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224.褒め殺しは貴族の嗜みよ

「ブリュンヒルト、あとは任せます」


 女王陛下の近くへ寄り、敬愛を込めて挨拶を交わす。夜会の広間を後にすると言い放った女王陛下の表情は、満足げだった。擦れ違う際に頭を下げた私の視界に、陛下のドレスの裾が入る。足を止めたお母様は小声で囁いた。


 ――面白い演劇だったわ。


 私はさらに深く頭を下げる。これが返答だった。楽しんでいただけたなら何よりですわ。お父様が続き、私の髪に触れる。


「無理をしないようにね」


「ありがとうございます」


 お二人とも玉座のある段から降りたら、途端に親の顔になるんだもの。先ほどまで王太女として振舞っていた私の方が、切り替え損なってしまうわ。これが経験の差かな。


「ローゼンミュラー王太女殿下に、キルヒナー公爵アルブレヒトがお目にかかります。我が息子ハインリッヒはお役に立ちましたか?」


 キルヒナー公爵は、穏やかな口調で息子を返してくれと切り込んできた。貴族派が片付いたなら、王族派も引き上げたいのね。実際に王配になれる可能性があるなら、公爵はこんな話をしないわ。私がハインリッヒを王配に選ばない確証があるから、息子を返せと口にした。


「ええ、とても。ハインリッヒは有能だわ」


 補佐官として欲しいくらい。そう匂わせたら焦るかしら。そんな軽い気持ちで話を向ければ、キルヒナー公爵は苦笑いした。


「これはこれは、王太女殿下の周囲には見目麗しく有能な配下が揃っておられる。私の唯一の駒を取らずとも、足りておられるでしょう」


 あら、なかなか良い返し方ね。否定すれば配下の実力が足りないと言ったも同じ。もし肯定したら、ハインリッヒは不要だから返すとも取れる。曖昧に微笑む手もあるけど、ここは貸し借りを清算するのが先決ね。


 見せ物の茶番劇に、跡取り息子を提供した公爵への借りを長引かせると、返すときに高くつくわ。


「あまりに有能すぎて、返すのが惜しく感じてましたの。でも有能な者を手元に集め過ぎると……国が傾きますわね。残念ですが、お返ししますわ」


 各地に有能な配下を置かなければ、有事に動かせない。侍る配下に踊らされ、足下を見ない女王は傀儡も同然。自分でそう口にすることで、キルヒナー公爵家を重要視していると匂わせた。


 目を見開いた公爵は、すぐに破顔してゆったりと礼を取った。大袈裟なほど大きく手を動かし、胸へ当てて腰を折る。女王に対する最敬礼と同じだった。


「あなた様のような跡取りをお持ちの、女王陛下に嫉妬してしまいそうです。我が息子では器が足りません」


「褒め言葉は素直に受け取るようにしておりますの。キルヒナー公爵のような素晴らしい方に手放しで褒められては、自惚れぬよう引き締めるのが大変ですわ」


 狸と狐の化かし合い……ぼそっと呟いたリュシアンが、後ろからテオドールに突かれた。ムッとした顔だが、さすがに騒ぎを起こさず口を噤む。外見通り子どもの振る舞いが多いのに、この広間の誰より年上だなんて、種族の違いだとしても信じられないわね。


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