表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
475/484

クリスティーネ・エンゲルブレヒトの場合

 貴族同士の情報戦が当たり前の国に生まれて、騙される側に回る気はなかった。前世の知識もあるから、私は一歩リードしているはず。ルピナス帝国の中で一目置かれる存在になった頃、第二王子殿下が婚約破棄を考えていると聞いた。


 正直、嬉しいと思ってしまう。だって能無しを夫にするのは、私の才能の無駄遣いだわ。それにせっかく異世界に来たなら、あちこち見て回りたかった。前世ではお金がなくて海外旅行先が限定されたけれど、この世界では侯爵令嬢よ。お金も地位もあるなら、自由に生きたいと願うのが普通でしょう。


 家族との仲も良好で、虐げられることもない。結婚しない娘は困るだろうから、貴族令嬢として政略結婚は受け入れる。でも、その後で理由をつけて国を出るつもりだった。外交官なんて素敵よね。大使夫人あたりが理想的だけれど……よりによって第二王子だなんて。


 中途半端すぎる。他国を回るのに、王族の妃は最悪だわ。見たいところへ行けないし、外遊や友好親善で訪れたら拘束される。好きな国へ向かうのも難しい。行き先も目的も決められ、せっかく他国へ出向いても夜会くらいしか活躍の場がないのよ?


 あの王子が他の女の腰を抱いて「真実の愛」を叫んだ時、内心でガッツポーズするくらい嬉しかったの。だからアウグスト王子がワインのグラスを掴んだ時も、被って退場すればいいと考えた。まさか……大国の王太女殿下が被害に遭うとは思わなくて。


 宣戦布告だと胸を張る彼女に見惚れた。窮屈なはずの跡取りの地位にいて、他国に出向いて側近を選んでいると言い切る。その自由さも、奔放さも、言葉で皇帝を下す鋭さも……羨ましかった。だから踏み出した。


 ローゼンミュラー王太女殿下の手を取ったの。口説かれて側近になった私は、外交を任された。諸国へ出向く立場を得て、シュトルンツの貴族を見初める。ええ、私が選んだのよ。彼ではない。ローヴァイン男爵ラウレンツは、私の獲物だわ。


 狙いを定めた私に、ブリュンヒルト様は寛大だった。身分差などとくだらない言葉を吐かない。追い回して、逃げる彼を追い詰めて、最後に口説き落とした。必死だったけれど、あの時間は後から考えると楽しかったわ。


「ラウレンツ、次はどこへ行こうかしら?」


「南のほうで小さな騒動があったようです。気になりませんか?」


「あら、どんな話?」


 いつだって情報交換はベッドの上。薄着でじゃれ合って、年上の彼に甘える。そんな幸せな時間に、無粋な迎えが飛び込んだ。


「ちょ! 事前に連絡してあっただろ?! さっさと準備しろよ……って、攻撃するな!!」


「最愛の妻のあられもない姿を覗き見る賊は、殺されても仕方ないでしょう?」


 素敵な口説き文句ね。くすくす笑いながら、ガウンを羽織る。すぐに着替えると言い残し、部屋を後にした。寝室で大きな物音がするけれど……困ったわね。久しぶりにブリュンヒルト様にお会いするんですもの、着飾りたいわ。でも時間がないし……。


 迷いながら選んだ服に袖を通す。呼び出した侍女の手を借りて、正装という武器を身に着けた。装飾品を選んで、化粧で気持ちを切り替える。遅れてしまうわね、あの人も準備できたならいいけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ