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01.乙女ゲーム恒例の婚約破棄から始めましょう

 アリッサム王国の大広間は、煌びやかなシャンデリアの下で着飾った紳士淑女がさざめいていた。その穏やかな空間を台無しにする声が響き渡る。


 やはり今夜だったわね、予想が当たったわ。くすんだ金茶の髪の王子が胸を張って叫んだ。


「エルフリーデ・ツバンツィガー! 貴様との婚約を破棄する。貴様はわが国の聖女リサに嫌がらせをし、命を狙ったであろう」


「エックハルト王太子殿下、私の家名はツヴァンツィガーですわ。冤罪もいい加減になさいませ」


 それ以外にもツッコミどころはあるが、微笑んで最低限の訂正をするおっとりした雰囲気の公爵令嬢は、扇で口元を隠した。本来はフルネームの後に「公爵令嬢」を付けるのが礼儀だとか。人前で婚約破棄する非常識さに驚いている。


 王太子が曖昧な罪状を並べながら、証拠が出てこないのも問題だった。それでも直接指摘しないのは、他国からの賓客が多いためね。優秀だわ。騎士団長の息子や宰相の跡取りも誑かされたのか、聖女を庇う発言が続いた。


 彼女が落とした昼食入りの籠を捨てた? 貴族令嬢なら普通ではないかしらね。むしろ侍女に捨てさせないだけ、偉いと思うわ。実際、彼女は新しい料理を代わりに注文したのだから。落とした昼食なんて食べないでしょうに。これが次の宰相なら、アリッサム王国との付き合いは考える必要があるわ。


 王妃になるため教育された公爵令嬢としては、国王陛下不在の会場でこれ以上の醜態は避けたい。といっても、醜態を晒しているのは、公爵令嬢ではなく王太子殿下なのだけれど。


 呆れ半分で私は小さく溜め息を吐いた。もちろん、扇で口元を隠して。淑女の嗜みとして、話す時も口元を隠すのがマナーですから。どんな時もシュトルンツ国次期女王としての体面は保たなくてはなりません。


「うるさいっ! 破棄だ!!」


「エックハルト王太子殿下と腕を組んでおられる聖女リサ様とのご婚約のためでしょうか? でしたら、事前にご相談くだされば、お譲りしましたのに」


 にっこり微笑むツヴァンツィガー公爵令嬢のなんて素敵なこと! 柔らかな茶色の髪はふんわりと結い上げられ、優しい森の緑を宿した瞳はタレ目。瞳に合わせたミント色のドレスが良く似合うわ。愛らしい雰囲気の彼女は、ちくちくと言葉に棘を含ませた。常識ある貴族令息なら羞恥で顔を上げられないでしょうね。


 遠回しに、婚約者でもない女と腕を組んだ浮気を指摘し、聖女と呼ばれる彼女を貶める。さらにこれは政略結婚で、愛したことはないと明言した。これ以上何か言い訳をすれば、さらに泥沼に嵌まるのだけれど、卵王子は気づかない。


「俺に未練があるのか!」


「一切ございません。愛されていると思っていらしたの?」


 心底不思議そうに尋ねる公爵令嬢。ふふんと胸を反らす愚か者に、周囲から失笑が漏れた。さっと取り繕うけれど呆れ顔は隠せない。貴族の皆様も王太子の愚行にうんざりしているのね。


 一緒に失笑した私はすっと前に出た。取り囲んでいた我が国の貴族が道を開け、大使を務める伯爵がエスコートを買って出た。当たり前のように手を預け、ドレスの裾を揺らしてツヴァンツィガー公爵令嬢の隣に立つ。会釈する彼女に、私も同様に軽い会釈を。現状でカーテシーを要求する気はありません。


「この国を出ていけ!! 追放だ」


 のらりくらりと躱す公爵令嬢に切れたその一言、待っておりましたわ。

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