表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/484

60.うちのお姫様に何したの?

 策略、謀略、騙し合い。どれをとっても王族に敵う貴族はいないわ。まあ、うちのお兄様は別だけど。国を継ぐために育てられた嫡子が、貴族の画策に翻弄されるようでは国が滅びてしまう。


 男爵の地位を賜っても、騎士団長の誇りを胸に生きた。そんな愚直な男が、どれだけ考えて策を巡らせても王太女に勝てるわけがないのよ。根本的に考え方が違う生き物なのだから。


「アーレント卿を含め、捕虜はすべて連れ帰ります。いいですね?」


 殺してはならない。奪われてもいけない。そう口にした私に、騎士達は敬礼して静かに同意した。一人で三人ほどの捕虜を同行することになるため、二名の騎士を先行させ、応援を呼びに行かせる。侍女達は度重なる襲撃に疲れ果て、もう動く気力がなかった。


「応援をこの場で待ちます」


 私が宣言して指示するのはここまで。数人の騎士は食事用の肉や果物を探しに森へ入り、テオドールは草原から薬草やハーブを探しては侍女に指示を出す。手際よく集められた薬草を石で潰し、エルフリーデの傷を消毒した。


 ハーブはお茶に出来るものと、食事用に分けられる。エルフリーデの願いで水を集めた精霊により、必要な水は確保された。ハーブティの香りが漂うと、侍女達の表情が和らぐ。


「なんだかホッとします」


「ええ。必ず王都へ帰すから、安心してね」


 私は彼女らの士気を上げるために微笑む。万が一何かあっても、必ず王都まで連れ帰るわ。どんな形であっても……それが今の私に示せる精一杯の誠意だった。


 木々が揺れる。狩りに出た騎士が戻ったのかと顔を上げるが、人影は見えなかった。警戒するテオドールの手が、袖の内側に隠した暗器を握り込む。まだ気づかない侍女をよそに、一部の騎士が反応した。剣の柄に手を置いた彼らに、私は頷く。


「皆、こちらに集まって」


 担架に横たわったエルフリーデを中心に、侍女を一箇所に集めた。これで防御の体制が取れる。テオドールが睨む左前方を見つめ、私は深呼吸した。


 がさりと揺れた木々の枝から飛び降りたのは、見覚えのある銀髪。さらりと流れる銀髪を後ろで一つに括り、優雅な所作で立ち上がった少年は肩を竦めた。


「やっと追いついたら、何だよ。これ……」


 口の悪いエルフ。それだけで誰だかわかる。安心して力が抜けた。


「リュシアン、来てくれたのね」


「ああ。時間が出来たら合流するって言ったけど、まさか森の中で遭難中とは思わなかったぞ」


 軽口を叩く彼の飄々とした態度が、とても頼もしかった。日常が戻ったような安堵に包まれる。


「逃げていいと許可していませんよ」


 突然振り返ったテオドールが、逃げようとした獣人の若者の足を止めた。クナイに似た両刃の小型ナイフを投げ、脹脛を切り裂く。倒れた捕虜を、近づくリュシアンの魔法が縛り上げた。何もない足元の草原から生まれた蔓は、他の捕虜にも絡み付いた。


「うわっ!」


「化け物だ」


 叫ぶ捕虜達に、リュシアンはむすっとした口調で吐き捨てた。


「ったく、森の大賢者に対して失礼だぞ」


 ハイエルフを示す称号に、獣人達は口を噤む。森と共に生きることを信条とする獣人にとって、ハイエルフは尊敬する生き神のような存在だった。思わぬ人物の登場に、彼らは一様に項垂れる。


「それで、うちのお姫様に何したの? まさかエルフリーデ嬢のケガ、お前らがやったのか」


 静かに怒りを滲ませた声で尋ねるリュシアンの金の瞳が揺らめく。周囲に集まる精霊が眩しいくらいだわ。


「落ち着いて。二回襲撃されただけよ」


「落ち着く内容じゃねえだろ」


 ぼそっと吐き捨てたリュシアンに、騎士や執事、侍女までが同意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ