リュシアン・モーパッサンの場合
ハイエルフの中でもずば抜けた親和性があって、仲間といるより精霊と過ごすほうが楽だった。それでも俺は仲間だと思っていたのにさ。まさか蹴落とすチャンスを狙ってたなんて、知ったらいい気分にならないよな。
俺を追放したくせに都合よく連れ戻そうとするのも、腹立たしいだけだ。詫びて距離を取った魔王ユーグのほうが、全然マシだろ。ヒルトにも宣言したけど、彼女の人生に付き合った後で気が向いたら許してやってもいい。今はこれが精いっぱいの譲歩だった。
何度かこっそり会いに来ていたが、そのくらいは見逃してやる。昔の俺なら、一度の裏切りで全部を否定した。人族は寿命が短いのに、俺らより考え方が柔軟だ。それに成長の速さの影響で、解決策を見つけるのも上手だった。
ハイエルフにはない特性だ。許せないならそれでも構わないから、距離を置く。時間が経てば許せる日が来るかもしれない。そんなの、伝説の「神」みたいだ。あり得ないと思ったのに、二十年を過ぎた頃から腹立たしさは消えた。代わりに懐かしさが募る。
こんな時「アイツはこうするだろうな」とか「こんなことして叱られたっけ」とか。苦い思い出じゃなくて、くすっと笑う感じで浮かんでくる。不思議に思ってヒルトに尋ねたら、親みたいな口調で教えられた。
「あなたはユーグを嫌いじゃないのよ。だから許せるの……今じゃなくていつか、だったとしても道はまた交わるわ。時間は最高の薬よ」
薬師でもある俺に薬の説教なんざ、千年は早い。そう切り返しそうになったが、呑み込んでみた。言わなかった後悔はなく、笑いがこみ上げてきた。俺にこんな穏やかな部分があるのは驚きだ。
人はあっという間に老いて、俺を置いていく。年老いても美しいヒルトが、ある日俺に願った。友人達と集まりたい、と。もう女王の座も譲って、孫も立派に育って。娘すら引退する頃になったのに、思い出したように強請るんだ。
皺の増えた手を握り「手伝ってやるよ」と笑った。精霊との親和性が低いのに、なぜか精霊はヒルトが好きだ。かつて精霊の剣を勝手に振るうのを許した程度には、近い距離を許している。近くにいても認識されないのに、ふわふわと肩や髪に寄り添った。
転移を使って、順番に回収していく。エルフリーデとカールハインツ、まずはこの二人だ。それからクリスティーネ……いや、エレオノールのほうが近いか。ウサ耳の元王女は、弟を犬として飼ってるんだけどさ。一緒に連れてこないと怒られそうだな。
顔を見せては拾ってくる。精霊による力が安定しているからできることで、俺を信じているから転移に同意する。その信頼が擽ったくて、時間をかけて築いた自分を誇りたくなった。さあ、懐かしい顔ぶれでお茶でも飲もうぜ。




