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65.(幕間)間違いが重なった結果

 失敗した。ハイエルフの長は頭を抱えて呻く。もっとも精霊との親和力が高く、誰よりハイエルフの特徴を宿した姿を持つリュシアンを失った。


 他のハイエルフがリュシアンを疎ましく思うのも当然だ。あまりに力の差が大きすぎた。歴代のハイエルフの中でも上位、下手をすれば祀られる初代の方々に匹敵する親和力を持つ。それゆえに厳しく育てた。力に驕って飲み込まれぬよう、しっかりと言い聞かせる。


 一族の長の筆頭候補として指名したことで、安心したのは事実だ。これで一族の未来は輝かしいものになる。精霊達と会話して頼むのではなく、命じることも出来るほどの実力者が生まれた、と。安堵してしまった。


 候補者は数名選ぶのが仕来りで、しかし事実上はリュシアンに決定したも同然。そこに不満を持つ者らの心境まで考慮していたら、状況は変わっただろうか。


 リュシアンを陥れるために策略を巡らした。そんな醜さに、精霊達は愛想を尽かし去っていく。精霊達が集い輝きを放つ聖杯は、いつしか曇ってしまった。それこそが精霊の意思だろう。


「なぜあのような愚行を為した!」


「申し訳ございません」


「聖杯を盗んだと聞いて、つい」


 言い訳するハイエルフ達に、精霊は近づかない。遠巻きに見ていた精霊がまた、この場を去った。精霊が笑い、集い、戯れたアルストロメリア聖国は寂れていく。聖杯があっても繋ぎ止めることが出来なかった。リュシアンを一方的に断罪しようとした姿は、どれほど醜く映ったのか。


 精霊は純粋で真っすぐだ。だからこそ世俗に塗れぬエルフの力になってくれた。その信頼を裏切ったのは、特権を得たハイエルフによる策略……能力の高さと生まれ故に驕った我らに、他のエルフは冷たい目を向ける。


 アルストロメリア聖国の一部はいまも栄え、実り豊かだった。エルフの中に純粋さを失わず、過去のエルフと同じ生活を続ける者がいるためだ。その手助けに精霊はこの地に留まった。しかしハイエルフに対しては距離を置き、儀式を行おうと応じる気配はない。


 数万年に渡る長き歴史は、わしの代で途絶えてしまうのか。






 嘆く老人の頭上で、精霊達は白けた顔を見せる。厳しく育てたリュシアンが、なぜアルストロメリア聖国のために動かないのか。答えはここにあった。


 厳格な決まり事だらけの生活に、リュシアンは馴染めなかった。ここは己の居場所ではないと考えるほどに。だから、魔王と交友を持ち外の知識を積極的に受け入れた。いつか聖国を出ていくために、リュシアンは力と知識を蓄えたのだ。


 表面上は大人しく従うフリをしながら、魔王と共に様々な国の人々と触れ合った。経験を積み、隔絶された外の世界の知識を貪欲に吸収する。騙し騙されることを知り、それでも真っすぐに顔を上げて精霊に対峙する。この姿勢が彼の評価に繋がった。


 純粋でなくても、薄汚れたとしても、精霊達は古き友であるエルフ達を見捨てる気はなかったのだ。親愛を寄せるエルフを見限る原因こそが、汚い嫉妬だった。醜く歪んだ顔でリュシアンを貶める姿に、精霊の気持ちは離れた。


「ったく、お姫様は自覚が薄くて困るぜ」


 背負った荷物を捨て、ありのままに振舞うリュシアンの隣で、精霊達は微笑み合う。この波長が心地よい。この歪みない正直な魂に寄り添いたいと。


「随分な言い方ね。私だって考えてるのよ?」


「考えておられるのに、私を遠ざけるなど愚の骨頂です」


 リュシアンを救った姫が唇を尖らせれば、腹黒い側仕えが切り返す。当初は怯えた人族のやり取りも、慣れれば面白い。精霊達は新たな娯楽に夢中だった。


「それより、ブリュンヒルト様の精霊魔法の杖を探しましょう」


 精霊の剣の乙女が口を挟み、精霊達はざわついた。杖になる枝を探そう、与えたらきっと楽しいことになる。くすくすと笑いながら飛び回り、やがて一つの枝を差し出すまで。

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