魔王ユーグの場合
人族など、ひと夏の蝶に等しい。大した才能も美も持たず、数だけは多い。まさに羽虫のような存在だった。大陸全土を覆い尽くすほどの繁殖力を誇る。
なかなか子が産まれず、育ちにくい魔族にしたら羨ましい限りだ。かつて人族の血を取り入れ、繁殖能力を高めようとした者もいた。結果は失敗に終わる。いくら交配しようと努力しても、子は出来なかった。それどころか、エルフや獣人との間でも混血しない。
圧倒的な魔力が影響しているようだが、調べる気にならなかった。無駄だと判明しているのに時間を費やすのは、愚か者の行為だ。
偶然、アルストロメリア聖国を抜け出したハイエルフと出会った。人の振りをしていた俺が話しかけると、嬉しそうに交流を求める。リュシアンと名乗るハイエルフは、魔族だと知っても態度を変えなかった。種族を越えた友情が成り立つのだと知り、出会えた幸運に感謝する。
すぐに出会いを呪うことになるとは……想像もしなかった。魔国の有力者の子が、次々と倒れる。数百年に一度、このような惨事が起きた。魔力量の高い子が多く生まれると、なぜか死亡率が上がるのだ。流行り病のように、次々と伝染して倒れる。やがて衰弱して亡くなった。
この悲劇の解決方法を探すのは、王の義務だろう。他の種族から情報を集めるため、リュシアンとともに冒険者としてすべての国を回った。その中でもたらされたのは、皮肉とも呼べる残酷な事実だ。精霊が集う聖杯があれば、救えるかもしれない。
ハイエルフから得た情報に、愕然とした。何も知らずに隣にいた友が、その鍵だったとは。リュシアンに協力要請をするか、それとも騙して奪うか。迷いながら一度離れた。距離を置くことで冷静になろうとしたが、苦しむ幼子を見て決断する。
王である以上、民を危険に晒すことはできない。ハイエルフに協力を頼んで、対価として要求されたのは膨大な魔力の結晶だ。俺一人で賄える量ではなかった。各種族の長を集めて協議するも無理との結論が出る。そこで奪う方向へ思考は傾いた。
騙して奪った聖杯は偽物で、人族の王太女に謀られたことに驚く。ハイエルフの目すら誤魔化し、彼女は嫣然と笑った。魔王相手に堂々と交渉を持ち掛けたのだ。それも無理ではない取引条件で。リュシアンとの話し合いは平行線となり……友は去った。
王太女の寿命が尽きるまで戻らないと宣言した友は、今頃どうしているだろうか。伝え聞く大陸の噂では、辺境伯として領地をもらったとか。そのまま根付いて、俺を忘れるのではないか? そんな不安を消すように、王太女から手紙が届いた。
「大陸分割のお礼よ。私が死んで三年したら彼を返すわ。でも三年は死を伏せるから、会わせない」
会わせられない、のではない。会わせないと断言した。リュシアンが俺より自分を選ぶと言いたげに、強気な口調と態度は変わらない。人の寿命は百年余り、ひと夏の蝶も同然だ。ならば、付き合ってやろうではないか。
稀代の女傑の豪胆さに敬意を表して。




