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71.夜会は戦場、ドレスは戦闘服よ

 おかしいわ。このドレスは置いてきたはずなのに。眉を寄せて睨む私の前に用意されたのは、お母様プロデュースの露出度が高い赤紫のドレスだった。胸元は結構ギリギリだし、腰から足元へ向かって柔らかなラインが繋がっている。


 前世の知識で言うなら、マーメイドラインが近いかしら。膝の上まで体にぴたりと沿った形よ。でも裾はスレンダーラインみたい。重力で落ちるに任せた柔らかな形だった。両方のいいとこ取りね。腰のくびれや太もものセクシーさを強調し、膝上から流れるまま引き摺る形だった。


 前のスカート部はスリットが入り、歩くとひらひら揺れる。長く引き摺る後ろは、ミニスカートが作れそうなほど余っていた。


 赤紫のドレスに銀の刺繍とパールが散りばめられ、驚くほど艶がある絹が光を反射する。これはお招きいただいた主賓として目立つように?


「お飾りはこちらです」


 テオドールが開いたケースに収まるのは、真珠とダイアモンドをふんだんに使った首飾りだった。ネックレスと呼ぶほどシンプルではなく、肩から首全体を包むほど豪華で派手なもの。ドレスの胸元が大きく開いているのは、お飾りと合わせたのね。


「どうしてこのドレスがあるの。他のドレスにしてちょうだい」


「申し訳ございません。女王陛下のご命令で、他のドレスは国境で没収となりました」


「え? 没収……」


 思わぬ単語に、口元を押さえるのも忘れて繰り返し、慌てて扇を広げた。袖なしのドレスなので、ロングタイプの手袋が用意され、髪飾りも万端。どれも真珠やダイアモンドで光り輝いていた。手袋に真珠を縫い止める必要あるかしら。銀のヒールも踵が高いし、つま先に大きな宝石が光っていた。


 お母様が用意したのなら、これは一種のエールね。情報収集に関しては一歩先をいくお母様ですもの。私への「やっておしまい!」という応援と受け止めましょう。


「頼むわ」


 豪華に仕上げてちょうだい。命じるまでもなく、テオドールにより腰を絞り上げられた。着替えが終われば髪とメイク。どちらも執事が仕上げていく。連れてきた侍女は私の専属ではないし、この国の侍女は信用できない。消去法で、彼しかいないの。それに、私について来た侍女には、エルフリーデの着替えを頼んだから。


 鏡の前でくるりと回り、見逃しがないか確認する。差し出された真珠と珊瑚の房が付いた扇を受け取った。ここまで新調したのね。手に馴染む扇の重さに口元が緩んだ。


「お綺麗です、お嬢様。今夜のエスコートをぜひお命じください」


「リュシアンに命じようと思ったけれど」


 一瞬、寒気がする殺気が執事を包む。しかし私の顔を見て「ご冗談を」と霧散させた。こういうところが可愛いのよね。


「身長が合わないわ。お兄様はエルフリーデを口説きたいでしょうし。お願いするわね」


 手を差し出せば、恭しく手の甲に唇を寄せた。手袋越しにキスをした彼の姿は、礼服だ。専属執事にしたとき、外聞の問題で「子爵」の肩書きを与えていた。


「今日はどちら?」


「亡国の王子の方が相応しいかと」


「好きになさい」


 元王子を名乗るなんて、随分と警戒しているのね。いいわ、口裏を合わせてあげる。金髪を撫でつけた彼の額に手を伸ばし、前髪を少しだけ落とした。うーん、なんだか違うわ。迷って全部崩してしまう。このほうが印象が変わっていい。


 ちょうどノックの音が響き、私はすっと手を差し伸べる。支える形でテオドールが隣に並び、受けた手を絡める形で腕を組んだ。


 戦闘服にしては高額だけれど、これが王侯貴族の戦いよ。絶対に欲しいものを勝ち取ってみせるわ。夜会へ出陣すべく、私達は踏み出した。

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