表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/484

36.あくまでも知らないフリをする気ね

 魔王との面会は、申し込んで1時間も経たずに返答が届いた。一国の王なのだし、もっと時間がかかると思うの。国家元首と考えれば、もったいぶって時間を稼ぐのが普通だわ。いつでもすぐ会えると思われたら、威厳もへったくれもないんだから。うちのお母様もそうだし、私だってそう振舞う。


 聖杯の効果がないことに気づいたのかしら。だとしたら王としては有能ね。持ち帰った道具が使えるかすぐに確認し、手掛かりをもって現れた私達を急ぎ呼び寄せた。その振る舞いは国や民を憂う王そのものだわ。演技でないことを祈りましょう。


 私達は貿易都市、魔王は自国の砦にそれぞれ陣取った。出向くのはこちら側になる。私は大国の王太女だけれど、まだ頂点に立っていない。これが女王の地位を受け継いでいたら、魔王が譲歩する立場になるわ。馬車に乗り、国境ギリギリまで整えられた街道を揺られた。


 そこから砂利道になり、がたごとと馬車が悲鳴を上げる。極端に乗り心地の悪い道を30分程で、砦の門をくぐった。魔族って、空を飛べたり獣以上の速さで走ったりするから、道を整える意識がないのよね。お尻が痛いわ。


 向かいで腰を押さえるリュシアンも涙目だった。さっき、揺れてる中で何か言おうとして舌を噛んでたもの。気の毒だけど、注意してたら私の舌が同じ目に遭ってたはずよ。テオドールは平然としていて、何だか悔しい。手を貸されて馬車から降りた私は、リュシアンに小声で指示を出した。


「私の後ろにいなさい、絶対に前に出てはダメよ」


「分かった」


 アルストロメリア聖国で無言の指示に従った彼は、その実績を身をもって知っている。文句を言いたいだろうから黙らなくていいけど、前に出るのは危険だった。テオドールとエルフリーデが私を守るから、その後ろが一番安全なのよ。


「バルバストル国王ユーグだ。()()()お目にかかる」


 先に名乗ったのは戦略かしら? 毛を逆立てて威嚇する子猫みたいなリュシアンを見る目が優しいわ。もしかして厄介な性癖の持ち主じゃないわよね。心配になっちゃう。


「こちらは……」


「シュトルンツ国王太女ブリュンヒルト・ローゼンミュラーですわ。丁重なご挨拶痛み入ります」


 紹介しようとした執事の声を遮る。一応こちらの立場が強いとはいえ、国王が名乗ったのに執事に挨拶させるわけにいかないわ。それに、魔王は「初めて」と口にした。リュシアンから聖杯を受け取ったあの時を、無かったことにする言葉よ。


「一度お会いしたら忘れないほど、整ったお顔ですこと」


「おや、王太女殿下のお気に召しましたか」


「ええ。月光の降るエルフの庭でお会いしたかったわ。きっと幻想的でしたでしょうに」


 にっこり笑顔でやり取りする私の斜め後ろで、リュシアンが「げっ、怖い会話」と呟く。エルフリーデは毅然とした騎士の態度を崩さなかった。これはまだ序盤よ。絶対に向こうから「助けて」と言わせて見せるわ。


「こたび、我が国に足を運んだ理由をお伺いしても?」


「ええ。子ども達が難病で苦しんでいると聞き、シュトルンツの医師を連れてきましたの。お役に立てたら幸いですわ」


「医師? 後ろのエルフ族の方か」


 あくまでも知らないフリをする気ね。いい度胸だわ。私はここで妥協して、あなたに譲歩する気はなくてよ。最後までその嘘を貫けるかどうか、試してみるといいわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ