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【サポーター特典SS】※2023/04/25公開

抱いた憎しみと復讐の炎を燃やして――ローヴァイン男爵


*******


 ローヴァイン男爵、そう呼ばれることに今でも違和感がある。この地位は、本来兄のものだった。


 シュトルンツ国の貴族派、その末端の小さな男爵家が実家だ。いつも生活は貧しく、両親からは「王族派は豪勢な生活をしている」と愚痴を聞かされて育った。羨むばかりで才能も努力も足りない両親は、家督を継ぐ兄に期待した。


 どこからどう見ても凡人。そう評するしかない兄ローレンツは、それでも期待に応えようと頑張った。努力をするという一点において、尊敬に値する兄だったのだろう。頑張った結果、兄は貴族が通う学院への入学を勝ち取る。


 次男である俺はまったく期待されず、自由に育てられた。外聞よく言えば……だが。自由奔放、自主性の尊重、放任主義、様々な言葉で飾っても実際は放置されたのだ。教育もおざなり、剣術も同様。何もかも兄のお下がりで中途半端だった。


 得られない物を妬むより、手に入れるための策略を巡らす。幸いにして俺には才能があった。兄の努力を凌ぎ、それ以上の結果を出すだけの頭脳がある。両親の関心が薄いのを逆手に取り、領地内で小さな商会を作った。


 地元の農作物のやり取りから始め、鉱石や行商人を運搬する荷馬車の経営。やがて金が溜まると宿屋を買い取り、そこを拠点に金を集めた。金になれば仕事の種類は選ばない。俺は餓えた心の隙間を埋めるように働き続けた。


 旅の行商人と同行して計算を覚え、護衛の剣術を習い、体を鍛えた。各地を回ることで他国の言葉も片言ながら習得する。徐々に楽しくなった。家で腐るより、外で生きていこう。そう思えるようになったのは、自由な平民の暮らしにどっぷり浸かったからだ。


 気づけば家に寄りつかなくなった俺は、自由気ままに他領地へも出入りを始める。舗装された街道、美しい観光地、豊かに商品が並ぶ店頭……何もかもが目新しく、羨ましかった。どうして俺の実家は、領地を発展させる才能がなかったのか。金なんて自分で作ればいいのに。


 己の才能に溺れていたのだろう。才能を持たぬ者の苦悩など、想像したこともなかった。ただ怠け者なのだと唾棄し軽蔑する。そんなある日、行商人と同行した旅から戻った俺を両親が呼びつけた。面倒だがまだ縁を切っていない。どこかの貴族令嬢と縁談でも持ち上がったのか?


 男爵家の次男を婿に貰うとしたら、相手も男爵家……下手すると小金のある商人だろう。どちらかといえば、商人の娘の方が気が合いそうだ。顔を出した実家は、喪に服していた。意味が分からない。玄関先からどんよりと暗い空気が漂い、喪中を示す黒いリースが玄関扉を彩った。


「大変よ、ローレンツが……あの子が殺されたの」


 泣きながら訴える母。


「こんな横暴が許されるのか!」


 憤慨する父。


 二人とも老けたな、久しぶりに顔を見た両親への感想はこの程度だった。だが言葉はしっかり耳に届いている。使用人はトマス一人だけ、彼は暗い声で事実を説明してくれた。


 兄ローレンツは学院でも10位に入る優秀な成績だったらしい。それをやっかんだ貴族派の重鎮貴族の子弟が兄を呼び出し、()()()()()が起きた。話を聞き終えて、帰ってきた兄の顔を覗き込む。こんなに細く小さかっただろうか。


 鍛えて逞しくなり身長も伸びた俺が言うのは何だが、小柄な兄は棺が余っていた。成人用の木製の棺の頭と足を大量の花で隠しているが、明らかにおかしい。頭の大きさと体のバランス……気づいた瞬間、嘔吐した口を手で押さえた。


 兄はバラバラにされたのか。どこかパーツが足りないのだろう。それを隠すための花だった。嘔吐が落ち着いて、覚悟を決めた。色とりどりの花で覆われた棺の中を確認し、不自然な暴行の跡をいくつも発見する。きっと訴えても揉み消されるのだろう。


 両親は棺の花を掻き出す俺を止めなかった。期待の嫡男を惨殺されても、文句ひとつ言えない。これが男爵家の実態だ。爵位の末端、ぎりぎり貴族を名乗れる程度の領地と財産……だから甘くみられる。これが公爵令息なら、国が動くはずだ。


「許さない」


 ローレンツに才能はなかった。でも人一倍努力していたのだ。それを気に入らないと権力を盾に踏み躙る輩が国の中枢にいるなら……こんな国、滅びてしまえばいい。事故の現場に居合わせた高位貴族の名はすぐに手に入った。


 グーテンベルク侯爵家、ハーゲンドルフ伯爵家――何年かかってもいい。必ず落としてやる。兄にそこまで思い入れがあったか、問われたら首を横に振る。だが殺されていい人でなかったのは事実だ。


「父上、母上。俺が……いえ、()がこの家を継ぎます。余生を暮らせるだけの金と家を用意します。すぐ手続きをしてください」


 反論など認めない。トマスが手配を担当し、数日後には当主交代の連絡を王宮へ送った。受け付けた旨の返信を受け取り、俺は復讐を開始する。我がローヴァイン男爵家の名を知らしめ、主犯である貴族派の重鎮を追い落とすために。


 権力も財力も、俺の才能次第で手に入るはず。数年で王宮の夜会に参加出来るほど勢力を伸ばした俺は、そこで運命の出会いを二つも経験する。未来の主君と、未来の妻――どちらも美しい顔で思わぬセリフを口にした。


「犯罪や侮辱は見逃せなかった。そこはご理解いただけるかしら?」


 どこまでも濁った貴族社会という泥水に、清水が流れ込んだ瞬間だ。ああ、俺は間違っていなかった。果たされるであろう復讐の結末を見届けたら、中央政権から距離を置こう。そう思ったんだが? なぜか美しい黒髪の侯爵令嬢に迫られている。簡単に落ちる俺ではないが、最近劣勢なのは否定しない。









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 4/25、カクヨム有料サポーター様のリクエストでした。


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