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88.久しぶりに失敗しました

「よろしいのですか?」


「随分と気に入っておいでなのですね」


「妬けちゃうなぁ」


 テオドールが心配そうに問いかけ、エルフリーデとリュシアンは不満そうだった。ふふっ、リュシアンはヤキモチ? 随分懐いてくれたわね。エレオノールは真剣に考え、抜け道を探そうとしているみたい。


「ローゼンミュラー王太女殿下、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか」


「ええ」


「我が国に入った軍の総数を」


「ふふっ、本当はダメなのよ? でも特別に教えて上げるわ。私が指示したのは500、でも心配したカールお兄様達が数を増やしたみたいなの」


 500人なら勝てる。そう判断したのか、エレオノールの視線が一瞬さ迷う。足元へ下ろしてから、周囲を見回した。期待の蕾が大きく膨らんでから、根っこを刈り取るのが一番効果的よ。雑草の処理と同じ。根をどこまで伸ばしているか、確認して抜かなくちゃね。


「僕が見る限り、1万くらいかな」


 リュシアンがあっさりと数を覆す。前提条件が変われば、戦いの勝敗は一転する。エレオノールの視線がまた泳いだ。獣人達は単体での攻撃力は高い。一般的な人族の兵士と比較したら、3倍前後。今これから緊急招集を掛けても、3000を超える兵士を集めるのは無理でしょう?


「ローゼンミュラー王太女殿下のお心のままに」


 ミモザを支えていた柱が折れた瞬間ね。まだ未熟な分だけ、お祖父様に預けたら鍛えてくれそう。跡取り候補に不満を持つ、宰相バルシュミューデ侯爵のお眼鏡に適うといいけれど。


「王太子殿下をお連れしました」


 騎士に付き添われ、大人しく入ってくる王子は顔を上げない。決して視線を合わせず入室し、床に崩れ落ちた父王に目を見開いた。その視線が氷の塊を捉え、顔が徐々に上がっていく。


「う、嘘だ! なんで! キョウコが……っ、お前ら?!」


 悲鳴に近いその声が、どれだけ姉を傷付けるか。この男は理解できないのね。王子と呼ぶのも腹立たしいわ。ずっと支えてくれた姉を蔑ろにし、ただ甘えるだけの女に目移りした。いえ、そんな表現は甘いわね。庇護者である姉を捨て、路傍の石を拾ったのよ。


「浮気をこんなに堂々と告白なさるなんて、ミモザ国は随分と性に奔放なお国柄ですのね」


 上品な言い方で誤魔化すものの、はっきり言えば「浮気男が図々しい、性的な理性が足りないんじゃないの?」となる。王族たるもの、いつでも逃げを残して発言しないといけないわよね。


 扇を広げて顔を半分隠した私の後ろで、エルフリーデが溜め息を吐いた。ジェラルド王子は「嘘だ、信じられない」と繰り返すだけで、立ち直る気配がない。


「獣人は獣の特徴を兼ね備えた人と認識しておりましたけれど、逆だったのかしら」


 エレオノールがぐっと拳を握り締めた。こんな醜態を晒すことになったのは、すべて巫女のせい。でも元を正せば、ジェラルド王子や国王の愚かさが原因よ。


「私は親切なの。長引かせず、引導を渡すとしましょう。テオドール」


「麗しき姫のお望みのままに」


 テオドールは果たすべき役割をこなす。国王に突きつけた現実と、巫女への断罪を淡々と王子に聞かせた。その間、私は少しばかり後悔を滲ませて目を伏せる。失敗したわ、断罪を始める前に王子の立ち会いを要求すれば良かった。これじゃ二度手間じゃない。


 久しぶりの失敗は、苦く心に残った。

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