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19.王城まで送り届けてあげたらよかった

 テオドールが捕虜の待遇について指示を出した夜、私は髪を梳かれながら報告書に目を通す。影が飛ばしたハトが持ち帰ったのは、アリッサムの王太子エックハルトのその後だった。過去形なのは、お察しいただけるでしょう? 死亡と最後に綴られている。


「思ったより波乱万丈だったわ」


 もっとあっさり自滅すると思ったのにね。そう口にしながら、報告書を丁寧に畳む。これは必要とされれば、エルフリーデに渡すつもりだった。


「どのような内容でしたか」


「目を通していないのね」


 てっきり彼はもう読んだと思っていたわ。一度畳んだ報告書を開いて、要約を話す。その間もテオドールの手は止まることなく、私の髪を梳いて香油を塗し、肌の手入れにも余念がなかった。侍女の仕事を取り上げた状態だけど、私より体温の高く大きい手は心地よい。


「簡単に話すと」


 王太子エックハルトは歩いて石畳を戻った。運よく途中で出会った農民に馬車へ乗せてもらい、乗り心地に文句を言いながら村まで運ばれる。そこで礼を言ってまた歩くなら、彼はまだ王太子でいられたかも知れない。そんな謙虚さも礼儀作法も持ち合わせない男は、愚行に走った。


 城まで馬車を出せと村長を脅したのだ。老齢の村長に食って掛かる男を、農民達は慌てて取り押さえた。不敬だと騒ぐが、擦り切れ埃だらけの姿を誰も相手にしない。ところが同情した村長の孫娘が近づくと、彼女に手を出した。


「ここに関しては、濁した記載をしているわ。つまり同意のない行為だったという意味ね」


 さらりと流した私は、続きも説明しながら紅茶を一口飲んだ。寝る前はカモミールがいいのよ。


 村でも人気が高い少女を穢したことで、怒りを買ったエックハルトは村人に叩きのめされた。抵抗したり口答えするたびに殴られ、最後は股間のアレを切り落とされた挙句に治療せず放り出される。この次の村まで馬車で半日近い距離があると承知の上で、野垂れ死にを狙ったのだろう。


 1日以上歩いてたどり着いた村で、彼は鶏の卵を盗んだ。村では貴重な収入源である卵を3つも盗み食いした男、それも見すぼらしく汚い姿であった。当然ながら泥棒として吊るし上げられ、卵ひとつに付き1日の罰を受ける。


 飲み物も食べ物もない中で、木に縛り付けられて放置される。人々の視線は突き刺さり、その屈辱に耐えかねたのか喚き散らしたらしい。煩いと口を布で塞がれ、2日目の午後に事切れた。


 彼が亡くなると、村人は近くの森に埋葬した。その際、身に着けていた装飾品に気づき、奪ったうえで卵の弁済に当てたという。


「生ぬるい方法だったわ。アリッサム王城まで送り届けてあげたらよかった」


 従兄弟や叔父によって断罪される方が良かったんじゃないかしら。少なくとも死ぬまで王子でいられたわけだし。そう呟いた私に、テオドールは肩を竦めた。


「お嬢様は優し過ぎます」


「そう? 結構残酷だと思うわよ。少なくとも助ける選択肢はないんですもの」


 そこで大きな欠伸をひとつ。カモミールの効果が出たみたいね。テオドールに手を預けて立ち上がり、ベッドに入る。先ほど広げた報告書を畳み直した彼は、ベッドサイドの引き出しにしまった。確認できたのはそこまで。私は静かに眠りの中に落ちていった。

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