91.だからあなた次第よ
テオドールはまず、生かすべき存在の選別から入った。ここは命令に忠実な彼らしい動きだわ。床の絨毯を毟りながらぶつぶつ独り言を繰り返す国王を蹴り飛ばし、部屋の隅へ片付ける。騒ぐ王太子の腹へ一発拳を埋めて、苦しさに嘔吐したジェラルドの顔を勢いよく殴った。
生かしておけと言ったけれど、生きていれば何でもいいわけじゃないのよ? 少なくとも末端まできちんと揃った状態で確保しなきゃ……そんな願いを感じ取ったのか。それ以上暴行せずに国王の上に積み重ねた。横に並べないところが、テオドールらしいわ。
邪魔者が片付いたと見るや、精霊魔法が炸裂する。二人同時にまったく違う術を発動したらしく、精霊が右往左往していた。結局、得意な属性に合わせて別れたらしく、炎を選んだリュシアンに付いた精霊が多い。炎と風を合わせて、螺旋状の炎を作り上げた。獣人達が右往左往するが、巻き込まれていく。
エルフリーデは優雅に水を従えて、剣で指し示す先へ圧縮した水が打ち出される仕組みで応戦した。それって光を集めるレーザー銃に似てる気がする。指摘したら、光の精霊を悪用しそうなので口を噤んだ。
水鉄砲は子どもの遊び道具だけれど、高圧縮された水なら人体を貫く。人族より丈夫な体を持つ獣人であっても、鎧を纏おうと防御は出来なかった。それに加えて、精霊の魔法によって放たれた攻撃なのよ。精霊信仰のある騎士は、ほぼ無抵抗で武器を捨てた。
尻尾が焦げたり、耳を打ち抜かれたり。被害がゼロとはいかなかったわね。
「潔いのね、獣人の皆さんがすべて愚かでなくて良かったわ」
どこかの誰かは愚かだったけれど。含みのある視線を向けた先で、王太子はテオドールの鞭に翻弄されていた。体中に鞭の痕が付いてるわ。どれだけ遊んでるのよ。テオドールはドM認識してたけど、もしかしてSっ気もあるのかしら。
全身を打ち据えられたジェラルドは、怒りで我を忘れたらしい。禁忌となっている獣人化を行い、テオドールに襲い掛かった。
「テオ!」
「ご心配なく。獣風情に後れは取りません」
ひょいっと軽く避けて、私に手を振る余裕もある。問題ないわね。広げた扇を揺らしながら、私は投降した騎士を拘束するよう命じた。青ざめた彼らは抵抗なく、リュシアンが呼び出した蔓に縛り上げられる。その視線は、王太子に釘付けだった。
「なんてことを……獣人化なさるとは」
「獣人として最大の恥を晒したも同然」
「我が国の王族があれでは……終わりだ」
非難する響きや落胆する声が騎士達から漏れる。彼らは下級貴族の子弟や実力で這い上がった者達。それ故に現実を見極め受け入れる順応力は、王太子ジェラルドより高かった。
これ以上は何もしなくても、ミモザ国のラングロワ王家は崩壊するわね。信頼を失った王家を担ぐ貴族に賢者はいない。ミモザから流入する人材を振り分けて、優秀な者は確実に拾い上げなくちゃ。ちらりと視線を向けた先で、エレオノールは淑女の笑みを崩さなかった。彼女に仕分けを頼みましょう。
完全に弟を切り捨てた。甘やかしたツケを目の前に突きつけられ、あまりの惨状に後悔や自責の念が胸を締め付けているはず。それでも残った同族を導く旗として、彼女は倒れるわけに行かない。その覚悟が滲んでいた。
「エレオノールと呼ばせてもらうわ。私は獣人を滅ぼしに来たわけじゃない。だからあなた次第よ」
亡びる国に民が殉ずるか、他国に馴染んで生き残るか。獣人という種族の未来は、あなたの肩に掛かっているの。せいぜい頑張りなさい。それが胸を締め付ける罪悪感を軽くしてくれるわ。




