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63.お嬢様はお優しすぎるのです

「アーレント卿の爵位、並びに称号をすべて剥奪とします。刑を執行しなさい」


 過去の栄光はすべて消え去った。妻の忘れ形見はミモザ国の獣人へ嫁ぎ、彼は表舞台から姿を消す。その6年前の時点から疑惑が浮かび上がった。


 我がシュトルンツ国の情報を漏洩した可能性だ。元騎士団長の地位を利用し、彼は頻繁に砦や軍の若者を訪問した。地位を捨てたのは、本来接触が不可能な部署の者と顔を合わせるためだろう。騎士団長の肩書きを持っていては、近づけない相手……諜報関係や魔法を専門に扱う部署が含まれる。


 彼の訪いを好意的に受け止めた者らは、雑談程度に情報を提供した。国内で隠居生活を送る年寄りに話す分には問題ないが、他国と繋がる者なら決して口にしない。断片的で小さな情報をかき集めて、アーレント卿は動いた。


 少し前に、ミモザ国が越境して開拓した件について、手打ちとなった。その際も同行したと聞いて頭を抱える。引退したら一般人であり、元上官であろうと規則は覆らない。当たり前のルールが形骸化していた事実に、私は危機感を募らせた。


 国が滅びる時は、こうやって足元から崩れていくのね。立て直すため、アーレント卿の処刑は迅速に厳しく、定められた通りに行われた。見せしめは最も効果的な教育方法よ。


 一人娘の幸せを願う事は素晴らしいし、願いを叶えたいと行動することも立派だわ。その手段に主君への裏切りや、他者に対する攻撃が含まれていなければ……ね。法を犯したものは、法に裁かれる――ごく普通の、子どもでも知っていること。


 何も言い訳せず項垂れたまま、アーレント卿は私の宣言を受け入れた。鎧を脱がされた体は、しっかり鍛えられている。筋肉に覆われた関節や急所に血が滲み、テオドールの容赦のなさが際立った。手足を切断し、傷を塞がぬまま森へと運ばれる。


「お嬢様」


「これは私の命じた罰であり、刑なの」


 気分が悪くなるからと目を逸らすことを促す執事へ、淡々と言い切った。王族である覚悟、法を守り罰を下す立場である自覚。どちらも、私が生まれてから今日(こんにち)まで叩き込まれた誇りよ。手放すことはしない。


 決して私と目を合わせなかったアーレント卿が、最後に顔を上げて私の目を見つめ返し、僅かに眉尻を下げた。頷きに見えるよう瞬く。運ばれていく彼の背中は、ひと回り小さく見えた。


「お嬢様はお優しすぎるのです」


「厳しいだけの王なら、誰も付いてこないわ」


「私は命を捧げております」


 テオドールの真摯な告白は今更ね。ふっと気が緩んだ。


「知ってるわ」


 罪人を運ぶ馬車は、人々からの罵声に包まれて進む。投石を禁じた分、小国の民の言葉は辛辣だった。それを受けながら、彼は旅立った。これが一番の罰かしら。


 主君や人々を守ることを己に課した男は、誰より憎まれて去る。名誉も、過去の栄光や実績も無に帰した。


「抜かりないわね?」


「もちろんです。影はいつでも足下にございますから」


 自信満々で肯定する執事は、手足となる私設組織を動かしたと仄めかす。テオドールが持ち帰った情報と今回の手土産、手持ちの札を切れば負ける不安は何ひとつない。


「ミモザ国を表敬訪問します。手配をしなさい」


 一礼して了承する執事の後ろで、エルフリーデもリュシアンも厳しい表情を見せる。ダメよ、勝ちに行くのだから笑わないとね。微笑んだ私は、扇を広げて顔の半分を覆った。

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