37.本当に俺が助けられるのか?
「いいえ、彼は違いますわ。別件で立ち寄った隣国で拾いましたのよ。謂れなき罪で国外追放を言い渡された気の毒な方で、私の側近にと望みましたわ。だって、お顔も能力も基準以上なんですもの」
ほほほと笑って扇で顔の半分を隠す。エルフリーデの肩が少し震えてるけど、笑いたいなら笑っていいのよ? テオドールは澄ました顔で一歩前に出た。
「シュトルンツ国の王太女殿下は、慈悲深い方です。アルストロメリア聖国からの帰路で、貴国の子ども達の不幸を耳にして助けることを決断なさいました。私に医療の心得があるため、多少なりお力になれると思います」
ゆったりと腰を折って頭を下げる。執事服の青年による挨拶に「医療の心得?」と片眉を上げた。胡散臭いと思ったのね。まあ、当たらずとも遠からずなのよ。テオドールは暗殺者として育てられた。だから人体の構成や毒に対する知識は人一倍よ。専門家と呼んでも過言ではない。
暗殺の知識も逆に利用すれば、医療行為も可能なの。殺すための知識は、すなわち治療に通じる。我が国の医師免許はすでに取得したから、調べられてもボロは出なかった。
「では尽力をお願いしよう」
国内で万策尽きた表記があったから大丈夫と思ったけれど、外部の者に診せられないと突っぱねる可能性もあった。ほっとして大きな息を吐きだす。
案内された建物は隔離用らしい。伝染するか判断が出来なかったため、安全策だろう。小説の表現によれば、空気感染ではないが感染する。魔族の子どもにだけ症状が出る理由は、未熟な魔力回路が原因だった。まだ未発達でありながら、強大な魔力を持つ種族の子だけ発病する。
未来の国を支える重鎮の子が片っ端から倒れたことで、魔王は焦った。友情を犠牲にして、リュシアンを騙す程に。この病は新しく出来た物ではなく、魔族に昔から一定数受け継がれたもの。子どもだけじゃなく大人も感染しているはず。
魔力の強い種族に感染するから、家族がどこかで感染し持ち込まれれば全員に広がる。しかし発病するのは回路の未熟な子どものみ。高魔力種族の子の成人率が低いのは、魔力の暴走によるものと考えられてきた。でもおそらく、この病に感染して発病していたのよ。
ここは物語であまり深く言及されなかったから、半分は私の予想だけどね。
「この子達だ」
魔族は無意識に魔力を使う。日常生活でも当たり前に魔力を纏うため、握手しても感染するはず。魔力を媒介にして入り込む病は、魔王自身も感染した可能性が高いの。ただ発病しないだけよ。
「資料を見せていただけますか」
一番近くにいた子どもの診察を始めながら、テオドールは過去の症状などを確認する。これは建前で、実際のところは私の予測を伝えていた。見当がついていれば、結論を導くのもスムーズで早い。
「この場にいる魔力の高い魔族は、すべてこちらへ」
付き添いの両親と思われる魔族や魔王を、予備の病室として用意された隣室へ誘う。その間、私達は一度建物を出た。病院と称するのが近いかしら。清潔に整えられた病院の外で、私は深呼吸した。人族やエルフは移らないと理解していても、やっぱり病室は気が滅入るわ。
高熱に魘された子ども達を見たから余計ね。荒い呼吸と大量の汗、高熱に関節痛や筋肉痛。全身が痛くて堪らないでしょう。きゅっと唇を噛みしめていたリュシアンが口を開いた。
「なあ、本当に俺が助けられるのか?」
「ええ、精霊魔法による治療よ」
精霊が協力すれば、あなたでなくても助けられる。でも現状、もっとも精霊を上手に扱えるのはリュシアンだけなの。彼の望む情報を与えて待った。助けることはテオドールでも可能よ。でもあなたが心を残した魔王との関係改善が優先だわ。だからリュシアン自身の答えが欲しい。
どちらを選んでも、私の態度も今後の展開も変えるつもりはなかった。「聖杯物語」の中の登場人物ではなく、目の前にいるリュシアンの決断だもの。この世界は物語が集まった異世界かも知れないわ。私は各物語で「隣国」と称されるモブ国のモブ王太女に過ぎない。でもね、転生者としての知識チートで国を発展させるわ。
「リュシアンは、何を望むの?」




