だから言いたくなかったのよ
なんとか全員の承諾を得て、私は飲み干した紅茶のカップを置いた。全員の視線が集中する中、重い口を開く。
「あれは……寿命を削るのよ。魔力だけでは発動しない。魔王に一矢報いようとしたエルフの一人が、魔力と寿命を懸けて聖杯を使うシーンがあったの。精霊は聖杯に集うけれど、同時に精霊の剣も好きよ。代用として使えるんじゃないかしら? と考えて……」
あの時は手元に剣しかなかった。もし聖杯があれば、そちらで試したはず。形としては攻撃先がわかりやすいから、剣が扱いやすかったわ。そんな感想も続け、しんと静まった状況に気づいた。
「寿命、でございますか」
この世が終わるのでは? と心配になるほど暗い顔と声でテオドールが呻く。あの場に間に合わなかった自分を呪う言葉が続き、慌てて止めさせた。
「待って、テオ。だから二度と使わなかったでしょう? それにエルフリーデを傷つけられて怒っていた精霊がかなり譲歩してくれて、私の寿命はさほど減っていないの。そうね、一年くらいよ」
具体的に告げれば「なーんだ」と安心してもらえると思ったのに、さらに落ち込んだ人が出た。
「私のせいで、ブリュンヒルト様の寿命が一年も……」
「俺が同行するべきだったな。今からでも代われないだろうか」
エルフリーデが責任を感じないよう、言わなかったのに。それにカールお兄様も、寿命が減ったらエルフリーデが悲しむでしょう。
「私が同じ立場なら、迷ってしまったでしょう。尊敬します。でも……ミモザ国が申し訳ありません」
ミモザ国元王女として、エレオノールはしょんぼりと肩を落とした。
「うーん、そんな番外編があったなんて。侮れないわ。私は読んでいなかったけれど、知っていても躊躇うわ」
「その時点で一年の寿命か、それ以上かわからなかったわけですし。かなり危険な賭けだったと思います」
クリスティーネの呟きに、ラウレンツが止めを刺しに来た。やめて、それ以上言わないで。私の残りの寿命が縮まりそうなのよ。寒気がするのは気のせいじゃなくて、隣のテオドールのせいだと思う。
「エルフが使った禁忌の術ならば、最悪……その場でお嬢様の命が消えていた可能性もあったのでしょうか」
昔の呼び方はやめて! お通夜みたいになってしまったお茶会で、私は一人であたふたと言い訳を始めた。
「でもね、一年で済んだじゃない。それに一歩間違えたら全滅していたわけで、生き残るためには多少の犠牲は仕方ない……いえ、わりと軽い犠牲だったわ。そうでしょう?」
誰も同意してくれないので、ポットに残ったお茶を注いで薔薇の砂糖を二つ沈める。もう! だから言いたくなかったのに。




