51.そうね、お片付けまでお願いするわ
氷に覆われた馬車の上で、コツンと軽い音がした。氷に攻撃していた男達が慌てふためき、透明の氷が赤く染まる。下手に透けて見えるより、いっそ目隠しだと思えば……これもありかしら。そう自分を宥めないと、叫んでしまいそうよ。
「きゃぁ!」
「何が起きてるの?」
混乱する侍女達に、危ないから伏せるよう伝えた。落ち着かせるために微笑みを作る。主君である私が慌てなければ、彼女達にも伝わって落ち着くはずよ。ここで取り乱して、外へ出たら猛獣注意だわ。間違えて処分されちゃうかも。今はこの馬車の中が安全なの。
「テオドール、数人生かしておいてちょうだい」
無言で返事がない。拗ねたのかしら。私を攻撃する者なんて、皆殺しが当たり前と口にする男だから、もう一度念を押さないと危ないわ。尋問したり、ミモザ国との交渉に使えるのよ。全員処分されたら困るの。お返事しなさい?
「テオ、聞こえたの?」
愛称を呼んで、声をややキツくする。
「承知しました」
仕方なさそうに、嫌そうに呟く声。ふふっ、後でちゃんとご褒美をあげるわよ。そんなに拗ねないで。手懐けた凶暴な大型犬のような執事の姿を思い浮かべ、自然と口元が緩んだ。
生き残った者を連れて、ミモザ国へ乗り込むのも悪くないわ。でもご招待を受けているのよね。色々考えながら、精霊の剣をゆっくり撫でた。ぶるると小さな震えを見せる剣に「ありがとう」と感謝を伝える。
魔法の杖代わりに使わせてもらったの。私が精霊魔法を使えることは、お母様しか知らない。お父様やお兄様にも伝えていなかった。エルフほど親和力が高くないので、私の精霊魔法は不安定だわ。広範囲で高出力の銃みたいなものよ。どこへ飛んでいくか分からないけど、当たれば大惨事。
精霊の剣はその名が示す通り、精霊達と同種の力を纏っている。私が持ち主なら、精霊魔法を使い放題だったかしらね。でも持ち主に選ばれていないから、鞘から抜けば制御できない。細身の剣を横たわったエルフリーデへ返した。
「ありがとう、助かったわ」
「凄いチートでしたね」
痛みに顔を歪めながらも、エルフリーデは明るい口調で指摘する。
「ブリュンヒルト様がお持ちになった方が、役に立つのではありませんか?」
あれだけの精霊魔法が使えるなら、杖やアンテナ代わりに使えるといいたいのかしら。一時期は私もそう考えたけど、無理なのよ。
「精霊達に怒られちゃうわ。私は精霊にお願いするだけ。操ったり命じたりは出来ないの」
命じて使役できるのは、エルフ族と精霊の剣の主人だけ。そう伝えて、鞘から手を離した。痛む手のひらを握り込む。侍女やエルフリーデに気づかれるわけにいかなかった。隠すように、スカートのひだに手を差し入れる。
「お嬢様、処分は終わりました。もうしばらくお待ちいただけますか? 片付けをいたします」
ぐるりと馬車の中を見回し、私は彼に同意した。
「そうね、お片付けまでお願いするわ」
きっちり、綺麗に片付けておいてね。私はともかく、侍女達が失神しちゃうから。




