懐かしい話題とお土産に舌鼓
「私だけ何も用意していなかったわ」
誰か教えてくれてもよかったのに。そんな口ぶりでぼやくと、カールお兄様がからりと明るい笑い声を立てた。
「用意してないのは俺も同じだ」
「カールお兄様が用意してくれたことあって? 過去に一度もないんじゃないかしら」
「え? 一度くらいはあるだろ……ほら……えっと」
聞いていた皆が、「ああ、なるほど」みたいな顔でくすくすと笑う。嫌な雰囲気ではなくて、暖かく心地よい感じだった。こうして全員が揃うのは、どのくらいぶり? 第一線を退いてから、少しずつ仕事を手放した。それと一緒に、私達の距離も開いてしまったわ。
顔を合わせれば、まるで空白の時間がなかったように帰れる。懐かしい時間と関係は、少しも失われていなくて安心した。
「そういや、カールって呪われたんだろ。調べてみたかったな」
精霊に関する術は熟知するリュシアンも、人族が使う魔術や呪いについては門外漢だ。素人同然の発言に、カールお兄様はちらりと隣のエルフリーデを見た。しっかり尻に敷かれてきたみたいね。
「いまだに、どうして解呪されたのか不思議です」
珍しくテオドールが自ら会話に入っていく。今日は執事ではなく、夫の立場をお願いしたから? かつての美貌に老いが窺えるけれど、やっぱり綺麗だわ。この顔、本当に好きなの。前世の画面越しでは絶対に知り得なかった、彼と年老いていく時間は私の財産よ。
「エルフリーデ、説明できる?」
私が促すと、うーんと唸ったエルフリーデが首を傾げる。昔と同じ、癖になっている仕草で唇の下に人差し指を当てた。柔らかなブラウンの髪が、さらりと揺れる。結っているのに、一部を流す髪型は彼女のお気に入りみたいね。
待つ間にお茶菓子を一つ摘まんだ。エルフリーデの焼いた菓子は、さくっとした歯ごたえで甘すぎない。二種類あり、もう片方は上にカラメルを塗ってあった。甘党とそれ以外、両方に配慮するところがエルフリーデらしいわ。
リュシアンが出したハーブを浮かべたお茶に口をつける。もう昔のように毒見は必要ない。立場はもちろん、集まったこのメンバーで心配は不要だった。もし何かあって死んでも、後悔しないと言い切れるもの。
すっきりした味わいのお茶は、いつものテオドールの温度。冷めていないのに、火傷するほど熱くない。絶妙の加減だった。美味しく頂く間に、エルフリーデは考えが纏まったらしい。
「まず、塩が重要なんです」
語り出した彼女の言葉に、前世の知識が散りばめられている。神社の娘だったと知ったのは、あの呪いの時だったわ。確か白ワインと大麦で代用したのよね? 異世界でも神様が手伝ってくれたのか、それとも思い込みで祓ってしまったか。
真剣に説明を聞くリュシアンをよそに、クリスティーネは肩を揺らして笑い続けている。以前も、この話を聞いて大笑いしたわね。気持ちが若返るというより、時間が昔に巻き戻った感覚で口を挟んだ。
「あの後、日本酒ができたの。今なら白ワインで代用しなくて済むわ」




