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217.なぜあなたがお詫びするのかしらね

 勘違いする人も多いけれど、貴族家の令息令嬢と当主では立場が全く違う。爵位の高い順番に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵が並ぶけれど、それより優先される順番があった。


 当主、嫡子、夫人、それ以外の兄弟姉妹よ。まず当主であること、その上で爵位がものを言う。だから子爵家当主のテオドールと、伯爵家の三男に過ぎないニクラスの間には、大きな開きがあった。その上で格下であることを理解せず、己が上であるかのように振舞う。自宅や派閥内なら通用したでしょう。


 王族の前で同じ言動が許されるわけがない。最も厳しく貴族に審査され、貴族を管理する立場が王族なのだから。その一端に名を連ねようという男がこんなに愚かでは、女王である私の価値が下がるの。さらにいうなら、これはひとつの罠だと思っている。そろそろ動くかしら。


「ローゼンミュラー王太女殿下、紹介なくお声がけする無礼をお許しください」


 やっぱり来たわ。ちらりと視線を向けた私の表情は、貼り付けたように麗しい微笑み。王侯貴族の外見の美しさはこのためにあるんだもの。外交で効果を発揮しないなら価値がない。内心を悟らせない笑みに、やや薄くなった頭を下げる男は静かに声掛かりを待った。


 礼儀作法は合格だ。頭髪がやや寂しいが、顔立ちは整っている。ハインリッヒは穏やかな笑みを浮かべて数歩下がり、逃げ出そうとしたニクラスを捕まえた。


「まだ下がれの許可を頂いておりませんよ」


 王族への不敬罪で葬られたいのですか? こそっと囁かれた言葉に、びくりと肩を竦めたニクラスは動けなくなった。私が許可を出さないのは理解できたみたいね。ここで下がりたいと口にするほど愚かなら、そもそもこの茶番の駒にすら使えなかった。


「許しましょう、グーテンベルク侯爵」


 ゴツイ筋肉ダルマの息子ヨルダンと比べたら、もやしのよう。ひょろりと細くて神経質そうな男性だった。長男を授かってから妻を失い、後妻を迎えて次男以降が生まれた。確か二男二女だったわ。狡猾な光を宿したグレイの瞳の鋭さが、カマキリを彷彿とさせた。そっくりね、おそらく中身も捕食系だと思う。


「お心の広い王太女殿下に御礼申し上げます。ハーゲンドルフ伯爵の三男が、なにやら失態を犯しましたか」


「あら、地獄耳なのね。私が能無しの王族と言われただけよ」


 あっさりと欲しがる情報を差し出す。目の前にぶら下げられた餌に、どう食いつくのか気になった。これは貴族派内での勢力争いに、私の伴侶選びが利用された形ね。


 脳筋の息子を差し出し、王族の端くれに据える。王配に発言権や決定権はないけれど、女王が惚れていれば話は別よ。寝室で女王に強請ればいいんだもの。もちろん、その辺は代々女系で繋いだ我が一族も対策してるけど。王配を出したことがない貴族は内情を知らない。


 バルシュミューデ侯爵が、一人息子を王配に差し出して宰相になったと考えたのでしょう。逆よ、宰相家の跡取りをお母様が強奪したの。お祖父様は必死で抵抗して、勝負に負けたと聞いたわ。勝負の内容が気になるけど、教えてもらえなかった。


「何という無礼を! ハーゲンドルフ伯爵家は我が派閥の貴族、お詫びのしようがございません」


 あらあら? せっかく出てきた黒幕なのに、もう失言して尻尾を差し出すなんて。これも罠なら大したものだけど、どう切り抜けるか見たい。


「我が派閥? いつからグーテンベルク侯爵家は、ハーゲンドルフ伯爵家の寄親になったのかしらね」


 さあ、踊り狂いなさい。夜会はまだ始まったばかりよ。

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