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スペースポストマン  作者: daishige
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第二話・連続ワープ船『しなの』

●2.連続ワープ船『しなの』

 宇宙連絡船は、長さ1200メートル・高さ900メートル・幅850メートル程で、楕円球体状の宇宙郵船貨客船『しなの』のメインポートとドッキングしていた。

 桜内、田山、白井、戸川は宇宙郵船の貨客船『しなの』のブリーフィング室にいた。

「あのテロリストたちは反執政府市民団体で、ノバ感染症に乗じて騒乱を煽ろうとしていたようです。その上、陽性者もいましたから、地球にウィルスをもたらすつもりだったのでしょう」

戸川が執政府の捜査当局からの近況を報告していた。

「とんでもない奴らだが…、だとすると我々もバス内で接触しているから、感染している可能性があるな」

桜内は軽く腕組をしていた。

「はい。潜伏期間の2日後に再度、乗客も含めてPCR検査をしてからの出航となります」

「なんだ、おかげでまる3日遅れの出航になるじゃないっすか」

「白井、腐るな。下手したらお前はオリエンタールに残るところだったんだぞ」

桜内はたしなめるように言っていた。白井は首をすくめていた。

「ということで、皆さん医療室に来てもらえますか」

田山はようやく自分の出番が来たという感じであった。


 「皆様、ご搭乗ありがとうごさいます。お客様方におかれましては全員陰性が確認できましたので、本船は3日遅れで惑星オリエンタールを出発し、3ヶ月後に地球到着の予定です」

船長の桜内はまず、日本語で言い、続いて英語でも船内アナウンスしていた。船のコントロール室には白井と戸川もそれぞれコンソールの前に着席していた。

 「これより本船はワープ駆動を作動いたします。特に加速も揺れも感じませんが、不測の事態に備えて10分間ほど個室に留まっていただきます。その後、安全確認灯が消えましたら自由に船内を移動できます。それでは3ヶ月間快適な宇宙の旅をお過ごしください。船長の桜内でした」

桜内は言い終えると、白井と戸川にワープ駆動のスタンバイ状況を最終確認する。

「電源区画、ワープ球ともに異常なし」

白井が声を張り上げる。

「船外カメラ確認、異常なし。船内全ての区画にも異常はありません」

戸川がモニターを見ながら言っていた。

「ワープ駆動開始」

桜内は船長専用コンソールにあるワープレバーを手前に引く。船内には全く振動も作動音もなく、ワープしているかどうか心配になるくらいであった。コントロール室のメインモニターには星々が線状に流れるような船外映像が映し出されていた。

「光速20倍航行安定」

桜内はそう言うと大きく一呼吸していた。


 「この船には8個のワープ球があり、それぞれが20分の1秒ごとにワープという瞬間移動をして、光速の20倍の速度を出しています」

桜内が言うと、船内見学ツアーの2家族7人は感嘆の声を上げていた。

「それでこのワープ球の一回のワープ距離は37465キロですけど、8個が20分の1秒ごとにワープするので、とてつもない移動距離になるわけです」

桜内が巨大ホールのようなワープ球室が覗ける窓を見るようにツアー客に促していた。

「でも船長、光速を越えると時間が逆に進むんじゃないですか」

子供が質問してきた。

「相対性理論ですね。でもこの船は連続ワープをしているだけで、一回一回のワープの瞬間は止まっている状態と言えます。なので物理的に光速を越えているわけではないです。ですから時間は逆戻りしません」

桜内の言葉に少し考えてから子供は納得していた。


 船内見学ツアーの一行は、ワープ駆動区画から階段を上ると農業生産区画に入った。

「ここでは、LED照明を用いて、レタスなどの促成栽培をしています。もちろん管理された環境ですから無農薬です。地球から遥か彼方でも新鮮な野菜が食べられるようになっています。冷凍野菜を解凍するのではない点が他の船の違うところですね」 

桜内は栽培コンテナーが並ぶ一角に立っていた。

「システムダウンなどの万が一の際の自給自足はどのくらい耐えられるのですか」

年かさの男性客がたずねてきた。

「基本的には何日でも可能ですが、実際に何日になるかはデータがありません」

「そうですか。とにかく食料残量を気にして救助を待つことはないということですね」

「はい。そうなります。続いては酸素の供給源にもなる森林区画をご案内します」


 一行はエレベーターに乗り、最上階で降りた。若干上る通路を通り、ドアの密閉ハンドルを回す桜内。ドアを開けると、森林区画の冷涼の空気が流れ込んできた。山の裾野の斜面にドアがあり、そこから森林区画に入る一行。

 「あぁ、外に出たみたいだ」

子供がはしゃいでいた。

「地球上のどこかの山みたいね」

母親が子供の手を引いて周りを見ていた。山の斜面には木々が覆い茂っていた。小さな渓流も見えていた。

「天井部には太陽光とほぼ同程度の照明が設置されています」

「太陽は見えないけど、薄曇りの天気という感じかしら」

ツアー客は人工の空を見上げていた。

「このようにここに来れば、宇宙船にいることが忘れられます。自然に癒されることでしょう。恒星間ワープ船の初期段階では、自然環境はあまり重要視されませんでしたが、地球から隔絶された閉じた環境に長く居ると人間は精神的に弱ることがわかりました。それでバーチャルにしろ、リアルにしろ、自然環境に触れられるように改善されました。そこで本船は乗客数に制限があるため、リアルな森林区画を作ることができたわけです。

「船長さん、ここにはいつでも立ち入れるのですか」

「はい。開園時間内は出入り自由です。今日はスタッフ用の通路から入りましたが、居住区画の第三エレベーターか非常階段でここの入口に行けます」

「軽いトレッキングができそうじゃないですか」

男性ツアー客は嬉しそうにしていた。

「この山の中も有効利用されていて、主に貨物倉庫になっています」

「貨客船ですものね」

「ずうーっと乗っていたいくらいの船だなぁ」

ツアー客たちは感心していた。

「ちなみにAデッキは森林区画ですが、Bデッキは湖沼区画になっています。時間によってはいずれも草原地帯で牛や羊の放牧が見られます」

「ああ、それで例の新鮮な牛乳が飲めるわけね」

女性ツアー客は草原地帯の方を見るが牛たちの姿はなかった。


 船内見学ツアーを終えた桜内は、エレベーターホールのソファに座り自販機の緑茶を飲んでいた。エレベーターのドアが開くと、中から籠にリンゴを満載した籠を抱えた船内シェフの服部が出てきた。

「あぁ船長、私が個人的に山の斜面に植えておいたリンゴが思った以上に豊作となりましたから、アップルパイでも作ろうと思いまして」

服部は笑みを浮かべていた。

「シェフ、オリエンタールに停泊していた際も、船には来ていたのですか」

「いいえ、ノバ感染症の影響で出入りは禁じられてましたから、ロボット船員A3に任せておきました」

「あぁ、そうでしたね」

桜内は緑茶をグイッと飲み込んでいた。

「しかし私が木の面倒を見るよりもロボットの方が良かったようです。この色付きの良さを見てください」

服部は籠のリンゴを見せていた。

「あぁ、それと船長、巡回中のロボットB5の動きが遅くなっていましたから、点検した方が良さそうでした」

「A系統じゃなくて、警戒・看護タスクのB系統か」

「はい。乗客にいたずらでも、されてなければ良いのですが」

「頑丈にできているから、少々のことでは壊れないはずだが。調べてみますよ」

桜内が言うと服部は籠を抱えて歩いて行った。

 桜内は襟章のインカム・マイクで船内AIのマイカを呼び出した。

「ロボットA5に何らかの不具合があるそうだが、どうだ」

「今、リモートチェックしています」

マイカは女性の人工音声で応えていた。数秒間の沈黙があった。

「船長、特に異常は見たらないのですが、一応メンテナンス・ピットに呼び戻し総点検してみます」


 桜内はコントロール室に戻った。

「船長、マイカによるとロボットB5はメンテナンス・ピットに戻って来なかったとのことです」

白井が報告してきた。

「戻って来ないだと。船内カメラでも見失ったのか」

「はい。どこにも映っていません」

「そんなことってあるのかな」

桜内は少し硬い表情になっていた。


 桜内と白井は船内の監視カメラの死角となる箇所を重点的に見て回っていた。

「船長、死角って結構あるものじゃないっすか」

「あぁ確かに。しかし死角を全部カバーできるようにカメラを配置することはできないだろう。カメラだらけになるぞ」

「それも、ぞっとしますよ」

「このフロアが終わったら、森林区画の山狩り捜査だな」

「えっ、あそこっすか。通信を切ったロボットB5がいますかね」

「わからんが、調べておこう」

桜内が通路を歩き始めると、襟章のインカム・スピーカーから呼び出し音がなった。

「船長、船外カメラを確認したところ、原子力発電区画を覆う外殻壁のフレームにロボットB5が挟まっていました」

戸川の声が聞えた。

「何っ、船外にいたのか」

「船長、何があったのでしょうか」

「…ロボットが船外に出る時、マイカが俺に確認を取るはずだからな」

「AIを無視するなんてことはあり得ないっすよ」

「とにかくロボットB5を回収しよう。白井、船外作業ポッドで頼む」

「わかりました」


まだまだ続きます。

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