39. そんな設定、小説で読んでないわ
精霊達は体内に残る異物を外へ排出する。魔族の血に吸収されたのは、特殊な鉱物だった。魔力の流れを阻害する効果があるが、一般の魔族に症状は出ない。元々の魔力量が少なければ影響も小さいから。
魔力に集まる性質の鉱石は、大量の魔力を持つ魔族の体内に入り込む。大人ならば体力があり、魔力による浄化作用も働く。子どもはそれらの器官が発達しておらず、魔力量が多いのに循環が未熟だった。これが子どもにのみ発病する理由。感染だけなら魔族全員が経験したでしょうね。
蛍のような光は消え、幻想的な光景は現実に戻る。子ども達は苦しそうな呼吸が収まり、まだ頬が赤いものの穏やかな寝息を立て始めた。
「すぐに熱も下がるでしょう」
我が子の様子を確認した親から称賛の声が上がり、テオドールは私の前で膝を突いた。
「私への賞賛はすべて、お嬢様のものです」
「ありがとう。でもあなたの功績よ。褒美は用意するわね」
穏やかに話す私達をよそに、リュシアンは魔王ユーグと睨み合っていた。互いに言葉はない。エルフリーデは心配そうな声で「大丈夫かしら」と呟いた。
「リュシアン、二人で話をする?」
「いえ。王太女殿下も同席してください」
意外な言葉だった。私がいない方が自由に話せると思うんだけど。違うわね。自分が怖いのだわ。握った拳が震えるリュシアンの様子を見て、そう気づいた。
暴走した自分が何をするか分からない。ストッパーになる人に立ち合いを求めるのは、リュシアンなりの誠意ね。友人であった魔王ユーグにどんな言葉を投げるとしても、後悔しなければいい。決別しても友情を繋げても、自ら選べば諦めがつくから。
「いいわ、同行します」
「こちらへ」
病院の裏手にある診察室に似たスペースへ案内された。個室になっており、病人である子どもに付き添う親達と隔離できる。魔王ユーグに続いてリュシアンが入り、私も続く。当たり前のような顔で、エルフリーデとテオドールが入室した。
「君らは外で待ってくれないか」
「王太女殿下の護衛です」
「執事として、王宮外でお嬢様に関する全権を預かっております」
なんだかんだ理由をつける二人に、眉を寄せるユーグだが、リュシアンの言葉で口を噤んだ。
「彼らも同席させる」
「……わかった」
この場で、子ども達を救った恩人を蔑ろに出来ない。見た目はテオドールの功績に見えるが、彼は魔法陣で効果を広げただけだ。その魔法は素晴らしいが、精霊達に協力を要請して実行したのはリュシアンだった。
魔法に長けた高位貴族も、魔法陣の効果に気づく。最大の功労者が望むなら、魔王に拒む手段はなかった。国を治める者なら、己の名誉や体面を犠牲にしても守らなければならないルールがあるの。
「聞きたいのはひとつだ。最初から騙す気で……聖杯の入手が目的で俺に近づいたのか?」
頭に立派なツノのある魔王が、ゆっくり首を横に振った。
「信じなくてもいいが、違う。お前と友人になってから、子ども達の症状が悪化した。精霊の力があれば治ると教えたのは、ハイエルフだ」
明かされた真実に、私も驚いた。そんな設定、小説で読んでないわ。




