検索してみます。少々お待ちください」

「そいつがドクターのデータを盗んでいることは確かだな」

「船長、でも図書室の論文ソフトのルンウェン8の使用履歴はどなるのでしょうか」

「ここまで計画的な連中だと、そんなものは、いくらでも変えられるだろう」

「船長、検索結果によると該当者はいませんが、489日前に乗船した乗客IDナンバー334の須賀奈美が候補に挙げられます」

「須賀奈美…って誰だ」

「既婚者なので苗字が違っていますが、今回乗船している岩村征太の姉です」

「マイカ、旧姓まで調べてくれたのか」

「はい」

いつもの人工音声だが自慢げに聞こえた。

「船長、どうしますか」

「ん、気付かないフリをして、フェイクなデータをUSBメモリーに入れておいて、クローンに持ち出させましょう」

「これから書き込むデータは、別のメモリーに入れて、ドクターが肌身離さず持つか、私に預けてください」

「それでフェイクな方は、いつもの所に置いておくのですか」

「はい。ドクターの業績なのに、岩村の業績としてどこかで発表したら恥をかかせる内容にしておきましょう」

桜内は軽く笑みを浮かべていた。

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