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スペースポストマン  作者: daishige
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第三話・アクシデント

●3.アクシデント

船外作業ポッドのアームがロボットB5の胴体をつかむが、足がフレームに引っかかり、動かすことができなかった。つかみ直してみるが意味がなかった。『しなの』は連続ワープ中なので、周囲の景色は星が線上に流れていた。

 桜内はその様子をコントロール室のモニターで見ていた。

「白井、無理そうか」

マイクで呼びかける桜内。

「船長、どうしてこうなったか、わかりませんが…」

「仕方ない。頭部のメモリーだけ回収するか」

「了解しました」

「手掛かりになるものが映っているだろう」 

桜内はマイクをオフにした。

 突然モニター画面が真っ白になり、ノイズが入った。

「白井、どうした!」

桜内はマイクにしがみつくように言っていたが、応答はなかった。

「マイカ、今の船外の状況はどうなっている」

「小規模な爆発あり。船外活動ポッドに損傷、空気流出中」

マイカが冷静に応えていた。

「マイカ、今、空いている船外作業ポッドはどれた」

「船外作業ポッド6がコントロール室に一番近いハッチ12にあります」

マイカの言葉を最後まで聞かずに桜内はハッチに向かって走り始めた。


 「白井、大丈夫か。今助けるからな」

桜内は船外作業ポッドを操縦しながら念じていた。ポッドのフロントガラス越しに見える前方に胴体が黒焦げになったロボットB5と白井の乗るキャノピーにヒビが入った作業ポッドあった。白い煙のように空気が漏れ出していた。

 桜内はアームを操作して白井の乗るポッドのキャノピーに補修パッドを張りつけ、空気漏れを止めた。続いて桜内のポッドの空気を送り込み、白井のポッドの空気を正常値にまで上げた。しかしキャノピー越しに見える白井は動かなかった。

 桜内はアームで白井のポッドをつかみ揺らしてみた。すると、あえぎながらわずかに動き、近くに桜内のポッドがあることに気がついたようだった。そのままアームでつかみながら、白井のポッドを回収し、田山のいる医務室へロボットに運ばせた。その後、再びロボットB5の所に戻り、頭部からメモリーユニットを抜き取った。


 1時間後、桜内はブリーフィング室に戸川と田山を呼んでいた。

「ドクター、白井の容体はどうですか」

「酸素不足によるショック症状がありましたが、今は安定しています」

「戸川、メモリーの方は何かわかったか」

「ロボットB5は自分の意思と言うか、独自の判断で船外に出たようです。何らかの不具合が生じたか、遠隔操作があったかとしか言いようがありません」

「遠隔操作?」

「あくまでも可能性ですが、マイカによるとだいたい同じ時間帯に船内のシステムの一部がハッキングされた形跡があったとのことです。これとの因果関係はまだ判明していません」

「…だとする乗客の誰かと言うことが考えられるか」

桜内は面倒なことになったと言う表情を浮かべていた。

「船長、ロボットB5の爆発はメモリーの隠蔽ということもありますか」

「爆発が小さかったから、微妙だが…」

「とりあえず白井君の命は助かっていますね」

「不幸中の幸いと言うか、あいつは運が弱いのか強いのかわからんな」


 乗客の若者がフライングボードで通路を浮遊しながら移動していた。フライングボードは電重力板を反対向きに付けた浮遊アクティビティーであった。

「お客様、通路でのフライングボードの使用はお控えください」

マイカの指示で駆け付けたロボットB3が注意していた。

「あぁ、わかってますって。人とぶつからなければ良いのでしょう」

若者は足で器用にボードを操作して立ち去って行った。ロボットB5特に後を追って注意することはなかった。


 コントロール室でモニター画面を見ている桜内。画面上では若者は森林区画に入り、山の斜面を滑り降り、木々間を縫うようにしていた。

「船長、どうしますか」

マイカが指示を仰いでいた。

「少しは大目に見てやるか」

「しかし他の乗客と衝突してからでは遅いと思います」

「ん、でも奴を見てみると、人が見えたり、人が居そうなところはスピードを落としている」

「もう少し様子を見ますか」

「あまりがんじがらめに、規則で抑えるのもな」

「わかりました。それでロボットB5の件ですが、今後も同じようなことが起こらないように、他のB系列のロボットも全部再点検しました」

「どうだった」

「今のところ、全く問題はありません。ハッキングについても転送暗号送信を強化しましたので、そう簡単には破られないようにしています」

「マイカ、ありがとう」

「船長、Aデッキの電重力板がオフになりました」

「人工重力がなくなったか」

「森林区画の監視カメラ映像をご覧ください」

「どうした」

桜内はモニター画面を食い入るように見る。画面上の若者は斜面のせり上がった所でジャンプをしたようだが、運悪くそのタイミングで電重力板がオフになっていた。若者はなす術もなく、天井に向かって浮き上がって行った。

「あぁ、一回転してボードを天井に向けないと、どんどん上昇してしまうぞ」

桜内が言っていたが、聞こえるわけもなく、若者は慌てて下と迫りくる天井を見ていた。

「あぁ、天井にぶち当たったか」

桜内が息をのむと、若者は頭を打って気を失い天井に貼りつくような形で止まっていた。

「マイカ、Aデッキの電重力板はオフのままにしろよ。さもないと若者が天井から落下するからな」


 桜内たちが森林区画に駆けつけると、リスなどの小動物も何匹か宙に浮いていた。

「ここが無重力になっているのは、初めてみます。なんか変な感じですね」

戸川は、どっちが上か下か迷うような感じになっていた。

「戸川、君はここに留まってくれ、俺はジャンプして若者を引き下ろしてくる」

桜内はそう言うと、地面を蹴り、まるでスーパーマンのように飛び上がって行った。森林区画の空を真っ直ぐ天井に向かっ進んでいく桜内。なんか本当にヒーローものの主人公になった気分であった。但し無重力なので、だんだん頭に血が上ってきた。

 天井にたどり着くと、若者を抱えて天井を軽く蹴り、再び地面に戻り始めた。地面に向かう途中、若者は意識を取り戻していた。

 桜内と若者が地面に立つと、Aデッキの電重力板が作動し始めた。

「マイカ、電源オフの原因はなんだ」

桜内は襟章のマイクに向かって話していた。

「ハッキングではないのですが、電気ケーブルにトラブルがあったようです」

「しかし、アクシデントが多いな」

「船長、人為的な要素は排除できません」

「だよな。マイカも警戒を緩めないでくれ」

「船長、こちらの方は頭から血が出ていますが、擦り傷程度です」

戸川は若者のヘルメットを外していた。若者は無謀な行為でケガをしたわけではないが、どこか申し訳なさそうな雰囲気であった。


 若者を医務室に運んだ桜内と戸川。大したケガでもなかったので、念のため頭部のレントゲンを撮った後、客室に帰ってもらった。

「ドクター、なんかうかない顔をしているじゃないですか。あの若者に何か他の症状でも?」

「いや、彼は放って置いても大丈夫です。しかし昨日、性器の委縮を気にした男性客の相談を受けたのですが、驚くほど小さくなっているのです」

田山は渋い顔は崩さなかった。

「どんな感じですか」

「あぁ、本人のプライバシーもあるので写真はお見せできないませんが、ペニスが子供の小指ぐらいで陰嚢が体内に引きこれているのです」

「そんな病気ってあるのですか」

「そのような症例は知りませんし、原因も見当もつきません。ただオリエンタールでノバ感染症に罹り治ったそうです」

「ノバ感染症の後遺症の一つではないかと危惧しています」

「だとしたら、白井に影響があるかもしれません。奴には言っておきましょうか」

「船長、本人が症状を訴えるまで、不安を煽るようなことはしない方が良いと思います。全員がなるとは限りませんし」

田山は静かに言っていた。


 「船長、郵便物保管庫に侵入者があり、ロボットB12が拘束しました」

桜内の襟章のスピーカーからマイカの声がした。

「わかった。拘禁室に行く」

桜内はうんざり気味であった。


 「弁護士を呼んでくれ、この場では何も話すことはない」

侵入者は中年男であった。

「えーと、江川さん、残念ながら、この船には弁護士は乗船していません」 

桜内は乗客名簿を表示させているタブレットPCを見ながら言っていた。

「何も盗っていないぞ。間違って入っただけだ」

「私は盗ったかどうかは聞いていないのですが…」

桜内が言うと、江川はちょっと、しまったという表情をしていた。

「船長、あんたは盗人を見る目だったからな」

「そうですか、しかし保管庫はロックされているので、間違って入ることはできません」

「船内コンピューターの故障だろう」

「あり得ません。とにかくあなたは船内規則に違反しています。過去にテロリストと関わりないようですが、地球に到着するまで拘束することになります。以上です」

桜内はすっく立ち、拘禁室の鉄格子を背にして立ち去った。


 桜内は誰もいないコントロール室の船長席に座っていた。

「確かに郵便物は盗み出されていないのですが、中身を読もうとした形跡があります」

「マイカ、それは紙の封書か、それともメール・データファイルか」

「両方です」

「保管庫のサーバーにもアクセスしたのか。ただ者ではないな。これまでの一連のアクシデントにも関わりがあると思って間違いないだろう」

「これで何事も起こらなければ、単独犯と言うことになりますが、複数犯可能性もあるので、警戒が必要です」

「江川の身元照会はどうだったのだ」

「船内のデータバンクでは、ゲームアプリや電子マネーを扱うIT企業のCEOとしかわかりません」

「そんな奴、山ほどいるからな」

桜内は頭の中に、いろいろなことが駆け巡り、ごちゃごちゃになっていた。

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