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29.能力を封じて追放が妥当だ

 儀式で使われた聖杯は偽物だった。精霊達がリュシアンに従って黙っていたら、誰も気付けない。ここで重要なのは、リュシアンに従わない精霊がいた事実よ。


 騙されたリュシアンを心配し、良かれと思い口を出した。精霊とは善良な存在で、他者を陥れたり羨んだりしない。だからハイエルフ達の愛憎紙一重の感情を理解できなかった。自分達より優秀と褒められるリュシアンがいなくなれば、彼を罪人にすれば、自分達にチャンスが回ってくる。そう考えてしまった。


 追放劇はなるべくして起きた必然だったの。聖杯物語に描かれるのは、美しい情景描写と、真逆の醜い人々の嫉妬や裏切り。バッドエンドを予定して書いたとはいえ、本当に後味の悪い物語ね。それだからこそ、魅力的なのかもしれない。嘘偽りなく自然の美しさを讃え、同時に人の醜さを嘆く。奥が深い物語だったわ。


「リュシアンは?」


「もしかして彼が!?」


 騒がしくなる神殿から出て来たハイエルフから、不信と欲望が滲んでいた。すぐ近くにいる私達をちらりと視線に入れたが、すぐに無視される。国家の一大事に、他種族の相手をする気はないのだろう。ましてや他国の王族となれば、面倒の火を起こす必要はない。


「リュシアン、答えて」


「聖杯を持ち出したのは、あなたね?」


 詰め寄る人々の声に拳を握り、言い返そうと顔を上げた彼は、私の顔を見て唇を噛み締めた。俯いた彼を責める人々から追放の声が出る。これも小説の展開そのものだわ。


「一族が滅亡したらあなたのせいよ!」


「能力を封じて追放が妥当だ」


 処罰の方法が決まったところで、私はテオドールに目配せした。私の斜め後ろに立つ彼は目立たない。暗殺者として名を馳せる実力者として描かれた彼は、その気配を希薄にした。そっと膝を突き、私のスカートのスリットに手を入れる。


 何年も着替えや入浴を手伝った彼は、スカートの中を見ず足に触れることなく聖杯を手に取った。そう、本物はもっと前に交換しておいたの。そのために3日間も囮役をこなしたのよ。


 本物の聖杯を布に包み、テオドールは数歩離れた位置に駆け付けたエルフリーデに渡した。彼女は精霊の剣を隠したスカートのスリットから、足のベルトへ聖杯を固定する。今回、一番の見せ場がもうすぐだった。


「皆様、ひとまず祭壇の前に戻りませんか? もしかしたら、()()()()があったかも知れませんわ」


 おっとりとした口調で促し、回廊へと人々を導く。仲間であったハイエルフ達の追及で、彼らの裏側を見てしまったリュシアンは顔を歪めて口を引き結んだ。よく我慢しているわ。


 親友だと思った魔王に裏切られ、直後に仲間だったハイエルフに追放を告げられた。その心境は、小説にあった通り黒い感情が溢れているでしょう。今までのいい子だった殻を捨てるチャンスよ。私が欲しいのは、有能な子なの。たとえ推しでも、ただ甘やかして飼うつもりはないわ。


 俯いて無言で従うリュシアンをちらりと振り返り、扇の影で呟く。あと少しよ、あなたの()()()は私が晴らしてあげる――この言葉が精霊越しで彼に伝わることを祈った。

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