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ラウレンツ・ローヴァインの場合

 兄の無念を晴らすために貴族派を掌握した。金稼ぎの能力に長けた俺は、上品な貴族の仮面を被る。自分を「俺」ではなく「私」と言い換えて、兄の復讐のため奮闘した。そうだ、あの葬儀のあと、俺の人生は兄に捧げていたのだ。


 仇であるグーテンベルク侯爵とハーゲンドルフ伯爵の、得意げな様子に口角を持ち上げる。どうやって落としてやろうか、想像だけで楽しかった。そこへ割り入ったのが、ローゼンミュラー王太女殿下だった。婚約者選びと称し、邪魔な貴族を一掃していく。


 王族派の重鎮は事前に知っていたらしい。落ち着いた対応で、王太女殿下をサポートした。本来なら、あちら側にいたはずの兄だ。王宮の文官として働きたいと、そう口にしていた優秀な兄の姿を思い浮かべようとして……吐き気に襲われる。


 入学前の穏やかな姿はなく、棺に納められた不自然な遺体が脳裏に蘇った。悔しさと怒りが思考を鈍らせる。大切な獲物を奪わせまいと、間に入って仲裁を試みた。だが、優秀な王太女殿下は見抜いておられたようだ。あっさり退けられた。


 あの二つの家が処断され、貴族派のまとめ役としての自分が残される。居心地が悪いうえ、なんとも間抜けだった。石の裏で蠢く虫を、日の当たる場所に晒そうとなさるなど。尊い方は残酷なことをなさる。


 どうやら「私」の出番はここで終わりのようだ。「俺」に戻って、また汚く金勘定でもするか。


「あなたが欲しいの」


 裏社会に潜りすぎて、退化した目には眩しすぎる。娘と呼んでもおかしくない年齢の侯爵令嬢が、俺を好きだと? 信じるはずがないだろ。黒髪の美しいエンゲルブレヒト侯爵令嬢クリスティーネ、誰でも選び放題だろう。金も地位も容姿も、未来の女王陛下から信頼される有能さも兼ね備えた才女だ。


 逃げ回る俺の尻尾を掴もうと伸ばした腕に、囚われたのはいつだったか。魅了され、取り込まれ、捨てられたくないと縋る……そんな醜い俺を彼女は選んだ。ひれ伏して愛を乞う俺を隣に立たせる美しい人。


「最愛の妻のあられもない姿を覗き見る賊は、殺されても仕方ないでしょう?」


 夫婦の時間に乱入したハイエルフを睨めば、彼女は笑いながら着替えに向かった。着飾る彼女の隣に立つならば、相応しい装いがある。いつだって凛として咲く妻は、唯一と定めた主君に会うためのドレスを選ぶはず。ならば正装して待つのが夫の役目だろう。


 彼女の手を取るのは、俺でなくてはならない。呆れ顔のモーパッサン辺境伯を待たせ、妻クリスティーネの準備を待った。良い女ほど、男を待たせるものだ。持論を展開したら、モーパッサン辺境伯に「はぁ? 俺には遅刻夫婦にすぎねえよ」と一刀両断にされた。


 相変わらず、口の悪い奴だ。昔の俺なら殴ってるぞ。


 ようやく顔を見せてくれた俺の女神に跪いたら、そのまま転送された。くそっ、褒め言葉を伝える前だったのに。

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