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17.お兄様がやられておしまいなさい!!

「エルフリーデは私の騎士ですの。わかりますよね?」


「分かっている! 全力で相手をしよう」


「全然分かってないじゃない!! エルフリーデは疲れてるのよ。なのに主君の私の許可もなく手合わせを申し込むなんて、もってのほかよ」


「執事が許可したぞ」


 はぁ……大きな溜め息が漏れる。額を押さえる私は脳筋過ぎる兄の対応に困惑していた。婚約破棄され、国王相手に大使館を守って戦い、馬車に揺られて遥々たどり着いたばかり。そんな女性に手合わせを申し込む神経がおかしいわ。応じたテオドールがおかしいのは、いつものことだけど。後で叱っておきましょう。


 練習場として作られた広場は、楕円に近い形をしている。以前は円形だったけれど、幼い頃の私がつい「走るのは楕円の方が効率的」と余計なことを言ったらしいわ。実際、学校のトラックがその形だから、理由があるんじゃないかと思って口にしたみたい。


 実際のところ効果はよく分からないけど、広くなったことは評価された。左右に分かれて訓練ができるもの。近衛など王宮に直接所属する騎士が、左側で練習を始めていた。右側が綺麗に空いているのは、カールお兄様が予約したせい。


 王族の特権をこんなところで振り翳すなんて。お母様に叱られてしまえばいいわ。


「手加減は騎士として最低の行為だぞ」


「じゃあ、お兄様がやられておしまいなさい!!」


「ヒルトぉ」


「妹に泣きつくんじゃありません」


 ゴツイ筋肉だるまなのに、シスコンなのよね。お母様や私と同じ金髪で、お父様と同じ青い瞳のカールお兄様は、鍛えすぎて筋肉だらけ。騎士ですらあんなに鍛えないわ。もう鍛えることが人生みたいな人なの。その理由を知っているから、私も最後は甘いんだけど。


 前世の記憶があるせいか、幼い頃から頭痛持ちで病弱だった。そんな妹を心配するあまり、自分が守らねばと気合を入れたお兄様。鍛えているのは聞いたけれど、気づけば脳まで筋肉に冒されていた。


 この国が王太子を擁する男系相続じゃなくて良かったわ。もしお兄様が頂点に立ったら、国が傾く予感しかないもの。私が嫁に行かずに一生支える羽目に陥ったでしょうね。


「ご安心ください、ブリュンヒルト様。筋肉だ……ごほん、王子殿下は私の敵ではございませんわ」


 騎士服に身を包んだエルフリーデは、茶の髪をポニーテールにして微笑む。途中で言葉を濁したけど、やっぱり筋肉だるまに見えるわよね。彼女の緑の瞳をしっかり見つめ返し、振り返って兄の青い瞳を覗く。不思議ね、お兄様が負ける予感しかしない。


「お願いね、エルフリーデ。お兄様を叩きのめしてちょうだい」


「そこは兄を応援するところだろう!」


 悔しそうに地団太を踏むカールお兄様に、私は笑顔で言い放った。


「頑張ってお兄様、もし勝てたら明後日は一日お付き合いしますわ」


 無理でしょうけれど……言わなかった部分を察したエルフリーデはくすくすと笑い、精霊の剣の柄に触れる。向かいで兄が距離を取り、己の剣を確認した。やたら大きく力で振り抜く大剣だ。


「試合開始」


 私の合図で、二人は一礼した。テオドールが運んできた椅子に腰かけ、上から日傘を差しかけてもらう。先に仕掛けたのは、やはりお兄様だった。

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