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スペースポストマン  作者: daishige
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第四話・感染者

●4.感染者

 郵便物保管庫で他に不審な箇所はないかと調べている桜内と白井。

「江川が読もうとした郵便物はこれか」

桜内は見えるわけはないのだが、紙の封書の方を照明に透かしていた。

「船長、何が書かれているんでしょうか。よほど重要な内容では」

白井はしっかりと赤い蝋で封印されている封書を見ていた。

「ん。郵便物を開けることは我々の信用に関わることだからな」

「オリジナル封筒っすから、破ったりすると替えがないし、意外とアナログな方が秘密が守れそうすっね」

「一見すると何気ない封筒だが、オリエンタールの執政長官から国際宇宙連合総長宛の親展とは、ただ事ではないぞ。サーバーのメールデータは完璧な暗号化されているはずだしな」

「何をしたかったか、江川の奴をとっちめて吐かせますかね」

「今の世の中、そう簡単には行かないが、いざとなったら…やるしかないかな」

「あのぉ、保管庫のロックのパスワードっすけど、時間ごとに変わるものにしておきますか」

「その方が良いな…それで…頼んだぞ」

桜内は白井に何か言いたげだったが、ノバ感染症の後遺症を口にしていないので思い留まっていた。、


 医務室のベッドには青ざめた顔の江川が横たわっていた。

「船長、彼の体内からノビチョク系の毒物が検出されました。持ち込めないはずなのに」

田山は驚いた表情していた。

「ということは食事に毒が盛られていたと言うのか」

「船長、私としたことが…。食事に毒ということも考慮するべきでした」

服部は申し訳なさそうにしていた。

「シェフには責任はないだろう。マイカ、どう推察する」

「ロボットが食事の配膳中に何らかの形で混入させた可能性があります」

マイカの声が桜内の襟章のスピーカーから聞こえていた。

「口封じということは、他に仲間がいるし、かなり危険なプロだな」

桜内が言うと、田山と服部はかなり不安そうな顔になっていた。

「内々に乗客一人一人の動きをチェックする必要がある。マイカ、AIで分析して、妖しい人物をピックアップしてくれ」


 船内レストランの方からせき込む声が聞えてきた。厨房にいたシェフの服部は気になり、レストランを覗き込んでいた。一番奥の角のテーブルでステーキを食べていた男がせき込んでいた。なかなか咳が止まらず、男は周りを気にしていたが、幸いレジで精算している客しかいなかった。清算を終えた客は、さっさとレストランから出て行った。

 「お客様、大丈夫ですか」

給仕担当のロボットが客に声をかけていた。

「いや、大丈夫です。ちょっと水で咽ただけですから」

男はそう言うと、咳がおさまっていた。男は席を立つと清算してレストランから出て行った。

 服部はなぜか気になったので、空調の排気を最大にしてから消毒液をレストラン内に噴霧した。さらに念のためロボットが下げてきた食器やコップをビニール袋に入れさせ、医務室に持って行かせた。


 ブリーフィング室のモニター画面には、球体からトゲが出ているような形のノバ感染症ウィルスの映像が映し出されていた。

「これがレストランに来ていた乗客IDナンバー105の田中玲一さんから検出されました」

田山は深刻な顔つきであった。同席している桜内、田山、戸川、服部は、ギョッとしていた。

「ノバ感染症ですか」

桜内はあ然としていた。

「乗客は全員乗船の際は陰性だったのにですか」

戸川は納得いかない様子であった。

「ですから、妻の田中瑠海さんは同室なので既に感染していると見てよいでしょう」

田山は淡々としていた。

「自分も治ったっすから致死率は低いのでしょう」

白井は少し楽観的であった。

「白井君が感染したオリジナル株は確かに致死率は低いのですが、今回のこれは変異株でして、毒性が増しているようです」

田山は白井の方をちらりと見ながら言っていた。

「ドクター、変異株ですか」

桜内はかなり渋い顔になっていた。

「その上、船長。感染源がどこなのかわかりません。田中さんが感染源とは限らないです」

「となると乗客たちは全員個室に留まってもらう必要がありますか」

「船長、我々クルーはどうしますか」

「現時点で、もう一度PCR検査をするか。我々が動けなくなると、いろいろと不便だからな。ドクター頼む」

「それで食事などの配達はロボットに任せますか」

服部が口を挟んだ

「まだテロリストはいるだろうが、やたらに一般客に毒は盛らないはずだからな」

桜内が言っているとドクターの襟章のスピーカーに呼び出し音がした。

「田山ドクター、会議中すみません。咳と発熱の症状がある患者が来ています。至急医務室にお戻りください」

マイカの声はその場にいた全員に聞こえていた。全員の頭に浮かんだのはノバ感染症であった。


 医務室の患者はノバ感性症陽性であったが、『しなの』のクルーは全員陰性であった。乗客たちは陽性者も陰性者も個室に留まってもらい、陽性者は容体が急変したら医務室に連絡することになった。しかしその後も感染患者が増え、乗客17人中6名が感染者となった。


 マスクをしている桜内は森林区画のあるAデッキとワープ球区画を挟んで逆さ側にあるBデッキの湖沼区画に来ていた。乗客の釣り人は一人もおらず湖畔の牧草地で牛が草を食んでいるだけであった。

「マイカ、誰もいないようだが、本当に人を感知しているのか。見える範囲には牛と羊しかいないぞ」

襟章のマイクはオンになっていた。

「船長、詳細に特定できませんが、船尾方向の場所にいます」

「全く。外出自粛にしているのに、ここまで来るとはな。禁止にできないものかな」

「人権を蹂躙しかねないことは、避けるのが船内原則です」

「緊急事態だぞ」

「例外は航行に支障を来す場合のみです」

「支障を来す可能性もあると思うが」

桜内はどうも納得がいっていなかった。

 船尾方向の草原から微かに子供の声が聞えてきた。草の丈がかなり伸びているので、姿は確認できなかった。桜内はそちらの方に向かってゆっくりと歩いていく。

 草をかき分けしばらく進むと、トイプードルと戯れている子供二人がいた。

「君たち、何をしているんだ」

「あっ、船長さん。シロマメが駆け回りたがっていたから、お散歩に来たのよ」

女の子の方が言い出した。男の子はトイプードルの頭を撫でていた。

「…ペットか。ドッグランは個室にはないからな」

桜内は腕組をしていた。トイプードルは桜内の足元に歩み寄り、尻尾を振っていた。

「でもね。勝手に部屋から出ると、ワンちゃん大丈夫でも、人間は怖い病気にかかるかもしれないんだ」

「じゃどうすれば良いの」

今度は男の子が言ってきた。

「ロボット船員に言ってくれれば、お散歩させてあげられるよ」

「そうか。うんわかったわ」

女の子が答え、男の子はうなづいていた。

「お部屋の番号はわかるかな」

「102号室だよ」

男の子と女の子が声を揃えて言っていた。

「よし、良い子だから、部屋に戻ろうね。」

桜内は子供たちの手を引いて歩き出した。


 ブリーフィング室に集まった桜内たち人間のクルー。

「対処療法を続けたのですが、悪化の一途をたどり田中夫妻は死亡しました」

田山は無念そうにしていた。

「その変異株の致死率は高いのですか」

桜内は皆があ然としている中、口を開いた。

「オリジナル株とは比較にならない程進行が早いようです」

「ドクター、変異株は田中夫妻だけと言えますか」

「まだ確認できていないだけで、そうとは言えないでしょう」

田山は冷静に判断していた。

 「船長、緊急事態が発生ました。乗客IDナンバー306の松井良太一家4名、乗客IDナンバー210の大西義之一家3名の計7名が宇宙連絡船を乗っ取り、船外のワープフィールド内に留まっています」

ブリーフィング室のスピーカーからマイカの声がした。

「なんだと、松井はマイカがリストアップした要注意人物の一人だったよな。遂に尻尾を出したか。それで何か要求してきたか」

「感染が収まるまで連絡船に退避したいとのことです」

「それだけか」

「はい。今のところは」

「船長、このような行動に出ると言うことは、松井たちは田中夫妻が死亡したことを知っているのでしょうか」

戸川は不思議そうな顔をしていた。

「松井一家の個室は田中夫妻の隣だし何日経っても戻って来ないから、重体か死亡したと推察した可能性はあります」

田山の言葉には説得力があった。

「そうだろうな。我々だって今知ったのだから。しかし乗っ取るとは…」

「ワープ航行中に格納庫の連絡船を奪っても、ワープフィールド外に出るのは自殺行為なので、セキュリティーが甘かった面はあります」

セキュリティー部門も担当している戸田が指摘していた。

「でも船長、5日も放って置けば、食料や水が底をつきます。投降してくると思いますが」

「シェフの言うことに一理あるが…。マイカ、松井たちに何か動きはあったか」

桜内の言葉はブリーフィング室のマイクが拾っていた。

「何らかの脅しで食料など要求してくると思いますが、ウィルスが付着している可能性もあり、連絡船にいることが無意味になります」

マイカの言うことにも一理あった。

「それじゃ、マイカは要求して来ないと言うのか」

「いいえ。原子力発電区画の破壊で脅し、農業生産区画に移動させろという筋書きも考えられます」

「それじゃ、初めから農業生産区画を占拠すれば良かったんじゃないっすか」

「ここからは、彼らの計画性のなさが推察できます」

「それはそうとして、発電区画を破壊したら、ワープ航行できなくなるわ」

「人間は自暴自棄になると何をするかわかりません」

「マイカ、相変わらず人間には手厳しいな」

桜内は皮肉っぽく言っていた。桜内の言葉にマイカは特に返答はしなかった。

「あのぉ船長、言い忘れたことがありました。このウィルスの変異株はマイナス2℃で不活性化し、感染力が急激に弱まります」

田山はウィルスの測定データをモニターに表示させていた。

「ドクター、それなら船内通路はマイナス2℃以下に設定しておけば、通路での感染は防げるな」

「連絡船を乗っ取った人達に戻ってもらう説得材料になりそうですね」

戸川は強張っていた表情を少し緩めていた。

「呼びかけて見るか」


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