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34.精霊達はあなたを選んだのよ

 翌朝、朝食に集まったエルフリーデは一汗かいた後だった。すっきりした顔で、茶色の髪をポニーテールにしている。往路と同じく騎乗して移動する予定らしい。ドレス姿ではなく、騎士服を身につけていた。


 テオドールは相変わらず澄ました顔で、私達の給仕を行う。用意された珈琲はやや苦めで、ごくりと飲んで顔をしかめる。すかさずミルクが足された。最初から足せばいいのに、目覚まし用にブラックを飲ませたのね? 流石にもう二度寝しないわよ。


 むっとしながら、ミルクたっぷりのカフェオレに口をつけた。砂糖はなし、こだわりのひとつなの。


「大変だ!!」


 飛び込んでくる人って、どうして「大変だ」と騒ぐのかしら。この場にいなかったリュシアンが、タオルに包んだ何かをシャツで覆って持ち込んだ。慌てふためいて入ってきたくせに、扱いはやけに慎重だった。中身は分かってるわ。


「聖杯の本物が現れたんでしょう?」


「え、あ、ど?」


 え? ああ、どうして。省略されたリュシアンの声に、私はカフェオレをもう一口飲んでから微笑んだ。


「だって、そうなるように仕向けたんだもの」


 ここでようやく種明かしだ。


「精霊達が交換してくれたのよ。リュシアン、ちゃんと彼らにお礼を言ってね」


 昨夜、リュシアンが国を出る決意が本物と知った精霊が集まっていた。彼を慕う精霊もいれば、単に聖国のハイエルフ達に愛想を尽かした精霊もいる。彼らの選んだ新たなパートナーが、リュシアンだった。


 持っていて欲しい人のところへ、彼らの象徴とする聖杯を運んでくる。偽物があると告げた私の意図を汲んで、彼らは入れ替えてきたのよ。


「精霊はリュシアンを選んだ。あなたが魔王領の子ども達の運命を握った。さあ、どうするの? あの魔王への恨みと子どもの命を秤にかけるのかしら」


「ぐっ……」


 手にした聖杯を投げ捨てることも出来ず、罪のない子を見捨てる選択も出来ない。したくないことを排除していけば、あなたの望む結果が残るはずよ。


 一度振り被った聖杯をゆっくりと降ろし、リュシアンは天井付近を睨んだ。そこに見えるのだろう精霊達に、へにゃりと眉尻を下げた。


 あなたは自分が傷ついても、他人を傷つける未来を拒んだ人よ。「聖杯物語」で、圧倒的な力を持ちながら自分を追放した国に復讐せず、ただ無言で去った。そんな人が、魔族の子ども達を見捨てるはずがない。


「分かった。でも今回だけだ」


 悔しそうにリュシアンはそう吐き捨てた。


「それでいいわ。テオドール、行き先は予定通りね?」


「はい、準備できております」


 テオドールは私の意思を汲み、同時に自分の仕掛けを利用して魔国へ向かうことを計画した。別に魔国まで巻き込む気はなかったの。もし本物を持っていけば、それなりに同情した精霊が動いてくれたでしょうし。実際、物語の中では子ども達は助かったのよ。


 四つの国の話を私が口にしたのは、テオドールを拾って間もない頃。子どもの作り話だと大人は放置した。すべて聞いて覚えたのは、テオドールだけ。


「事前に教えて欲しかったですわ」


「だって、読んでなかったんでしょう? 説明が難しいわ。250万文字の大作小説だもの」


「それは……無理ですね」


 全部聞かせてもらっても、頭の方から抜けてしまいそう。エルフリーデの本音が混じった呟きに、私は声を立てて笑った。

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