20.随分と早急に手を打ったのね
叙爵式は盛大に行った。アリッサム王国の一画を崩す手を打った私と、忠誠を誓うツヴァンツィガー侯爵家の名声は高まる。領地へ戻る侯爵夫妻に、多くの土産を持たせた。それは貴金属や金貨と言った一般的な祝いの品から、食料、街道を整える資財、そして……500名ほどの兵士達。
兵士の中には移住希望を出した者もおり、彼らは家族も一緒に侯爵領の住人となる。大きく兵を動かせば、それだけ早く噂も走る。これこそ私の目的だった。
「随分と早急に手を打ったのね」
「のんびりしていたら、大切な側近候補が倒れてしまいますもの。女王陛下も私の案を承認なさったでしょう?」
「人目がないのよ、お母様と呼んで。ヒルトが継ぐ国だもの。側近候補を他国から集めると聞いた時は驚いたけれど、情報や人を選ぶ目を信じているわ」
隣に並んだお母様は、そう微笑んだ。ツヴァンツィガー侯爵家がかつての領地をそのまま拝領し、新たに我が国となった元公爵領に帰る。見送りに立つ私達王族は穏やかな笑みを浮かべて、手を振った。その話す内容が多少物騒であっても、聞き咎める無粋者はいない。
アリッサム国だった元ツヴァンツィガー公爵領は、大使館への賠償金として回収することが決まった。すでに先行部隊の二個大隊が出ている。国王と王太子がいなくなったアリッサム国は、現在混乱を極めていた。我が国から得ていた食料や資材の援助もすべて止まり、物価が急上昇しているとか。
「素直に渡すかしら」
お母様の言葉に、私はにっこりと笑った。多少黒さが滲んでいても、王族ですもの。仕方ありませんわ。
「渡さなければ、国境が消えるでしょうね」
国ごと吸収され、国境の概念が消える。そうなるべきだし、そうなるように手を打ってきた。布石はこれから生きてくるの。他国は懸念を示しても、反対はしない。もし反対したら、我が国にある自国の大使館が攻撃されても何も言えなくなってしまうから。治外法権への攻撃は、どの国も支持しないはずよ。
「お母様、また留守にしますわ」
「好きになさい。あなたの成功を祈っているわ」
お礼を言って旅立つ人々に手を振り続けた。最後の一人、その姿が見えなくなるまで。これは当然の義務だわ。王家のために働く人々の見送りは、私達が疲れるだけで済むんですもの。これから移動する人達の疲れを思えば、大した労力ではなかった。
「エルフリーデ嬢は残ったの?」
「ええ、両親の見送りのため休暇を取らせました。途中まで同行して帰ってくるそうです」
「大切になさいね」
「未来の騎士団長は私の宝物です」
ふふっと笑い合う私達の後ろで、お兄様は直立不動だった。先ほどエルフリーデ嬢に弟子入りを申し入れたから、お仕置きなのよ。彼女はカールお兄様のために連れて来たんじゃないわ。
「反省なさった? カールお兄様」
「すごく反省した」
「ではこちらへ」
手招きすると、垂れた耳や全力で振る尻尾が見えそう。獣人だったら絶対に犬系よね。そう思いながら兄を軽く抱擁して、お仕置きの終わりを告げた。嬉しそうな兄が後ろにへばりつくのを許したまま、お母様と今後の相談をする。
国際情勢を一番早く知っているのはお母様よ。いろいろと尋ねて、頭の中にある物語のリストと照合した。西側のアリッサム国が片付いたことで、国境を接する南側が何やら騒がしい。動き出したなら、新しい仲間を助けに行かなくてはね。
悪役令嬢も悪役令息も、みんな私のものよ。
「また出かけるのか? ヒルト」
泣きそうな声で縋らないでくださいな、お兄様。王太女と王子が一緒に出掛ける危険を冒せないと知っているでしょう? しゅんと尻尾が垂れた幻影が見えて、可哀想になってきちゃったわ。でも連れていけないから、代わりに少し付き合うとしましょうか。
「お兄様、街へ買い物に出たいの。護衛とエスコートをお願いできますか?」
「もちろんだ! 街は構わないよな、母上」
私と同じ金髪と紫の瞳のお母様は、呆れたと呟きながら許可を出した。でも知ってるわ、お父様に似たお兄様に甘いのよね。
「気を付けて行ってらっしゃい。でも二人きりはやめなさいね」
「ありがとうございます。では参りましょう」
今日は侯爵家の叙爵があり、街中はお祭り騒ぎだ。屋台や広場も賑わっているはず、そう誘いを掛けた私に兄は優雅に一礼した。この辺は礼儀作法を教えてくれた叔父様に感謝ね。筋肉を半分くらいに抑えてくれたら、どこに紹介しても恥ずかしくない王子様なのだけれど。




