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『コミック4巻祝い』束の間の休息

 女王の座に就いて、母の空中庭園を譲り受けた。柵が低くて、せり出したテラスから見る景色は絶景だ。遮るものがない庭の延長の借景は王都だった。守るべき国と民の見える庭で、テオドールの入れたお茶を飲む。


「美味しいわ」


「ありがとうございます」


「二人きりよ」


 毎回注意しないと、彼は執事の立場を崩そうとしない。もう王配となったのに、茶器や茶葉の管理から毒見までこなすのだ。献身的を通り越して、執着に近かった。それもまた、私には心地よい。


「隣に腰かける栄誉を頂いても?」


「ええ、いらっしゃい」


 頷くだけでいいのに、ちょっとだけ言葉を足す。整った顔が嬉しそうに笑みを浮かべ、いそいそと隣に腰かけた。


 何でもできて、綺麗で、献身的で……この妙な執着さえなければ優良物件だ。けれど、この眼差しが好き。私だけを映し、それ以外は景色の一部と言い切る男の視線は鋭く、私の立場を思い出させてくれる。


「足りなくない?」


「いえ、これ以上なく満ち足りております。ヒルトの隣に侍る許可を頂いているのですから」


 二人きりと告げられ、敬称を外した。それでも敬語は崩れない。このアンバランスな男を魅了した幸運は、何物にも代えがたいわね。ある意味、私の転生チートはこれだったのかも。


 跡取り娘が成人して、国を任せて……それでも私の覇道は終わらない。大陸すべてを手に入れ、落ち着かせて置いていくまで。長い年月がかかるだろう。私が死ぬまでに終わらせるつもりだけれど、間に合わなければ、ヴィンフリーゼの手を汚してしまう。


「何をお考えですか?」


「ヴィンフリーゼのこと。あの子の手を汚したくないわ」


「あなた様の手も汚さないでください。私が代わりに血を浴びましょう」


 するりと指が絡む形で握ったテオドールが、唇を寄せて私の指背に触れる。これは人差し指ね。次は薬指? 最後に中指。擽ったさに肩を揺らした。


「擽ったいわ」


「そうして微笑んでいてくれれば、何でも叶えます」


 本当に、叶えてくれそう。だけど……ダメよ。


「叶えるのは自分でするわ。だって、他人から譲られても価値がないでしょ?」


 くすくす笑いながら、世界の行く末を語る。このくらいでいい。テオドールの距離感は、私にとって快適だった。執着も鬱陶しく感じたことはない。ただただ、心地よさが続く。


「そうでした。ヒルトの邪魔は致しません」


 庭園の入り口に、人影が立つ。声をかけず、ただ存在だけを示した宰相エレオノールに頷いた。もう仕事の時間みたい。この庭園は女王のもの、私的な空間だった。


 テオドールのエスコートで庭園を出る。執務室へ向かう途中で、リュシアンとすれ違う。何やら新しい薬の研究中で、本を周囲に浮遊させたまま歩いてきた。


「読書もいいけれど、気を付けてね」


「ああ、ミントの香りがする」


「ミントのお茶を飲んだの」


 鼻がいいのね。せっかく美形のエルフなのに、犬みたいよ。笑って別れた。


 執務室へ入れば、クリスティーネが顔を見せる。外交関連の報告があるようだ。すぐに報告書を受け取り、協議を始める。その脇でエレオノールが口出しした。


「これは、締結したばかりの条約に記されています。第五条ですね」


 丸暗記しているのか、有能な宰相は条約を綴じた分厚い本を運ぶ。獣人は腕力や脚力が強く、女性には重い一冊を軽々と移動させた。机の上で開いて提示する。うさ耳が揺れる様子は、どうやら機嫌がよさそう。


「条約があるなら突っぱねるわ! 任せて頂戴」


 にやりと笑うクリスティーネを見送り、届いていた手紙を開いた。兄カールハインツの妻となったエルフリーデからだ。今は出産のため休暇を取って、ツヴァンツィガー領に帰っている。お兄様が何かしでかしたかしら? 


 他愛ない内容を二度読み直し、用意された便箋に返信を綴る。心得たように封蝋の準備をするテオドールを見ながら、封筒に便箋を入れた。


「いつも通り、お願いね」


「はい、承知いたしました」


 大きな事件もない穏やかな日常、早く大陸を制覇して落ち着きたいわ。引退を早めることを考えながら、垂らした蝋にスタンプを押し付けた。



   終わり

*******************

本日『要らない悪役令嬢、我が国で引き取りますわ ~優秀なご令嬢方を追放だなんて愚かな真似、国を滅ぼしましてよ?~』コミック4巻が発売されました°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° ぜひ手に取ってお楽しみください!

黒髪クリスティーネの青い表紙が目印! 蛇足せんたろう先生に愛を込めて、ミニSSを捧げます。いつもありがとうございます。

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