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【サポーター特典SS】※2022/11/24公開

 女系で血を繋ぐシュトルンツに生まれ、無事に次世代も育てた。手探りながら、実母から継いだ女王としての役目を果たした日々。充実しているけれど、この人がいなければ耐えられなかったわ。


 日当たりがいい天空庭園の一角で、日傘を差して座る私の膝に頭を預けた夫の柔らかな前髪を弄る。忙しい執務や謁見の合間に、ようやく取れた休日だった。前回、丸一日休んだのは半年ほど前かしら。寂しいと訴えられ、仕事を手伝うから休んで欲しいと強請られた。


 夢中になると休憩や食事を後回しにする私を心配し、いつも優しく根回ししてくれる。気づいたらお茶が用意され、お風呂に香油が準備されたこともあったわ。眠れるようにとポプリを枕に忍ばせて、疲れた私を抱き締めて眠った。


 この人に求めるのは、それだけ。ただ私の安らぎであってくれたらいい。寝室を一歩でも出たら、私の周囲は敵だらけ。味方に見える人でさえ、全面的に心を預けることは出来なかった。


 義父に当たるバルシュミューデ侯爵、学生時代の親友だった侍女長のエリーゼ伯爵夫人、母の代から献身するマイヤーハイム伯爵……味方はいる。それでも彼らが裏切った時に対応できるよう、手を打つことはやめられなかった。


 女王は孤高の存在――母の言葉が突き刺さる。頂点に立つ以上、常に誰かが足を引っ張るのだと。高みへ伸ばした手に縋り、しがみついて引きずり下ろそうとする。この地位は継承されるものだけれど、それ以上に私の努力と素質が重要だった。


 甘く見られないよう、女性だからと舐められないよう。常に気を張って行動する。吐く言葉のひとつが誰かの命を奪う可能性を考慮し、婉曲な逃げ道ある話し方を心掛けた。


「起きたのね、エリー」


 エリーアスだけよ。私をただの女性に戻してくれる人、アマーリエでいてもいいと笑う人。誰より愛しい。でも私を裏切り、女王の地位から引きずり下ろす謀略に参加したなら、この手で切り捨てなければいけない人。だからこそ、彼は愚かな傀儡を装う。


 女王の隣にいつも侍り、微笑んで頷くだけの人形の振りをする。甘やかすことに不器用な私の代わりに、子ども達の世話も任せてしまった。長男カールハインツ、長女ブリュンヒルト、どちらも立派に育ったのはエリーアスのお陰ね。


 彼の柔らかな髪を指先で弄り、その青い瞳に見惚れた。


「ずっとマーリエとこうして居られたらいいのにな」


「ふふっ、あと少しよ」


 あなたが立派に育てた嫡女ブリュンヒルトは、多くの手駒を外から得た。しがらみのない実力者を拾って来るのは、意外な手法だったわ。表に出せない繋がりがあるようで、癖のある子ばかり。あの子なりの新しい王政の構築が始まっている。ただね、まだ任せるには不安が大きいのよ。


「心配しなくても、ヒルトはとても上手にやってるよ」


「そうね。同じ年齢だった頃の私より、ずっとしたたかだわ」


 己の跡取りが愚かなら頭が痛い、優秀過ぎても悩ましい。早くに頭角を現し過ぎると、叩かれるのよ。それが王族であっても……次期女王の肩書きを持っていても、ね。だから先に軽く洗礼をしておきましょう。にっこり笑った私に、エリーアスは溜め息をついた。


「嫌われない程度にしておきなよ? 僕はフォローしきれないからね」


「分かってるわ」


 ちょっと爪の先で突いてみるだけ。可愛い悪戯の範囲じゃない? 久しぶりの楽しい遊びに、私は胸を高鳴らせた。私によく似たあの子は、どんな答えを返してくるかしらね。

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