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81.許す気はないのですから

 彼女が外見相応にか弱く、おとなしい淑女として振る舞ってきたのは理由がある。未来の王妃として、頼りない弟を守るために。エレオノールは、今の立場から排除されるわけにいかなかった。


 優秀であればあるほど、貴族や他国からの縁談が舞い込む。またあの弟王子では、強い姉の姿を嫌っただろう。己より優秀な姉がいれば、萎縮して王の座を譲ると言い出しかねない。彼女の懸念はそこにあった。


 小説に描かれた内容では、もっと包んで柔らかく表現されていたけど。要は無能な弟を持った姉の苦悩って感じね。


 予言の巫女に関する私の発言、今回の城内での襲撃。それを見て彼女は最悪の未来を察した。このままでは、国自体が滅びる――。


「エレオノール王女殿下、明日の午後にお茶会をしませんこと?」


 他国の王宮で襲撃された私の立場を考えれば、帰国を口にするのが一般的ね。まだ断罪も中途半端だし、もう一回くらい騒動があると思うのよ。だいぶ原作とかけ離れたけれど、イベントの強制力は残っていそう。ならば、犯人をやり込めてから去るのが、私の流儀よ。


 前を歩く王女は振り返り、小さく頷いた。会釈のような軽い動きと、真っ赤に腫れた目元が印象的だわ。恋愛小説「異世界ならもふもふ堪能しなくちゃね!」に出てこなかったシーンは、月光の回廊とよく似合う。


 すでにお開きになった夜会の広間は、片付けに入った侍従や侍女、下働きが忙しく行き来している。繋がる廊下を通り過ぎ、エレオノールはひとつの扉の前で足を止めた。


「謁見の控室です。こちらでお待ちください」


 了承を示す私の頷きで扉が開き、豪華な調度品が並ぶ部屋に通された。といっても、カールお兄様は一度部屋に戻したわ。血塗れで臭うし、あちこち汚してしまうもの。ついでに、リュシアンの様子を見てくれるよう頼んだ。


 私が腰掛けた隣に立ち、テオドールは身を屈めた。エルフリーデは護衛のつもりで、斜め後ろに立つ。


「お嬢様」


「あら、まだ亡国の王子でしょう?」


「失礼いたしました。我が愛しき姫」


 承諾を得たと判断したテオドールが隣に腰掛けた。侍女が入ってきてお茶や茶菓子を並べる。時間がかかるのかしら。銀の匙で毒を確認したテオドールは、口元に運んだ匙を含まずに首を横に振った。


 あら、ここで毒? 順番が原作と違うわね。眉を寄せた私が口を開くより早く、扉がノックされた。


「どうぞ」


 テオドールの声に開いた先に、ミモザの国王陛下が立っていた。ここは予想通りね。襲撃や謁見を大事(おおごと)にしたくなければ、人目に触れにくい控室は最適だわ。


 普通は国王が入室すれば、立ち上がって敬意を示す。ここに国同士の力関係は持ち込まれない。一国を治める存在に、私はカーテシーで応じる立場だった。けれど、立たずに扇を広げて顔を隠す。


「シュトルンツの王太女殿、誠に申し訳なかった」


「国王陛下、お顔を上げてください。私に許す気はないのですから」


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