67.呼んだ覚えはなくてよ?
王宮へ戻らず、そのままミモザ国へ向かいます。そう伝えた途端に、お祖父様とカールお兄様から反対が上がった。お祖父様が宰相として通達を出した以上、王太女の私が逆らうことは出来ない。
王族と言えど、宰相の発言は無視できない影響力があった。これがお母様なら跳ね除けることも可能だけど。跡取りでしかない私が、現在国の舵取りをする宰相を否定するのは、よほどの根拠がなければ難しかった。
ましてや、お祖父様が口にした護衛の追加は、今回の騒動を思えば当然の措置よ。私は大人しく受け取る立場だった。そのため、エルフリーデの回復や私の療養も兼ねて、護衛の到着までゆっくり過ごす。
「……で、どうしてお兄様がここに居られるの?」
呼んだ覚えはなくてよ? そんな響きも、カールお兄様には届かない。これでも王族として貴族相手に策略を掻い潜って生き残ったのに。私相手だとまったく発揮されないのよね。溜め息を吐く私の隣で、エルフリーデが笑いを堪えた。いいのよ、遠慮なく笑って。
「二人の護衛だ」
「護衛はテオドールで間に合ってますわ」
「だが今回はいなかったではないか」
そこを突かれると、反論しづらいわ。私がお使いを頼んだから、そう伝えたらドンと胸を拳で叩いた。
「お使いなら俺も出来るぞ」
「出来るといいですわね」
言外に「お兄様には無理なお使いです」と伝えても、カールお兄様はどこ吹く風。この面の厚さは王族らしいのかしら。
「ローゼンベルガー王子殿下。お疲れ様でございました。お戻りになる準備をする間、ゆるりとお寛ぎください」
かなり直球で「早く帰れ」と伝える執事へ、笑顔で応対する。こういうお兄様は久しぶりに見るわ。
「何を言うか。可愛い妹を置いて帰れるわけがあるまい。隣に愛らしい百合も咲く花園なら、散らせぬために命を懸けるが騎士の務め。そのために腕を磨いたのだからな」
はっはっは、豪快に笑いながらテオドールの失礼を弾いた。お兄様、何気にエルフリーデを褒めたわね。ちらっと見たエルフリーデは涼しい顔をしている。さすがは元王妃候補、褒められるのは日常会話にしか感じてないみたい。
パチンと扇を閉じる音で、不毛な会話を終わらせた。
「分かりましたわ。お兄様、明日の朝に出発しますので準備をなさって。エルフリーデもそれでよろしくて?」
「承知いたしました」
一礼する彼女は表情を取り繕っていた。そんなエルフリーデに、カールお兄様が太い腕を差し出す。
「部屋までお送りしましょう」
「……お願いいたしますわ」
迷ったのは一瞬で、エルフリーデは兄と腕を絡めて踵を返した。見送りながら振り返り、テオドールの驚いた顔に吹き出す。やだっ! 私より驚いてるじゃない!
「ふふっ、テオドール。明日の予定をリュシアンにも伝えておいて」
「はい、後で紅茶をお持ちします」
部屋に篭っているリュシアンも、明日出発なのは察してると思うわ。護衛の騎士団も到着した。準備は万端だわ。お兄様が持ってきた荷物を覗き込み、用意されたドレスを広げる。これ、お母様のセンスね? 女性らしいラインを強調する派手なドレスに、溜め息が漏れた。
私は表敬訪問に行くのよ? 夫候補を探すパーティーに参加するんじゃないのにね。胸元を強調しすぎよ。赤紫のドレスを箱に戻した。




